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第28話 澪の戸惑い(2)

 ー深夜・ベッドの上ー



 天井を見上げたまま、澪は布団の中でゴロゴロと転がっていた。

(……また見られた。見られた。見られたぁぁぁ……!!)


 枕に顔を埋め、ジタバタと両足で布団を蹴る。



 ー澪(怒)「いいじゃねぇか!!いっそ一緒に入っちまえばよかったんだよ! 

      うろたえるなって、たかが裸見られたぐらいで!」


 ー澪(悲)「そういう問題じゃないよ……お互いに、裸、見せ合ったんだよ!?

      もう夫婦だよ、これ!」


 ー澪(喜)「仕方ないよね。事故だし、しかも今回は……こっちから入ってるし」


 ー澪(怒)「だろ!? 一緒に入ってさ、

      『お前、俺を抱くぐらいの度胸見せてみろよ!!』

      って言ってやりゃよかったんだよ!!」


 ー澪(悲)「言えるわけないでしょ!! 求められてこその女なの!!」


 ー澪(喜)「それは同感」


 ー澪(怒)「じゃあ、このまま停滞だぞ!? いいのか!? 

      一生“同居人”のままだぞ!?」


 ー澪(悲)「……確かに。だって、いまだに

      『好きです』も『付き合ってください』も言われてないし……」


 澪はベッドの上で天を仰ぎ、天井に向かって手を伸ばす。


 「そうだよね、今、どういう関係なんだろ。僕が一方的に好きなだけ……?

 でも、“嫁”になるの拒否してないし……いや、もう、事実上……」


 ー澪(喜)「うん、聞くしかないよね。でもさ、一人の気持ち関係なくない?」


 ー澪(悲)「いや、関係あるでしょ!? ちゃんと“相思相愛”になりたいの!!」


 ー澪(怒)「でも嫌われてはない! むしろ、刷り込み済みだ!」


 ー澪(悲)「家族としての感情でしょ、それは!! 私は恋人になりたいのっ!」


 ー澪(喜)「でも今でも恋人みたいなもんじゃない?」


 ー澪(悲)「ちょっと違うんだよぉ……なんか熟年夫婦っぽいの!」


 ー澪(怒)「よくねぇか、それ!? 通じ合ってるってことだろ!!」


 ー澪(喜)「うん、通じ合ってる。安定感ある」


 ー澪(悲)「ちがーう!! 私、初々しさが欲しいの!!

      イチャイチャしたいの!!!」


 ー澪(怒)「いや、裸見せてキョドってた時点で、充分初々しかったぞ!!」


 ー澪(統合)「……テンプレ展開」


 澪「出たな!? お前まで言うかっ!!」



 枕に頭を埋め、ジタバタジタバタ。


「もーやだぁぁぁ!!!」と小声で叫んだあと、ようやく落ち着いて天井を見上げる。




 そんなふうに悶々と考え続け――


 気づけば夜が明けていた。




 ー翌朝 澪のマンションー


 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋にやわらかく広がる。


 昨夜の微妙な空気を引きずったまま、ふたりの朝がはじまった。


「お、おはよう……」


「う、うん……おはよう……」

 声のトーンが、まるで中学生の初デート前。


 二人とも寝癖がついているくせに、どこかよそ行きの表情だ。


「ご、ご飯、食べようか……」と澪が言う。


 けれど、一人と目を合わせない。



「う、うん……」と一人も、どこかぎこちない。


 テーブルには、いつもの朝食。


 ご飯、味噌汁、目玉焼き、ウインナー、納豆。


 ……見た目は平和そのもの。


 なのに空気だけが、微妙に甘苦い。


 ぱく、ぱく。


 カチャ、カチャ。


 沈黙が味噌汁の湯気よりも濃い。


「あ、あのさ……昨日はさ……」

 一人が勇気を振り絞って口を開く。



「いいよ。事故だろ、あんなの。」

 澪は俯いたまま、納豆をかき混ぜる。



 ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる……。

 混ぜすぎて泡立ってきた。


「まあ……サービスさ。気にすることないよ。」


 言葉は軽いのに、声の震えがぜんぜん軽くない。


 納豆はもはや液体。


「うん、そのさ……」


「なんだい。」



「……綺麗だった。とても。」


 しん、とした空気。




 そして、次の瞬間。



「なっ……あわっ!? あわわわあわわああっ!!!」

 澪が湯気を吹き飛ばす勢いで噴き出した。


 顔、真っ赤。耳まで真っ赤。ついでに心臓の音まで聞こえそう。


「なななな、なに言ってんの!朝から何言ってんのよ!?!?!?!?」

 声が裏返る。目が泳ぐ。スプーンがカタカタ震える。


「い、いや、もしかして……気持ち悪いって思った?」

 おずおずと尋ねる一人。


「い、いや……そんなこと……ないけど……」

 澪の声が小さくなっていく。



 頬を染め、目を逸らし、納豆の粘りでごまかすように。

「……ありがと。」


 それだけ言って、俯いたままご飯を一口。


 それでも手が震えて、ウインナーが箸から逃げた。


(澪:な、なに言わせるんだ!もうっ!!バカ……バカバカ!!)

(……でも、嬉しい……なんか、すごく、嬉しい……)


 一人はそんな心の声を知らないまま、味噌汁をすすっていた。




 

 そんな、やたらと初々しくて、

 やたらとぎこちない、

 けれどちょっとだけ幸せな朝のひとときだった。







 ―別宇宙・澪のマンション―


 次元の境界をまたぐように、

 静かな部屋の中央で“次元の宝珠”が淡く脈動していた。



 中に映るのは――朝の澪と一人。


 湯気立つ味噌汁、赤くなる頬、そして……甘酸っぱすぎる空気。



「……あのさ」

 画面を凝視していた永遠が、ポツリと口を開く。


「私たち、朝から……何を見せられてんの?」



 ーー沈黙。


「……うん……」と全員。


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