表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/122

第29話 キック・アス

――映画研究会部室。


 戦利品の山――いや、もはや“お菓子の城”に囲まれて、

 一人は正座していた。


 その首には、無慈悲な札がぶら下がっている。

『僕は、嫁がそばにいるのにキャバクラに行く“ダメ男”です。』

 いつもの“公開処刑”スタイル。



 仁王立ちの亜紀が、怒りのオーラをまとっている。

「アンタさ〜……もう病気だよ、それ!! 嫁が傍にいて“キャバクラ”行くか、普通〜!?」


 一人の両頬には、見事な紅葉もみじのような手形。

 顔はふっくら、まるでお菓子の一部のように腫れていた。


 お菓子をポリポリつまみながら澪がぼそり。

「まあ、平常運転だな。だから言ったろ、“行くな”って」


「亜紀ちゃん、もうそのくらいにしてあげたら……」と、伊空がやわらかくなだめる。


「男の人って、そういうとこあるから……それに、お店でしょ?」

「もうしないよね? ねっ?」

 伊空の優しい声。



 だがその隣で、鬼のような亜紀が吠える。

「イゾちゃん!! 甘やかしちゃダメだよ! なんだかんだで全然反省してないんだから! 毎回毎回!!」


 

 澪は、冷たい笑みを浮かべて追撃する。

「勘違いするなよ、一人。伊空は“あんなこと”言ってるけど、本音じゃそんな風に思ってないからな。ポイント稼ぎしてるだけだから」



「……あの〜、行ったのは“僕”じゃないんだけど……」

(サマエル:おいバカ、言うな。逆効果だ!!)



 亜紀のこめかみがピクリと動く。

「はっ、知ってるわよ。そんなの!! じゃあアンタ、サマエル止めた!? どうせ一人かずとだったら迷わずキャバクラ行ってたでしょ!!」



「………………………………」沈黙。


「うん、行くな。一人かずとなら」と澪。



「……………………」無言の伊空。



 ――沈黙が、重い。



 その時、ガラッと引き戸が開いた。


「交代だよ〜」

 永遠が戻ってきた。



 一人の首の札を見て、一瞬で察する。

「……うん。平常運転だね。旧校舎、行ったんだ」

 ゴミを見るような目だった。


「そうなんだ……永遠、もう旧校舎に行くなよ。文芸部とは揉めたくないから」と澪。



「うん、わかった。じゃ、行こっか!」

 軽いノリで永遠が誘う。


 二人は部室を出た。



 ――校舎内。



 永遠と一人が並んで歩く。


 普段は残念キャラの永遠だが、学校内では人気者。

 どこへ行っても歓声、写真撮影。


「永遠ちゃん、かわいい〜!」

 まるで学園アイドルのパレードだった。



 向かった先は、祓川高校の巨大屋外ステージ。


 軽音部の演奏が鳴り響くステージの奥、控室では――




 ――特撮部の控室。


 黒タイツの男、キラキラしたヒーロースーツの人物、そして怪人役の面々が慌ただしく動いていた。


 まるでニチアサの撮影現場。



 永遠が笑顔で駆け寄る。

「やっちゃん、応援に来たよ〜!」


「永遠ちゃん! 助かった! お願い!!」

 その女子高生は両手を合わせて拝む。


「急で悪いけど、ヒロイン役やってくれない?」


「えっ?」


「実はさっき、ヒロイン役が出れなくなって……しかもヒーロー役もダメで……」

 見ると、床に体育座りして落ち込む男子。まるで敗北した戦士。



「いいけど……どうしたのさ?」と永遠。


「実は、さっき大喧嘩して。男の浮気が原因らしいんだけど……」


「へぇ〜……なんか、他人事とは思えないね〜」

 永遠がジト目で、ゆっくりと一人を見やる。



 その眼差しは氷点下。言葉の刃よりも鋭い。

「ダメ男っているよね……ほんと、どこにでも。」



「は、ははっ…………」と、乾いた笑いを漏らす一人。


「いいよ、やっちゃん。やるよ」永遠は笑う。


 そして親指で後ろを指す。

「ヒーロー役はこいつで」


「えっ!?」一人が叫ぶ。


「できるわよね? するわよね?」

 圧が強い。目が笑ってない。


「ほ、ほんと!? ありがとう! じゃあ衣装合わせしなきゃ!」


「大丈夫、映画研究部だよ。スーツは自前。ハイクオリティ。ハリウッド仕込み。大船に乗った気でいて」


「すごっ……! じゃあ特撮部と映画研究会のコラボで司会に言っとくね!」


「これシナリオ! セリフ少ないから安心して! 殺陣はテキトーでOK、爆発で誤魔化すから!」


「ヒーローの声は代返入れるから大丈夫! ぶっつけ本番でいくよー!」

 女子が走り去る。



 一人は顔をひきつらせた。

「大丈夫なの? こんなのやったこと……」

(サマエル:俺、やらんぞ。絶対やらんぞ)



 永遠がにっこりと笑って――背後に黒いオーラ。

「サマエル。手伝いなさい。変身して適当に動いてりゃいいの。……それとも、“キャバクラ”の件、蒸し返そっか?」


「全力でがんばるぜ! 任せな!!」

 即座にテンションが変わり、サムズアップ。



 こうして――


 祓川高校文化祭、史上最大のカオス。

 波乱のヒーローショーが、今幕を開ける。



☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。


今後もよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ