表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/129

第19話 彩花の想い(2)

お風呂から上がった彩花は、まだ頬を赤くしたまま、髪の毛をタオルで押さえてリビングへ戻ってきた。



 だが、一人の姿を直視することができず、俯いたまま小さな声で告げる。


「そ、その……もう寝ます。一人さんは、わたしの隣の部屋が空いてますので……そちらで」

 言い終えると、逃げるように自分の部屋へ入ってしまった。



 ベッドに潜り込み、天井を見上げても心はざわついたまま。


(わたし……はしたない女って思われたのかな……? 女として見てもらえてないのかな……?)



 不安が波のように押し寄せる。頭に浮かぶのは“一人にはもっときれいな彼女がいる”という嫉妬、そして“自分は劣っているのでは”という焦燥。胸の奥が、焼けるように苦しい。





 ――ガチャリ。



 意を決して、彩花は隣の部屋のドアを開けた。


 ベッドには眠っていた一人の姿。驚いたように目を開ける。

「彩花ちゃん……? 無理しちゃだめだよ。付き合ってるからって、急にここまでしなくてもいいんだ」



「で、でも……! わ、わたし……」



 涙ぐむ彩花は、ついに本心を吐き出した。

「心配になるんです……! 一人さんが、わたしを女として見てくれてないんじゃないかって! 他の人と比べて、わたし全然キレイじゃないし……料理だって上手くできないし……」



 一人はそっと息を吐き、落ち着いた声で答える。

「大丈夫だよ。彩花ちゃんは、そのままでいい」


 だが、その優しさがかえって胸を締めつけた。



「じゃあ……なんで抱いてくれないんですか!? 私に魅力がないからですか!?」



「そんなことない。……でも、まだ中学生だし」


 その一言が、彩花の心を一気にかき乱す。

「……やっぱり!! それって、女として見てないって言ってるんですよ! どうして分かってくれないんですか!!」



 一人は困ったように頭をかき、少し間を置いてから彼女を肩へ引き寄せた。


「ごめん。子供扱いしてた。……じゃあ」

 そう言って、そっと唇を重ねる。


 震える彩花の体――その想いの重さが伝わってくる。



「……あのさ。サマエルと代わるね。でも、僕も同じ気持ちだから」


 空気が変わり、サマエルが低く囁く。

「覚えてるか? あの時、“俺の女”って言ったの」



「は、はい……」



「それは変わらねえ。あの時も、今も、そしてこれからも。だから心配すんな。お前の席は、俺たちの心の中にある。特等席がな。……だから抱かないのは、お前に魅力がないからじゃねえ。大切にしたいからなんだ」



 彩花の瞳から、ぽろぽろと涙が零れ落ちた。

(だめだ……この人のこと、ますます好きになっちゃう……)



「で、でも……今日は一緒に寝ていいかな」


「おう、寝ようぜ。何があっても守るから。それに――やっとタメ口になったな」


「えっ……だ、だめ?」


「二人の時はいいんだ。俺も同じ気持ちだから」


 彩花は嬉しそうに頷き、一人の胸に抱きついた。


 そうして二人は、寄り添ったまま朝を迎えるのだった。




 ー病院・診察室ー



 モニター越しに、家の様子を見ていた陽子は、唇を綻ばせる。

「ふふ……想像以上ね。体を重ねる以上に、お互いの心が結ばれたわ。これは、先が楽しみだわ」





 翌朝



 一人が目を覚ますと、彩花の姿はもう布団にない。


 ダイニングへ向かうと、そこにいた彩花は顔を真っ赤にして俯いたまま、小さく声をかけてきた。

「お、おはようございます……」


「あっ……お、おはよう」


 ぎこちない挨拶が交わされ、二人の頬が同時に染まる。


「あ、あのさ」


「えっ…な、なんですか?」



「そ、その……昨日みたいに……二人の時は、タメ口でいいよ」


「あっ……そっか。ごめんなさ……ごめん」


 彩花は恥ずかしそうに俯き、食卓を示した。

「ごはん……できてるから」



 テーブルの上には、トーストとコーヒー、ゆで卵。


「和食のほうが……よかったかな?」


「いや。どっちも好きだから」



 二人は、昨日の夜を思い出しながら、黙ってパンとコーヒーを口に運ぶ。



 甘酸っぱくて、ちょっとぎこちない朝。けれど、それは確かに、恋人同士の朝の始まりだった。



☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。


評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。


今後もよろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ