閑話休題 打ち上げ(2)
――ここはスナック《魔女の大鍋》。
いつもは魔女の呪文と香水の匂いが漂うこの店も、今夜ばかりは異様な熱気に包まれていた。
カウンターの上にはママが腕によりをかけた料理と、高級酒の瓶がずらり。
奥のテーブルには、自主映画に参加したメンバーが勢ぞろいしている。
「は〜い、みんな〜! いっぱい食べてね〜」
ママの声に続いて、澪が立ち上がり、グラスを掲げた。
「みんな! 自主映画、お疲れさま!!
今日は貸切だ! 遠慮せず飲んで食べてくれ!!」
歓声と拍手。 ――が、一人が気になることを口にした。
「えっと……今日の支払いって、報奨金からですよね? まさか澪さん、全部持ち出しですか?」
澪は一瞬だけ口元を引きつらせ、それからゆっくりと笑う。
「ふふ、そんなわけあるか。……王国と教会もちだ。経費で落とすから安心してくれ」
「…………はい…………」
(……ですよね〜)
(サマエル:余計なこと言うなよ)
「でもさ〜、あれ出来良かったのに。惜しかったね〜」
唐揚げをつまみながら亜紀が言う。
「ふふん、当然だろ。監督はこの私だ」
と澪は鼻を鳴らす。
「演出と美術監修は私だしね」
と永遠も胸を張る。
「…………………………」
一人は冷ややかな目で二人を見つめた。
(パクリだけどね)
(サマエル:余計なこと言うなよ)
「でも、私たちの世界では空前の大ヒットですよ」
と、聖女セラがワイングラスを軽く回しながら微笑む。
「どこの演劇場でも満員で。おかげで信者と寄付が増えました」
「……あんた、来てたの!? いや、知ってたけど」
永遠が目を丸くする。
「ママさんもお久しぶりです。その節はお世話になりました」
「ほんと久しぶりねぇ。懐かしいわぁ〜。一緒にドラゴン退治した以来かしら?」
ママが頬杖をつきながら懐かしむように笑う。
「映画の話に戻すと。……概ねあの内容でしたが、王国騎士団が逃げ出す設定は編集してもらいました。ふふ」
「殺されるのはいいの?」と亜紀。
「ええ、行き違いによる事故ですし。反戦がテーマですからね。反対意見もありましたが、反響は良好でした」
と、セラはどこか嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、それと――今回の報酬《次元の宝珠》です」
セラが淡く光る球体をテーブルに置くと、澪は無言でそれを空間収納に滑り込ませた。
「その他にも、皆さん宛てのファンレターです」
山のような手紙が積み上がる。
「特に一人さん。女性ファンが多いですね。あと、サインも頼まれてます。寄付者向けですから、書いてください」
「どおりで最近、“握手してください”とか“写真一緒に”とか言われると思った」
と一人が苦笑する。
「……いつの間に……」
亜紀の視線が鋭くなる。
店の空気が、ほんの少しだけ冷える。
「……………………」
全員のジト目が一人に突き刺さる。
「もう〜、異世界に連れてけないよ〜」とりりが頬を膨らませる。
「皆さん、あちらではもうスターですよ」とセラ。
「それに特赦もありますから、大手を振って王国内を歩けます。……いつでも教会にお越しくださいね。
悪魔でもウェルカムです。むしろこの機に改宗してみては? 来てくれると、寄付が増えますから」
本音を隠さない笑顔。
「ド直球の本音ね」と亜紀が呆れ、
「うん、清々しい」とりりが笑う。
澪はグラスを軽く掲げた。
「ふふ、今回の興行で大儲けさせてもらったからな。近いうちに出演料を分配する」
「うわっ、楽しみ〜!」とりり。
「……あ、ごめん。もうレヴィさんと陽子さんに話してあるから。お前と彩花には直で入らないと思う」
「え〜〜〜なんで〜〜」
テンションだだ下がりのりり。
「まあ、仕方ないですね」と彩花。
笑い声と音楽、グラスの音が混ざり合い、
夜のスナック《魔女の大鍋》は、どこか幻想と現実の境を失いながら――
宴の時間を、ゆるやかに溶かしていった。
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