第18話 ソーセージパーティー
――次の日の朝。
目が覚めると、すぐ隣で彼女の寝息がまだ聞こえていた。昨夜のことを思い出すと、胸の奥が熱くなって、直視できない。そんな気持ちを振り切るように洗面を済ませ、ダイニングへ向かうと、ちょうど彼女と鉢合わせた。
「おはよう」
あっけらかんとした笑顔。
「お、おはよう……」
思わず視線をずらす。あんな綺麗な子と一緒にいるのが、まだ信じられない。
「朝ごはん、かな?」
僕たちは二人並んでダイニングテーブルに座る。
「パンで良かった?」
「うん、ありがとう」
「コーヒー入れたけど? 紅茶派だった?」
「コーヒーがいい。ありがとう」
――なんだろう、まるで新婚さんみたいだ。
「いただきま〜す」
彼女が手を合わせるのに倣う。
テーブルの上には、パンとコーヒー、目玉焼き、そして――献血パック!?
「えっと、それ……」
「ああ、私、朝はこれ!」
彼女は平然と答える。「やっぱりO型だね。起き抜けはこれが一番!!」
そう言って、ゼリー飲料のようにストローを突き刺し、音を立てて吸い始めた。
「この適度な雑味がいいんだよ。たまにさ、病気持ってる人のだと、不味ぃったらないけどね」
あっけらかんと話す彼女。どこでそれを手に入れたのか、考えないほうがいいだろう。
「今日は、どこ行こうか? それとも、一日中映画見る? おうちデートもいいよね。お互いのおすすめ観てさ。そうしようか」
「いいね。ジャンルごとにやってみようか。でも、あんまり尖ったのとか、低評価ギリギリのはなしで」
「え〜、せっかく“メタルマン”とか“トランスーモーファー”とか考えてたのに」
(うん……それ、観たことないけど。苦行だよな。ある意味、刺激的かもしれないけど)
小さなやり取り。軽口を叩き合う会話。
――あれ、これって完全に、彼氏彼女みたいじゃないか。
テーブル越しに目が合った瞬間、彼女の笑顔が一層近く感じられて、胸がまたドキドキと騒ぎ出した。
映画対決
「じゃあ、一人三本ずつで。ジャンルは――」
僕は指を折りながら整理した。
「1本目、SF。2本目、スーパーヒーロー。で、夕食後に海外アニメ。これでどう?」
「了解。ふふん、もうラインナップ決めてあるし、負ける気がしないわ」
永遠は小悪魔的に笑って、挑発してくる。
なんだこれ、まるで本当に恋人同士のゲームみたいだ。胸が落ち着かない。
1本目:SF対決
「じゃあ、最初は僕が先攻ね」
「どうぞどうぞ。せいぜい悩みなさい」
「いや、悩む余地なし。《バック・トゥ・ザ・フューチャー》。SFの金字塔」
「ほぉ…王道、鉄板。わかってるじゃない」
永遠は両手を組んで満足そうに頷いたあと――
「でも私の一手には届かないわね。《第9地区》」
「……し、渋すぎる」
思わず突っ込む。
「ていうかそれ、めっちゃ面白いじゃん。ずるいよ!」
「ふふん。チャッピーと迷ったけどね。あえてのコレ。負けないわよ?」
2本目:スーパーヒーロー対決
「次は私が先攻ね」
永遠は不敵に笑って指を鳴らす。
「《ブレイド2》。これに勝るものなし」
「うわぁ…また絶妙に渋いとこ突くなぁ」
「だって私と同じデイウォーカー。主演の顔がたまに鈴木雅之に見えるとこもポイント高いわ」
「ちょっと待って永遠ちゃん。ブレイドはヴァンパイアハンターだからね? 君はむしろ《3》のラスボス側だから」
「えへへ。言われてみればそうね」
彼女は楽しそうに目を細める。
「じゃあ僕は――《ダークナイト》。バットマン史上最高傑作」
永遠の瞳が一瞬きらめいた。
「やるじゃない。マーベルVS DCで真正面からぶつけてくるとか、分かってるわね」
最後の大勝負:アニメ映画
夕食後、照明を少し落として最後のジャンルに突入した。
「トリを飾るのは僕から。……《シング》!」
「ほう」
永遠が眉を上げる。
「うん。もう文句なしの王道。観たら絶対楽しい、間違いない」
「いいチョイスだけど――」
永遠はゆっくりと口角を上げ、椅子に身を預けた。
「ふふふ、お子様ね。ここで切り札。《ソーセージパーティー》」
「え、ちょっ……待って、それラストに持ってくるやつ!?」
「ふふ。上映後、どうなるかは……お楽しみ」
小声でそう囁いた彼女の横顔は、どこか危険な色気を帯びていた。
エンドロールが流れ終わる頃、僕はなんだか背中がむず痒くて落ち着かない。
横を見ると、永遠はいたずらっぽく笑っている。
(……今から私の「ソーセージパーティー」だわ。ぐふふふ)
彼女の心の声が、まるで聞こえてきそうで。
僕は無意識に喉を鳴らした。
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