第9話:「書く者」
Q-Fileに新しいページが現れた。
《交差ファイル検知:Bファイル書き手、観測に干渉》
《観測者候補:平川 真志》
「……誰だ、それ」
「聞いたことないな。クラス違いか? 教師でもないし……」
Q-Fileの“Bファイル”――つまり、敵側の書き手が動いた。
ページは続けて書き加えられていく。
《対象B・藤原 司:校舎北側、午後3時12分 接触予定》
《干渉内容:破片による損傷(重度)》
《イベント進行:不可逆》
「っ……!」
司が狙われてる。
しかも、“不可逆”ってことは――死に戻っても変えられない。
「急ぐぞ!」
⸻
午後3時11分。
陸と駿とともに、司を探して校舎北側へ走る。
いた。
非常階段の脇でスマホを見ている司の背中。
「司、逃げろッ!!!」
その瞬間。
ゴウン――! カッシャーン!!
上階の足場が崩れ、鉄製の棒とパイプが降ってくる。
陸が飛び込む。
司をかばうように地面に伏せる。
「ぐっ……!」
背中に何かが当たった。
でも、かすっただけ。
命には別状ない。
「助かった……」
だが、その後ろで。
「あっ……!」
誰かの影が倒れた。
近づくと、制服姿の見知らぬ男子が、鉄パイプの下敷きになっていた。
血を流しながら、薄く笑っていた。
「……読んでた、のに……外れた……か」
「お前、誰だ」
「……俺の名前なんて、どうでもいい。
大事なのは、“まだ俺だけじゃない”ってことだ」
「どういう意味だ?」
「Q-Fileは……一冊じゃ、ない……」
「書いてるのは……俺だけじゃ……ないんだよ……」
そのまま、彼は息絶えた。
ポケットから、血で濡れた黒いノートが滑り落ちた。
表紙には、赤い文字でこう刻まれていた。
“Q-File C”
⸻
「……AとBだけじゃなかったのかよ」
「つまり、敵はひとりじゃない。“複数の書き手”が、こっちを見てるってことか……」
陸たちはノートを慎重に開く。
最初のページに、こう書かれていた。
《第三観測ファイル “C”:目標、交差点の破壊》
《次の観測対象:月島 陸》
「次は……俺か」
第10話「観測交差点」
死んだはずの“書き手”が残したCファイルは、さらに深い計画を記していた。
“観測交差点”とは何か?
三人はそれを止められるのか?
そして、第四のファイル――“D”の気配が、静かに動き出していた。