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第29話 澪ファースト

―次の日 放課後 図書室にて―



 放課後の図書室。


 ページをめくる音と、鉛筆の走る音だけが静かに響いていた。


 差し込む夕陽が、永遠の金髪を淡く照らしている。


「ねえ、一人」

 隣でノートを閉じながら、永遠が少しだけ体を傾けた。


「土曜日、空いてる? 来週から中間テストでしょ。一緒に勉強しない?」


「えっと……ごめん」

 一人は少し言いづらそうに目をそらす。


「姉さんがさ、月永さんとは学外で会うのを嫌がるんだ」


「……そう」

 一瞬だけ、永遠の笑みが固まる。


 けれどすぐに、彼女はいつもの柔らかな笑顔を取り戻した。


「なら、部室は? それか教室でもいいわ。課外が終わったあとに。」


「それなら、いいよ。いつもの延長だし」


「……うん。じゃあ土曜日にね。」


「うん」


「お礼に、おやつでも用意しとくわ」



 そう言って微笑んだ永遠の笑顔が、少しだけ切なく見えた。


 ――図書室の空気が、夕陽に溶けるようにゆっくりと流れていった。




 ―その日の夕食時―


 テーブルの上には、炊きたてのご飯と味噌汁、焼き魚、納豆

 澪はエプロン姿のまま、無言で納豆をかき混ぜていた。



 ――その動きが、やけに荒い。


「土曜日ね。課外終わったら、月永さんと2人で教室で勉強するよ。

 一応、報告しとくね。」


 と、何気なく告げる一人。


「ふーん……」

 その声は低く、冷ややかで。



「それは楽しみだねぇ。許嫁がいるのに、“きれいなクラスメート”と2人っきり。

 一体、なんの勉強するんだろうね?」


 その視線は、完全に“氷属性”であった。


「や、やましいことなんてないよ。本当に勉強だけだし!」


「ふ〜ん。甘いな〜、男子って。」


 澪は味噌汁をすするふりをして、目線を逸らす。


「そんな訳ないじゃないか。彼女の家なら、家庭教師くらい雇えるじゃない。

 わざわざ放課後に2人きり? おかしいと思わない?」



「うーん、でもさ。月永さん、なんか友達少ないみたいだし……

 そういう交流したいんじゃないかなって。」


「ふーん……」

 澪は返事をしながら、ぷくっと頬をふくらませた。



「まあ好きにすれば? “嫁”の僕をほっといてさ。」


 ――その声が、ほんの少し震えていた。




「そういうわけじゃないよ。」


 と、一人がまっすぐに言葉を重ねる。


「僕にとっての一番は“澪”だから。家族だからね。

 澪が嫌ならやめる。その順番は間違えない。


 僕にとっての“オンリーワン”だから……澪には嫌われたくないんだ。」



 澪の手が、箸の上で止まる。


 頬の赤みが、夕焼けよりも濃くなる。


「そ、そう……なら……いい……」

 と、俯く澪。


 声は震え、指先は小刻みに動いていた。


(……そんな言い方、ずるいよ)

(“オンリーワン”なんて言われたら、ダメって言えないじゃない……)


 澪は心の中で小さくため息をつき、

 そっと湯気の立つ味噌汁をすすった。




 ーその日の深夜ー



 澪はソファーの上で、天井を見つめながら考えていた。

(うーん……永遠のやつ、絶対なにか仕掛けてくるつもりだな)




 ーー脳内会議、開催ーー


 ー澪(喜)「だろうね。おそらくは土曜日かな。一番時間が取りやすいし」


 ー澪(悲)「でもさ、“澪が一番”って、ついに言ったね」


 ー澪(怒)「だな。もうこれ“好き”ってことだろ」


 ー澪(悲)「それは、家族としてじゃないかな……」


 ー澪(喜)「そうとも言えない気がする。少なくとも“澪ファースト”だし」


 ー澪(怒)「ついにここまで来たか。もう一押しだぜ!」


 ー澪(悲)「そうだといいけど……」




「……いかん、連日の脳内会議で、眠い……これも一人のせいだ。ここ何日か全く寝てないし……」


 フラフラと立ち上がり、寝間着のままベッドへとトボトボ歩いていく。


「いやほんとに……寝落ちしそう……ベッドまで保つかな……」


 そしてドアを開け、布団に潜り込んだ。






 ー翌朝ー


 一人は寝返りを打ちながら、ふと違和感を覚えた。


 ……なにか、手に柔らかい感触が。


「……あれっ? なんか……うん、この柔らかい感触、なに……?」



 まるで――女性の胸のような。


「な、なにっ!?」


 寝ぼけ眼をこすった瞬間。



「うーん……もうっ……」

 甘い声とともに、ギュッと抱きしめられ、足が絡みつく。



「えっ!? ええええええええーーーーっ!!!」と一人。



「うんっ……なに……なに?」


 澪がゆっくりと目を開け、そして状況を理解した瞬間――。



「うわーーーーーーーっ!!!」

 ドガッと蹴りが炸裂。



「いったぁ……っ!」



「きっ、君というやつはっ……僕のベッドに忍び込むなんて……!」

 澪は顔を真っ赤にして叫びながら、しかし視線を逸らす。



「で、でも……まぁ、君も男なんだ……うん……言ってくれたら……」

 と小声になり、俯いた。





 ーー沈黙。



「いや、ここ僕の部屋なんだけど……」



「………」

 目が泳ぐ澪。


(……ここは、やり切るしかない!)



「し、知ってるよっ! ぼ、僕は冷え性だ、だからねっ! “弟”を湯たんぽ代わりに、し、しただけさっ、うんっ!」



「……無理あると思う……」


 こうして、気まずすぎる朝が始まった。



☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


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