第31話 戦闘準備
―水曜日 夜 永遠の寝室―
部屋の照明は落とされ、月明かりがレースのカーテン越しに差し込んでいた。
金髪の永遠は、ベッドの端に腰を下ろし、掌の上で淡く光る゛探索の腕輪を゛見つめている。
「……動くのは、まだ先だと思ってたけど。ほんとに、いいのかしら?」
「そうだね。でも、もう時間がないんだ。
こちらの想定以上に――一人への精神支配が進んでる。
しかも、それを“本人が望みつつある”のさ。」
別宇宙の“澪”が。
その声は穏やかで、しかし冷たく響いていた。
「……でも、こちらの“澪”がそれに気づいてる可能性って、あるんじゃないの?」
「あるよ。だから急ぐんだ。」
澪の瞳が淡い紫に光る。
「“探索の腕輪”を通して、解呪ができるはずだ。
それを彼にかざせば、自動的に展開する。君の分にも同調設定してある。
――君にはチュートリアルをお願いするよ。
すぐわかるようにしてあるから、楽しみにしてくれよ。ふふっ」
「……あいつが、それに気づく可能性は?」
「あるね。いや、もう気づいてるかもしれない。
ほんとに“キレる”やつだからね。でも、こちらからもバックアップを送る。」
別宇宙では、永遠は眉を寄せ、俯いた。
「……その後、私、あいつと“闘争”を続けることになるの?
恨まれると思うわ。」
澪はゆっくりと瞼を閉じ、静かに答える。
「――彼の中に“在る者”が目覚めれば、君に味方してくれる。
それで、終了だから。」
その言葉に重なるように、もうひとつの声が部屋に響いた。
「……私が、バックアップしに行くわ。安心して。」
もう一人の“永遠”――黒髪の彼女だった。
―木曜日 深夜未明―
異世界のどこか 廃墟の都市
吹きすさぶ風が、崩れかけたビルの残骸を鳴らしていた。
月の光はぼんやりと霞み、街灯のひとつもない。
そこを――場違いな、セーラー服の少女が二人、並んで歩いていた。
「……ねえ、亜紀。こんなとこに、いったい何があるのよ。
しかも、転移先も教えないで呼び出すとか。殺す気?」
黒髪を揺らしながら、永遠がぼやく。
「うっさい。いいから、ついて来な!」
亜紀は軽く振り返るだけで、手をひらりと振った。
足音だけが乾いた路面に響き、どこまでも静まり返った夜の廃墟に吸い込まれていく。
やがて、二人の前に――異様なほど堅牢な石造りの建物が姿を現した。
それはまるで古代の神殿のようでもあり、軍事施設のようでもあった。
四角く無骨な外観に、巨大な門がひとつ。
永遠は眉をひそめる。
「……なにこれ。文化財? ってレベルじゃないわね」
「ふん。ここの封印、まだ解除法が変わってなければ……」
亜紀が門の前に立ち、静かに右手をかざした。
その瞬間――石門の中央が淡く光を放つ。
金属的な声が、どこからともなく響いた。
『認証――男に媚びる女』
『入室を許可します』
「……はああああああ!? またコレかよ!!!」
亜紀が、顔を真っ赤にして地団駄を踏む。
「くそっ、なんで毎回こんな認証ワードなの!? ナアマのやつ! まじムカつく!!」
永遠が口元を押さえて笑う。
「ぷっ……なにその屈辱的なパスワード…」
門が鈍い音を立てて開く。
冷気が吹き出し、埃と金属の匂いが鼻を刺した。
「いい? ここで見たことは絶対に誰にも喋っちゃダメ。
マジでヤバいもんしか置いてないから」
と、亜紀が真剣な目つきで釘を刺す。
永遠は肩をすくめて、軽く笑った。
「わかってるわよ。どうせまた、ろくでもない“遺産”でしょ?」
建物の中は空洞のように広く、中央に巨大な円形の扉がひとつ。
その横には古びたボタンが並んでいた。
「……エレベーター?」と永遠。
「正解」
亜紀がボタンを押すと、低い駆動音が響き、扉がゆっくりと開いた。
二人は中に乗り込み、「3」と刻まれたボタンを押す。
重力がふっと消えるような感覚――エレベーターが、下へと滑り落ちていった。
「私達“4人の嫁”の中でね――ナアマが、リリスの次に番モテたのよ」
亜紀はニヤリと笑った。
「理由はね。これっ!」
――チン。
到着音とともに、扉が静かに開いた。
永遠は思わず息を呑む。
そこは――まるで兵器博物館のようだった。
壁という壁、棚という棚に、ありとあらゆる武器が並んでいる。
刀、槍、弓、古代の儀式具のようなものから、現代的な銃火器まで。
拳銃、小銃、対物ライフル、ロケットランチャー――。
どれも、魔法陣の刻まれた異様な光を放っていた。
亜紀が皮肉げに笑う。
「ほんと、男ってこういうのに弱いんだよね。
“ロマンだ”とか言ってさ――」
亜紀の瞳が、かすかに紅く光った。
―地下三階 ナアマの武器庫―
金属と油の匂いが濃密に漂う。
無数の武器が並ぶその空間に、永遠の声が弾んだ。
「すごいわ、これ!! 本物の武器庫じゃない!」
彼女の瞳が、宝石のように輝く。
亜紀が腕を組み、少し苦笑しながら言った。
「気に入ったなら、好きなの持っていっていいわよ。どうせ誰も使わないんだし」
「ほんと? じゃあ遠慮なく!」
永遠はまるで子供のように棚の間を駆け回り、片っ端から武器を手に取っていく。
「このナイフ……アダマンチウム製? しかも退魔用の刃文が刻まれてる。
しかもデバフ付き……切りつけられた相手、自然回復できない仕様ね。
わー、これ! すっごくいい!」
目を輝かせてナイフを構え、軽く振ってみる。鋭い風切り音が響く。
「もらいっ!」
小さくガッツポーズを取る永遠に、亜紀は呆れたように肩をすくめた。
「……あんた、迷いなく“殺傷系”選ぶタイプね」
永遠はさらに奥へと進む。
そのとき、亜紀が声を上げた。
「ちょっと待って! 奥は――ナアマ専用エリアよ。認証が必要。使えるの?」
「大丈夫。見たらわかるタイプだから」
と軽く言って、永遠は奥の扉の前で手をかざす。
――「アクセス確認。――認証スキャン開始。」
「まじで!? 本当に反応してる!?」と亜紀が目を丸くする。
だが、永遠は気にせず扉が開くと同時に、奥へと入っていった。
彼女の視線が次々と兵装を捉える。
「このスーツ……! 退魔用の特殊繊維ね。伸縮性がすごい。光学迷彩も!
しかも、魔力干渉を遮断する層構造……理論的には、位相弾でも防げるじゃない」
そう言うやいなや、永遠はためらいもなく服を脱ぎ、スーツを素早く着込み始めた。
「ちょ、ちょっと!? ここで着替える!? 私、いるんだけど!?」
亜紀が顔を赤くして背を向ける。
「え? あ、ごめん。でもサイズぴったりなんだもん。
あ、ブーツもあった! これも退魔用素材ね、滑り止め完璧!」
ぱんっと音を立ててブーツを履くと、くるりと一回転してポーズを取る。
「どう? 似合う?」
「……似合ってるけど、いろんな意味で怖いわ、あんた」
永遠はまったく気にせず、次に棚の上段へ目を向けた。
「この銃……すごい。魔力駆動式の化学弾を発射できる構造。
しかも魔導加速モーター付きのライフルに、同規格の拳銃まで! こっちはサイドアームね」
彼女は慣れた手つきでマガジンを確認し、弾を込める。
そして、構える。
銃が低く唸り、青白い光が走った。
「ソウル・オーセンティケーション――開始」
「一致率――98%。使用を許可します」
無機質な声が響く。
「……えっ」
一瞬、時が止まった。
「い……一致率、98%って……あんた!!」
亜紀が叫ぶ。
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