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第31話 特撮ショー(1)

――ステージ後。



 熱気がまだ空気の中に残っていた。


 照明の余韻が壁を照らし、楽屋裏には拍手と歓声の残響が微かに届く。


「お疲れ様でした〜!」

 スタッフたちが次々に声をかけ、ペットボトルの水を差し出す。


 息を整えながら衣装の裾を直す永遠の顔は、まだステージの光を映していた。


 そのとき、インカムを首にかけた男子高校生――ステージ監督が、満面の笑みで駆け寄ってきた。


「いや、すごいステージだったよ! 客、みんな立ち上がってた!

 それでさ――明日も頼むよ!!」



「えっ、明日もあるの!? あれ、一般開放日だよね?」

 驚きに目を瞬かせる永遠。


 監督は額の汗を拭いながら、苦笑を浮かべる。

「そうそう、でも急に一枠空いちゃってさ。

 このステージ、絶対に空白にできないんだよ。困ってて……」



 永遠は少し考え込み、眉尻を下げる。

「うーん……ごめん。明日は別のイベントに出る予定があるんだ。」


「そっかぁ……参ったな。スケジュール、完全に穴だ……」


 その時だった。


「いいじゃないか。」と、背後から低く響く声。


 振り返ると、ステージ衣装のままの澪が腕を組み、堂々と立っていた。


 スポットライトの名残を受けて、その瞳が冷ややかに光る。


「ヒロイン役ならアテがある。――もうOKもらってる。」


「え? え、えぇっ!? 何それ!?」と永遠が目を丸くする。



 澪は無表情のまま続けた。

「特撮部から話があってな。さっきから舞台袖でずっと見ていた。

 シナリオは少し改変させてもらった。監督、演出とも打ち合わせ済みだ。」



「……あの〜、僕の予定とか……」と、おそるおそる口を挟む一人。

(サマエル:あっ、バカ。もう諦めろ)

 頭の奥で、いつもの冷めた声が響く。



 しかし――時すでに遅し。


「はっ。お前の予定って何もないだろ?」と澪がピシャリ。


「無駄に自由時間があると、また“キャバクラ通い”とかするからな。働け!」



「………………………」

 一人は目を逸らし、乾いた笑いを浮かべる。

(サマエル:ほら、言っただろ)


 その後、澪はふっと距離を取り、廊下の隅へと歩いていく。


 照明の影に隠れ、スマホを取り出して通話ボタンを押す。

「……こんにちは、白雪です。今、いいですか? 明日のことでお願いがあるんですけど……

 ええ、本人には承諾もらってます。」


 その声は穏やかで、しかしどこか楽しげだった。





 ――そして、文化祭2日目・午前の部。


 特撮部の控室には、すでに緊張と熱気が満ちていた。


 黒タイツ姿の男たちが、コードを繋ぎ、ライトの角度を調整し、インカム越しに指示を飛ばす。


「スモーク、確認!」「小道具搬入、急げ!」――その一言一言が、戦場のようなリズムで響く。


 澪は中央に立ち、タブレットを片手に鋭い視線を送った。

「よし、みんな配置につけ! 昨日送った改訂台本、読んだな?」


「了解!」と声が返る。


 その先で、ひときわ目立つ少女――りりが、ステージ衣装の肩を軽く直しながら笑った。


 白と蒼の特撮スーツ。その胸の紋章がライトを反射して輝く。

「うん、任せてよ。途中から変身すればいいんでしょ?」



「そうだ。レヴィさんには承諾もらってる。セリフを多少間違えても構わん。

 そのまま“やりきれ”。観客に怪我人が出ないように――派手にいくぞ。」

 澪の声には、舞台監督としての信頼と緊張が同居していた。



「任せといて!!」と、りりは親指を立て、満面の笑み。

 その笑顔の奥に、戦士としての気迫が確かに宿っている。


 そして、澪は視線をゆっくりと横に移した。


 ステージ袖で腕を組む一人。

 緊張しているようで、どこか余裕もある――そんな空気。


「今日は、“いつもの感じ”でいってくれ。」


「いつもの感じ?」と一人が首を傾げる。


 澪はにやりと笑い、指で空を切るように合図した。

「セリフは代返してくれるが、流れを止めるな。

 大切なのは――勢いだ。昔の香港アクション映画みたいにな!」



「……うん、わかったよ。」

(いつもの感じ、って……“翔んでいい”ってことか?)


 脳裏で、昨日のステージの歓声がフラッシュバックする。



 観客の熱狂、舞台の光ー


 ステージの幕が上がるまで――あと三分。


 舞台裏のざわめきは、すでに“戦闘前”の空気に変わっていた。



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