第47話 パシフィック・リム(2)
――咆哮、天地を裂く
「グァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
邪竜の咆哮が、山を揺るがす。
火山灰が空を覆い、吹き荒れる衝撃波が木々をなぎ倒す。
その振動が、白銀の巨神の装甲にも伝わった。
金属が軋み、空気が震える。
まるで世界そのものが、二つの“神話”を目撃しているようだった――。
――司令室・防衛拠点
緑の軍服を着た青髪の女性が、巨大モニターの前で静かに息を吐く。
その瞳に映るのは、邪竜と機神。
荒ぶる自然と、冷たく輝く鋼鉄が交差する。
「この防衛線を突破されたら……大陸が、焼き尽くされる。
何としても、ここで止める」
指揮官《白雪 澪》の声が、緊迫した空気を貫く。
赤髪の軍人が報告する。
「パイロットのシンクロ率、平常です!」
ツインテールの分析官も続ける。
「敵は現時点で《ニーズヘッグ》一体のみ。
しかし……熱源反応が不安定です、第二波の可能性あり!」
「……もう一機は出せそうか?」
「はい。パイロット、すでに搭乗中。神経接続、最終段階です!」
別モニターが切り替わる。
そこに映るのは、無数のケーブルに繋がれたひとりの女性――。
流線型の赤いスーツ、露わなライン。
全身を走る伝導ケーブルが、鼓動に合わせて微かに光る。
「……永遠、行けるか?」と澪が問う。
「ええ。神経同期、あと3%……
――同調完了ッ!」
電流が走る。
その瞬間、彼女の瞳が閃光のように輝いた。
――ソウア山
白銀の巨神。
その胸のタービンが唸りを上げ、空気を震わせる。
内部、コックピットには二つの影――。
男と女。
どちらも青い神経接続スーツを纏い、幾つものプラグが背骨に刺さる。
女性の方は、鍛え抜かれた肢体に密着するスーツ越しに筋肉と曲線を描き、
その存在だけで戦場が色づくほど、異質な美を放っていた。
「まだ攻撃許可が出ないのかッ!」
女性パイロット《アウレリア》が、怒気を込めて叫ぶ。
「こちら白雪。攻撃許可――降りた。
使用武装、制限解除。好きに暴れろ」
「聞いたな、一人!」
「おう、暴れるか!」
二人の動きがシンクロする。
その瞬間、機神の拳が閃光を纏った。
『ロケット噴射、起動』
AIの無機質な声と同時に、
《ストライク・ハリケーン》の肘部が爆炎を噴く!
「ストライク――ッ! ハリケーン・スマッシュ!!」
拳が雷鳴とともに加速し、邪竜の顎を直撃。
閃光。爆音。山肌が裂ける。
邪竜の巨体が地に叩きつけられ、黒い血が爆ぜる。
しかし――
倒れたはずの巨影が、再び立ち上がる。
全身に紅蓮のオーラをまといながら。
「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
その咆哮は、もはや災害そのもの。
人の理を超えた、絶望の音だった。
―その時、空が哭いた。
邪竜の咆哮が大地を揺らす、その刹那――
天が、燃えた。
火口の上空に亀裂が走り、そこから、
無数の紅蓮の影――サラマンダー種が、炎を纏いながら降り注ぐ!
「グギャアアアアアアア!!」
灼熱の尾を引き、空を裂いて舞い降りる炎の群れ。
――司令室
「レーダー反応確認!」
軍服姿の女性が、振り返りざまに叫ぶ。
落ち着き払った声音。
――彼女の名は、《りり》。
「中型クラスの敵影、20! 推定、邪竜の眷属と思われます!」
白雪 澪が即座に命令を下す。
「よし……第二機動兵装、《ブラッド・レイン》出撃!」
「了解。《ブラッド・レイン》、発進ッ!」
轟音。
地面が裂け、灼熱の噴煙とともに、
**真紅の機神**がその姿を現した。
――赤の閃光、降臨。
白銀の《ストライク・ハリケーン》より一回り小さく、
スリムで流線的なボディ。
背には大型推進ポッド、両脚は鋭く伸び、まるで空戦用の翼竜のよう。
胸部中央のタービンが唸りを上げ、
頭部には――一つ目のセンサーアイと、流星のように尖る二本の角。
「《ブラッド・レイン》、永遠。発進します!」
永遠の声と同時に、機神は地を蹴り、
背中のロケットブースターが灼光を放った。
赤い閃光が空を裂き、蒼天を駆ける――!
バイザーに映るのは、無数の中型サラマンダー。
「目標確認……20体。了解、攻撃許可を求む!」
『攻撃許可する。全武装、制限解除』
澪の声が、司令室に響く。
「ミサイル発射――!」
音声認識と同時に、胸部のハッチが開く。
内部から光のようなミサイル群が放たれた。
無数の弾道が、炎の空を切り裂く。
次の瞬間――
爆炎が咲き乱れ、サラマンダーの群れが次々と墜ちていく。
「全弾命中。残敵、5体!」
通信機越しに、軍服姿の《彩花》が報告。
永遠が息を吐く。
「……なら、剣で決めるわ。セイバー、起動!」
『セイバー、起動します』
機体右腕が変形し、プラズマ光刃が展開される。
真紅の光が尾を引き、空を斬り裂く。
サラマンダーが咆哮する間もなく、次々と四散――!
「敵、全滅まで残り1!」
機体が急旋回、残る一体を両断。
赤い残光だけを残して、空が静まった。
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