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第33話 デンジャラスビューティー(1)

 ――文化祭2週間前 映画研究会・部室にて


 午後の陽が差し込む窓際。


 埃まじりの光が、モニターを照らしていた。


 その部屋で――映画研究会の面々は、いつも通りの緩い談笑をしていた。


「そういえば、今度の文化祭のミスコン、今年も出るんだって?」

 と、亜紀がコーヒーを片手に笑う。


「ふふん、当然でしょ?」

 永遠は頬杖をつきながら、どこか勝ち気な笑みを浮かべる。


「デフェンディングチャンピオンとして、今年もステージに立つのよ」


「ミスコンって、クラス推薦と部活推薦の枠があるんだよな?」

 澪が書類をパラパラめくりながら言う。

「うちから誰か出ないのか?」


「なんで部長のあんたが出ないのさ」

 亜紀がツッコむと、澪は「ふん」と鼻で笑った。


「私は毎年3年生やってるからな。記録に残ると、後々めんどくさいんだよ」


「そういう亜紀は?」


「私? 私もう人妻だからね〜。無理無理」と亜紀は肩をすくめる。



「この要項だと、14歳以上なら中学生も出られるみたいだな」

 澪の視線が、そっと彩花に向く。



「ふぁっ、わ、私なんて無理です……!」

 彩花が慌てて顔を赤らめる。その目線の先――永遠。



「……………………」

 永遠は何も言わず、ストローをくわえて献血パックを静かに吸っていた。

 その無言の圧が、逆に怖い。



「まあ、推薦人が二十人必要だからね。外部の人にはハードル高いよ」

 と、一人が現実的なことを呟く。


「今年も“黒髪”の出るんだろ。去年、準優勝してた」


 澪の言葉に、永遠の口元がにやりと吊り上がる。


「誰が来ても負けないけどね。ふふっ――」

 その不敵な笑みに、部室の空気が一瞬ピリッと引き締まった。



「……………………」

 澪はそんな永遠を見つめながら、何かを思案するように顎に手を当てた。

「最近、文芸部がちょっと調子乗ってんだよな……。

 頭、一度くらい押さえておくか……」


 その呟きは、まるで宣戦布告のように響いた。




 ――同時刻 文芸部部室



 重たい空気が、文芸部の部屋を包んでいた。


 長テーブルの上には分厚い議事録と資料の束。


 その周りには、文芸部をはじめ、漫画研究会、科学部、園芸部、写真部――

 いわゆる“文化系連合”の面々がずらりと並ぶ。



「お集まりいただきありがとうございます。

 今年の“ミス祓川”についての会議を始めたいと思う」


 淡々とした声で仕切るのは、文芸部部長・田島。

 顔は強面、声は低く、どこか裏社会の親分を思わせる風格だ。



 机の上にスライド資料が映る。そこには去年の投票結果――


 月永永遠  416票

 黒髪咲夜  208票

 その他   200票前後



「……ダブルスコアだな」

 園芸部の部長が苦い顔をする。


「ミスコンで優勝した部は翌年の部員が増える。

 つまり部費も増える――勝たなきゃ意味がないんじゃ」

 田島の低い声に、誰もがうなずいた。


「今年は、各部の協力で組織票が180。

 加えてクラス票が40。合計220は確保できます」

 プレゼンを進める文芸部員の言葉に、部室の空気が少しざわつく。


「一般票を取れば、今年は勝てる見込みです」


「うちも協力しますよ」

 そう言って、メガネをクイッと上げたのは――漫画研究会の部長、桑田。

 どこかインテリ然とした笑顔で、にやりと笑う。


「おお、それはありがたいのう、漫画研究会さん」


「ただし――“モデル”の件、お願いしますね?」


 その言葉に、黒髪咲夜が薄く笑った。

 艶やかな黒髪が、ライトの光を受けてゆらりと揺れる。

「あなたたちの漫画の“モデル”で30票入るなら安いものよ。

 それが……18禁だとしてもね」

 ざわ、と空気が揺れた。


 写真部の部長が「うちもお願いしたい」と続く。


「いいわ。でも写真は18禁はダメ。

 ただ――“たまたま写り込んだ”水泳の写真くらいなら、目をつむるわ」


(どうせ、本人の承諾なんて取らないんだから)

 黒髪は内心でほくそ笑んだ。



「じゃあ、今年の“ミス祓川”は――ここにいる黒髪で決まり、だな」

 田島の言葉に、誰も異を唱えなかった。



 こうして――


 文化祭の表の舞台とは別に、裏でひっそりと“ミス祓川”を巡る策略が動き出す。


 光と影、ステージと舞台裏。


 その均衡が、いま静かに崩れ始めていた――。


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