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第24話 初めての同棲(2)

――数日後――早朝、教室にて



 朝の光が窓ガラスを斜めに走らせ、教室の机と椅子に柔らかな影を落とす。


まだ空気が眠っている時間帯。制服の袖に朝の冷たさが残る中、一人が教室のドアを開けると、すでに永遠がそこにいた。


「おはよう 月永さん ここ数日、休んでたね。もういいの?」と一人


「おはよう ちょっといいかしら」と永遠が


「なにかな?」と一人


 永遠の顔には、どこか不安と期待が混ざったやわらかな色が漂っている。


欠席がちだった日のことを気にしているのだろう。だが、その声は落ち着いていて、淡い決意すら含んでいた。


「ここ数日休んでいたから、ノートを写させてほしいの。それと、よければ勉強教えてくれないかしら?」と永遠


「うん、いいよ」と一人


 短い会話。だがそこには互いの距離をはかるような慎ましさがある。

永遠は一瞬ほっとした表情を見せて、それから顔を少し上げる。


「じゃあ、放課後 図書室ではどう?」と永遠


「うん いいよ 部活は今日は無いしね。」と一人



 ――放課後 図書室にて


 薄暗い本棚の間、紙の匂いと静寂だけが支配する場所。


 ふたりは小さなテーブルを挟んで並んだ。

教科書のページをめくる音が、ときどき図書室の静けさに溶けていく。



「ここはね。ここを代入して…そうすると…」と一人


「ごめんなさい。数学はあまり得意ではないのよ。」と永遠


 永遠の声は申し訳なさげで──そのうちに、どこか可憐ささえ宿っていた。教科書の行間に、二人だけの時間が生まれる。


「古文の活用系なんだけど…」と一人


「実は、帰国子女なの。国語も苦労してるのよ」永遠


「どこの国なの?英語も苦手みたいだけど…」と一人

(そもそもの基礎学力が、ないみたいだけど…)


 永遠は少し目を伏せ、ぽつりと答えた。


「ええ、ルーマニアの方なの。でも、田舎で、訛りも強くて…」と永遠


「そうなんだ。でも、これだけ日本語ができるなんて、すごいね。」と一人


「ふふっ そう?」と微笑む永遠


 その笑みに、一人の胸のどこかが、ほんの少しふわりと緩む。


 言葉少なでも分かり合える気配が、静かに育っていく。



 帰りしな、図書室の入り口で永遠が足を止めた。夕暮れの廊下に、二人の影が細長く伸びる。


「また、よかったら、時間取ってくれない?あまり友達もいないのよ。馴染めなくて」 と永遠


「うん、いいよ。じゃあ」と一人


 そのやり取りは簡潔だったが、二人の間に暖かい約束がぽつんと生まれたようだった。


 一人の背中を見送りながら、永遠は小声で呟く──誰にも聞かれないように、でも確かに自分のために言うように。


「さて、どうやって距離を詰めようかしら…うまくやらないと。あいつとは、しばらく殺りあうのは控えないといけないし…」


 その言葉の端に含まれるのは、戦略と照れの混じった計算だった。


 永遠の目は、夕焼けに溶ける教室の窓に向けられている。策を練る少女の背中は、どこか膨らんだ可能性を秘めていた。




 ――澪のマンションにて――


 夜。


 キッチンから漂う香ばしい肉の匂い。


 ご飯、味噌汁、肉汁あふれるハンバーグ、サラダ――いつもの澪の手作りだ。


 テーブルには湯気が立ちのぼり、蛍光灯の光に照らされて少し眩しい。


 二人は向かい合って座り、「いただきます」と同時に手を合わせる。


 その瞬間、澪の作ったハンバーグがじゅわっと音を立てた。


 箸を進めながら、一人がふと口を開く。


「今日さ、月永さんと一緒に、勉強したんだよ……澪、なんか月永さんのこと、あまり好きじゃないからさ、報告まで。


 勉強だけね。特に何もなかったよ。世間話もほとんどしてないし……」



「――あいつと!!」

 箸の先が止まる音が、ピシッと響いた。


 澪の眉がピクリと動く。


「あいつには関わるなと言ったよね。それも、君との距離を縮める手口さ。お人好しもすぎると馬鹿だぞ!!」


「うーん、なんか利用するっていう感じじゃないけど……クラスメートに頼まれたら、このくらいするでしょ」と一人。


 その言葉に、澪はスプーンを置いて深くため息をついた。


「いいかい!! もう関わるんじゃない。」


 声が少し震えていた。怒っている、けれど――その奥にあるのは不安だ。



「でもさ、映画研究会の部員じゃない。それこそ無理だよ。」


「ふん 近い内に辞めるよ」と澪が吐き捨てるように言う。


 沈黙が流れ、時計の針の音だけが響いた。


「プライベートでは会わない。それと会うときは報告するから」と一人。


「ふんっ 好きにすればいいさ! でも、学校内だけだからね。いいかい」と澪。


 その言い方は強気だったが、視線はどこか泳いでいる。


 まるで、自分でも何を守りたいのか分からなくなっているようだった。


「うん、そこは澪の気持ちを尊重するから。僕にとっては澪の方が大事だからさ」


 一人がさらっと言ったその一言に、澪の動きが止まった。



 味噌汁の湯気が、二人の間をやわらかく包む。


「そ、そうかい……」


 小さく呟きながら、澪は箸を握る手をぎゅっと強くする。


「いい! 気を許しちゃだめだから」


 そう言いながら、俯いて――顔を赤く染めていた。


(たまに、こういう殺し文句、無自覚に言うんだよ。こいつは)


 湯気の向こうで、彼女の頬がほんのり光る。


 その横顔を、一人は気づかないまま「うまいな、今日の味噌汁」と言って笑った。



 その笑顔に、澪は小さく息をのむ。


 ――まったく。こういうところが、ずるいんだから。



☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


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