表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/149

閑話休題 打ち上げ(2)

――ここはスナック《魔女の大鍋》。


 いつもは魔女ママの呪文と香水の匂いが漂うこの店も、今夜ばかりは異様な熱気に包まれていた。


 カウンターの上にはママが腕によりをかけた料理と、高級酒の瓶がずらり。


 奥のテーブルには、自主映画に参加したメンバーが勢ぞろいしている。


「は〜い、みんな〜! いっぱい食べてね〜」

 ママの声に続いて、澪が立ち上がり、グラスを掲げた。



「みんな! 自主映画、お疲れさま!!

 今日は貸切だ! 遠慮せず飲んで食べてくれ!!」


 歓声と拍手。 ――が、一人が気になることを口にした。


「えっと……今日の支払いって、報奨金からですよね? まさか澪さん、全部持ち出しですか?」



 澪は一瞬だけ口元を引きつらせ、それからゆっくりと笑う。

「ふふ、そんなわけあるか。……王国と教会もちだ。経費で落とすから安心してくれ」



「…………はい…………」

(……ですよね〜)

(サマエル:余計なこと言うなよ)




「でもさ〜、あれ出来良かったのに。惜しかったね〜」

 唐揚げをつまみながら亜紀が言う。


「ふふん、当然だろ。監督はこの私だ」

 と澪は鼻を鳴らす。



「演出と美術監修は私だしね」

 と永遠も胸を張る。



「…………………………」

 一人かずとは冷ややかな目で二人を見つめた。

(パクリだけどね)

(サマエル:余計なこと言うなよ)




「でも、私たちの世界では空前の大ヒットですよ」

 と、聖女セラがワイングラスを軽く回しながら微笑む。


「どこの演劇場でも満員で。おかげで信者と寄付が増えました」



「……あんた、来てたの!? いや、知ってたけど」

 永遠が目を丸くする。



「ママさんもお久しぶりです。その節はお世話になりました」


「ほんと久しぶりねぇ。懐かしいわぁ〜。一緒にドラゴン退治した以来かしら?」

 ママが頬杖をつきながら懐かしむように笑う。



「映画の話に戻すと。……概ねあの内容でしたが、王国騎士団が逃げ出す設定は編集してもらいました。ふふ」


「殺されるのはいいの?」と亜紀。


「ええ、行き違いによる事故ですし。反戦がテーマですからね。反対意見もありましたが、反響は良好でした」

 と、セラはどこか嬉しそうに微笑んだ。



「ああ、それと――今回の報酬《次元の宝珠》です」

 セラが淡く光る球体をテーブルに置くと、澪は無言でそれを空間収納に滑り込ませた。



「その他にも、皆さん宛てのファンレターです」

 山のような手紙が積み上がる。


「特に一人さん。女性ファンが多いですね。あと、サインも頼まれてます。寄付者向けですから、書いてください」



「どおりで最近、“握手してください”とか“写真一緒に”とか言われると思った」

 と一人が苦笑する。


「……いつの間に……」

 亜紀の視線が鋭くなる。


 店の空気が、ほんの少しだけ冷える。


「……………………」

 全員のジト目が一人に突き刺さる。


「もう〜、異世界に連れてけないよ〜」とりりが頬を膨らませる。



「皆さん、あちらではもうスターですよ」とセラ。


「それに特赦もありますから、大手を振って王国内を歩けます。……いつでも教会にお越しくださいね。

 悪魔でもウェルカムです。むしろこの機に改宗してみては? 来てくれると、寄付が増えますから」

 本音を隠さない笑顔。



「ド直球の本音ね」と亜紀が呆れ、

「うん、清々しい」とりりが笑う。



 澪はグラスを軽く掲げた。

「ふふ、今回の興行で大儲けさせてもらったからな。近いうちに出演料を分配する」



「うわっ、楽しみ〜!」とりり。


「……あ、ごめん。もうレヴィさんと陽子さんに話してあるから。お前と彩花には直で入らないと思う」



「え〜〜〜なんで〜〜」

 テンションだだ下がりのりり。


「まあ、仕方ないですね」と彩花。


 笑い声と音楽、グラスの音が混ざり合い、

 夜のスナック《魔女の大鍋》は、どこか幻想と現実の境を失いながら――


 宴の時間を、ゆるやかに溶かしていった。



☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。


今後もよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ