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第16話 初めてのお泊り(2)

 荷物を置いたあと、二人でスーパーへ向かう。


 傍から見れば、どう見ても恋人同士。


 だが心の底から素直に喜べるはずもなかった。


 実態は――「飼い主とペット」、「捕食者と被食者」。


 怒らせれば待っているのは、確実な“死”。



 ……それでも。


 横を歩く彼女は、可愛らしく、綺麗で、どこか夢のようで。


 普通なら、会話すら交わせない距離感の存在が、今は隣にいる。


(今のところは……殺される気配なんてない。だいたい、本当に殺すつもりならもっと早くやってるはずだし)


 そう言い聞かせつつ、僕は食材と飲み物をかごに入れていった。


 買い物を終え、マンションへ戻ろうとしたそのとき――


「あれっ、永遠じゃん!」


 突然声をかけてきたのは、同じクラスの女子、マキだった。


「あっ、マキ。こんなとこで珍しいね」


 永遠が笑顔を作る。だがその笑みの裏に潜む圧を、僕は見逃さなかった。


「横にいるの!? なんで……えっ、うそっ」


「ごめんだけどさ〜、みんなには黙っててよ。付き合い始めたばかりなんだ〜。ねっ?」


 永遠は僕の方へと視線を向ける。


その視線は「わかるよね?」と無言で迫ってきた。


「えっ、あっ……そうなんだ。ふーん……まあ、いいんじゃない? お邪魔しちゃ悪いし。じゃあね」


 マキは何やら含みのある笑みを浮かべて去っていった。


 胸の鼓動が速くなる。


どこまで信じられたのか、どこまで誤魔化せたのか――。



「じゃあさ、なんか観ようよ」


 永遠が何でもないように言う。


「……おすすめは?」


「一人のおすすめでいいよ。ただし上映時間は三時間以内でね」


 夜道を並んで歩きながら、永遠は無邪気な口調で言った。




 ――スーパーからマンションまでの帰り道。



 商店街の灯りを抜け、少し暗がりの残る通りに差し掛かったときだった。


  足音が止まる。



 僕の目の前、LEDの街灯に照らされて浮かび上がる人影があった。


 いや……一人ではない。二人、三人、もっと――数人の影が、こちらを待ち構えるように立っていた。


  他に人影はない。



 通りには、不気味な静寂が広がっていた。


  少しずつ距離が縮まる。



 そのうちの一人――少女が、永遠に声をかけた。


「永遠……そいつ、あんたの何なの? ねえ」


 挑むような眼差し。


 永遠は僕の腕を引き寄せ、にやりと笑う。


「マキ〜、彼氏に決まってんじゃん。私だけの“彼氏”だよ」


 ――か、彼氏!?


 心臓が喉から飛び出しそうになる。


 マキと呼ばれた少女は、唇を吊り上げて冷たく笑った。


「そいつ、こっちに渡しなよ。わたしたちの“押し”なんだ。みんなのアイドルなんだよ」


 その瞬間、周囲の数人が一斉に口を裂き、鋭利な牙を剥き出す。


 瞳は血のように赤く輝き、闇の中で怪物の輪郭を浮かび上がらせた。


 一斉に永遠へと襲いかかる――。


  だが、永遠は一歩も動かず。


 次の瞬間、彼女の腕が薙いだ。


 それだけで、怪物たちの体は灰となり、夜空に散った。


 残されたのは、マキひとり。


 永遠は赤い瞳を細め、口角を上げる。


「……あんたが人外なのは知ってたけど」


 マキの瞳が怒りに燃える。


「殺してやる」


  彼女の体から、どす黒いオーラが噴き出す。


 肌は褐色に変わり、背中からは漆黒の翼が、額には禍々しい角が生えた。


 少女の姿は完全に怪物へと変貌していく。


 だが永遠は、喜悦に満ちた声で応じた。


「いいじゃない。いいじゃない。やろうよ、マキ。……でもこいつは“私の男”、私だけの男だからな」


  彼女の全身を、影が覆った。


 大地を震わせるようなどす黒いオーラ。


 巨大な黒翼が背から広がり、腕は爪となり、もはや人間の形を失った“影の化け物”へと変貌する。


 そして――両者がぶつかり合う。


  轟音。


 永遠の影はマキの頭を鷲掴みにし、そのままビルの壁へ叩きつけた。


 コンクリートが砕け、火花が散る。


 マキの頭が壁にすり潰され、削れていく。


  永遠の影はその首に噛みついた。


 真っ黒な血のような液体が四散し、宙を舞う。


「くはははっはは!」


 永遠の影は歓喜に叫び、両手を天へ突き上げる。



 まるで夜空を突き破るかのように――。



 ……一方的な鏖殺は、あっけなく終わった。



 足が震える。



 僕は、それを見ていることしか、出来なかった。


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