閑話休題 次元の宝珠
―映画研究会部室にて―
部室の空気は、いつになく張りつめていた。
澪と伊空が向かい合い、机の上の一点を凝視している。
――それは、“次元の宝珠”。
先日の打ち上げでセラから渡された、異世界の報酬だ。
澪が両手を翳し、ゆっくりと魔力を流し込む。
青白い光が宝珠の内部で渦を巻き、
やがて――空間が、ひらいた。
「……おお」
伊空が思わず息を呑む。
投影されたのは、無限に広がる多元宇宙の断片。
未来と過去。
文明が崩壊した都市、太古の恐竜が跋扈する大地。
そして、見たこともない異星人の影。
それらが、宝珠の中で泡のように浮かび、消えていく。
「ふーん……いろんな世界が見れるんだ」
伊空が呟く。
「そうだな」
澪は腕を組み、無表情のまま光の粒を見つめていた。
「これで無数の可能性や知識を垣間見ることができる。
……ただ、解像度が低い上にズームもできない。
書物や映像を複写するのは、ほぼ不可能だな。
そもそも、物理法則が違う世界もあるし……使い勝手は悪い」
「まるで、覗き専用の望遠鏡って感じだね」
「まあ、そんなところだ」
澪は小さく笑い、宝珠を軽く指先で弾いた。
光がふっと消え、部室に再び蛍光灯の白が戻る。
「ま、時間のあるときにでも、ゆっくり解析していくさ」
そう言うと、彼女は宝珠を空間収納に滑り込ませた。
微かな風が、古びた窓を揺らした。
コーヒーとフィルムの匂いが漂う、
十畳にも満たない映画研究会の部室。
その片隅――静かな機械音だけが響いていた。
――だが、その「部室の光景」を、
別の場所から見ている者がいた。
どこかの暗い部屋。
無機質な壁、古い機械のようなノイズ。
空気は乾ききり、埃が静かに漂う。
そこに一人、ソファに腰をかける人影がある。
マッシュに切り揃えたショートヘア。
中性的だが、細い首筋と肩のラインから、
女性であることがわかる。
彼女は、無表情のまま宝珠越しに澪たちを見つめていた。
「……解像度が低いのは、君の実力不足……」
囁くような声。
そして、ゆっくりと口角を上げる。
「――“深淵を覗く時、深淵もまた”……か」
淡い笑みが、闇の中でふっと浮かび上がる。
「ふふ……楽しくなりそうだな」
その瞬間、ジジジ……と。
どこかで機械が軋む音が鳴った
暗闇に光が一筋、赤く瞬いた。
それは、まるで――“観測”が、始まった合図のように。
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