第8話:「三人の誓い」
Q-Fileに触れたことで、高木 駿は死を回避した。
それは奇跡だった。
けれど――同時に、もう“戻れない”という意味でもあった。
「これが……お前らの見てた世界かよ」
屋上の柵に背を預けながら、駿がぽつりと呟いた。
「悪いな、巻き込んじまって」
陸が言うと、駿は笑った。
「バカ、感謝してんだよ。何も知らないまま死ぬより、よっぽどマシだろ」
彼は強かった。最初から。
そして、司もまた、真剣な顔で言う。
「駿、お前が来てくれて本当に助かった。これで、やっと“戦える”」
「……ああ、これからは、三人だ」
その日、俺たちは誓った。
誰かが死ぬ前に止める。
誰も犠牲にしない。
そして――この“書かれている世界”の正体を暴く。
⸻
翌朝。
Q-Fileには、新しい記述が追加されていた。
《次回観測対象:未選定》
《観測者、校内より一時離脱》
《沈黙期間突入》
「……一時的に、観測者がいなくなった?」
「たぶん、白木先生が学校から離れたからだな」
「好機かもしれない。いまのうちに、この本の“書き手”の正体に迫る」
「でも、どうやって?」
そのとき、駿が言った。
「なあ、お前ら。この本、変じゃないか?」
「変?」
「Q-Fileって、“書かれてる”じゃなくて、“浮かび上がってくる”んだよな。
つまりさ、どこかで“誰かが今、書いてる”ってことじゃね?」
その言葉に、背筋が凍る。
「……そうか。自動的に未来が記されてるわけじゃない。誰かが、今この瞬間も“入力してる”」
「じゃあ、そいつにたどり着ければ――」
「……止められる」
それは、これまでで最も具体的な“希望”だった。
⸻
その夜、陸の部屋でQ-Fileを広げたとき、突如ページが勝手に開かれた。
そこには、見覚えのないフォーマットで文字が並んでいた。
《Q-File B》
《現在、書き込み中:対象α/対象β/対象γ》
《ログ確認中:ファイルAへの干渉結果》
《観測維持者:不明》
「……“Q-File B”? ……もう1冊あるのかよ……!」
「つまり、俺たちが読んでたのは“ファイルA”で、**別の誰かが“ファイルB”を書いてる”**ってことか?」
「ってことは、俺たちが読んでるこの未来、**書いてるやつが“敵””じゃないのか?」
ざわり、と空気が変わる。
Q-Fileの中に、明らかに“別の存在”の手が加わっている。
しかもその“書き手”は――
「……もしかして、“敵もQ-Fileを持ってる”のか?」
ページの最後に、ひとつだけ赤文字で書かれた文が表示された。
《次に書かれるのは、お前だ》
第9話「書く者」
Q-Fileはひとつではなかった。
書かれた未来を読む者。
そして、未来を書き換える者。
その両者がぶつかるとき、“観測”は“選択”に変わる。
次に狙われるのは、三人の中の――誰?