第30話 ムーンナイト
――祓川高校・文化祭 屋外巨大ステージ
祓川高校名物、校舎裏に設置された屋外ステージは、夕陽を背にきらめいていた。
先ほどまで軽音部の演奏で最高潮を迎えていた熱気が、そのまま残響のように漂っている。
今、観客たちの視線は次の演目へ――。
「次のステージは、特撮部と映画研究会による特撮ショーです!」
司会のアナウンスに、ざわりと空気が動いた。
ステージ中央にスポットライトが当たり、白いドレス姿の永遠がゆっくりと姿を現す。
「ここは……どこ? なぜ、私はこんな場所に……?」
その声がスピーカーを通じて響く。観客席のざわめきが止まった。
永遠の登場に、男子生徒たちは一斉に息を呑む。
――学内で“祓川の女神”と呼ばれるアイドルが主演なのだから、当然だ。
そこへ、黒い全身タイツの怪人集団が姿を現した。
「ふふ……お前を人質にして、ハライダーをおびき寄せるのさ!」
会場がどよめく。
ステージ裏、暗がりに隠れていた一人が、深く息を吸い込んだ。
(……さて、出番か)
闇が彼の体を包み、血を浴びたかのような暗赤色の光が走る。
青い脈動ラインが全身を駆け巡り、頭部には獣のような双眸と隈取の光――
しかし次の瞬間、彼は思念で色彩を変化させた。
白を基調に、青のラインが柔らかく光る。双眸は控えめする。
マントは破れを修復し、フード付きの流麗なシルエットへ。
(サマエル:……これ、趣味じゃねえけど、まあ“ヒーロー”ってことで)
(一人:マーベルにこんな感じのキャラいましたね!)
そして――
「そこまでだッ!!」
白い閃光がステージを駆け抜けた。
観客席から歓声が上がる。
永遠が振り向き、驚いた表情を浮かべる。
「来ちゃだめ! これは罠なのよ!」
――ドォン!
舞台の端で花火が炸裂し、黒タイツの戦闘員たちが一斉に襲いかかる。
一人は滑るようにかわし、跳び蹴り、逆回し蹴り。
スーツのラインが残光を引くたび、観客席から歓声が湧いた。
「うおお……すげえ! 本職のアクション俳優か!?」
「映画研究会、あんな動ける奴いたっけ!?」
舞台袖でスタッフたちがざわつく。
監督役の部員は口をぽかんと開け、
「……映画研、やべえな。あの動き、本物じゃね?」と唸った。
怪人役が笑う。
「ふふ……いいぞ、ハライダー! 倒し甲斐があるッ!」
拳と拳、脚と脚がぶつかるたび、ステージの床が唸る。
練習の域を超えた攻防に、観客の熱気は最高潮へ。
そして最後の一撃。
白い残光が怪人を貫き――
――ドゴォォォン!!
爆発。
炎柱が天高く舞い、悲鳴と歓声が入り混じる。
爆風が客席にまで届き、紙吹雪のように灰が舞った。
その中を駆け寄るハライダー。
「大丈夫か!?」
(※声は代返の役者が担当している)
永遠が見上げる。
「ありがとう……助けに来てくれたのね……」
観客席から黄色い歓声。
「一人さんーー!! ステキー!!」
「サマエルさまぁ〜! またお店来てね〜♡」
――どう見ても、見知った“人外女子”たちだった。
(サマエル:おい、あいつらバレるって!)
一人が気まずそうに手を振る。
その瞬間――
ブチッ。
それは、縄が切れた音か、それとも理性の糸が切れた音か。
永遠のこめかみがピクンと跳ねた。
「ふふ……かかったわね、ハライダー……」
「えっ……?」
永遠の瞳が闇に染まる。
黒い炎が全身を包み、背中に禍々しい翼が展開した。
指先が鉤爪に変わり、悪魔のような影が白いヒーローを睨みつける。
「死ねぇぇぇぇぇッ!!」
――ドガァァァァン!!
黒と白、二つの影が激突。
光と闇の閃光がステージ上を縦横無尽に走る。
音響が悲鳴を上げ、爆破演出が連鎖的に炸裂。
観客たちは総立ちだ。
「やばっ!」「本物の戦いみたい!」「煙すげぇぇぇ!」
防戦一方のハライダーが吹き飛ばされ、ステージに膝をつく。
「くっ……ま、まだ……!」
永遠は息を吐き、わずかに冷静さを取り戻す。
「くそっ……時間だ。この続きは――また今度だ!!」
そして、闇の翼が翻り、永遠の姿は黒煙とともに消えた。
代返の声優がマイクに向かって叫ぶ。
「ふう……危ないとこだったぜ。でも次は俺の勝ちだ!」
ナレーションが締める。
『こうして危機を脱したハライダーは、
敵の罠を見事に跳ね返し、
今日も正義を守るために去っていくのだった――!』
ステージに大歓声が響いた。
観客もスタッフも興奮冷めやらぬまま、ショーは幕を閉じる。
――この日行われた祓川高校文化祭・特撮ショーは、
後に「伝説のステージ」として語り継がれることになる。
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