第4話:「本は、俺を見ている」
《次に死ぬのは、“月島 陸”ではない》
その一文を見たとき、俺の心臓は凍りついた。
じゃあ、誰が死ぬんだ?
家族? クラスメイト? それとも――
答えを求めて、Q-Fileの次のページをめくる。
だが、そこには一言も書かれていなかった。
真っ白なページ。
ただ、空白がじっと俺を見返しているような気がして、ページを閉じる。
⸻
教室に戻ると、何気ない日常が広がっていた。
笑い声、寝ているやつ、スマホをいじってるやつ。
だけど、俺にはもうそのどれもが薄く見えていた。
誰かが“本当の顔”を隠しているかもしれない――そう思うだけで、すべてが不気味に見える。
「……もしかして、**Q-Fileは俺の行動を“見て書いてる”んじゃないか?」」
ふと、そんな考えがよぎった。
⸻
その夜、俺は試してみることにした。
Q-Fileを開いた状態で、**“本には書かれていない行動”**をとってみる。
家を出て、ランダムに選んだ道を歩く。
人の少ない裏道、知らない公園、誰にも見られていない場所を意識して移動する。
30分ほど歩き回ってから、立ち止まってQ-Fileを開いた。
真っ白だったページに――文字が浮かび上がっていた。
《月島 陸、自宅を出て、ランダムに行動。現在、午後9時42分。対象は監視範囲内にある》
「……!」
手が震える。
これ、俺の“行動ログ”だ。
しかも、“対象”って……まるで、誰かがこの記録を“第三者として書いてる”みたいじゃないか。
もう一度、ページをめくる。
新たな行が浮かび始める。
《月島 陸、異常行動の自覚あり。観測は継続》
《状況次第では、対象Bとの接触を許容》
《対象B:藤原 司》
「……司、って……」
俺の、幼馴染の名前。
あいつは、昔から俺の一番近くにいた。
なぜ司の名前がここに?
彼は何も知らないはずだ。まだQ-Fileにも触れていない。
そもそも、今のループではまだ話してすらいない。
なのに――なぜ“接触を許容”なんて言い回しになる?
“観測者”って誰だ?
“対象”って何を基準に決まるんだ?
この本は、ただの“未来予測”じゃない。
俺の行動、思考、すべてが**“記録”され、誰かに見られている”。**
⸻
翌朝。
いつも通りの時間、いつも通りの風景。
だけど、俺の中には昨日までとは違う焦りがあった。
(司に、近づいていいのか……?)
話したら、巻き込んでしまうかもしれない。
けど、放っておけば、彼が“次の犠牲者”になるかもしれない。
目の前を、司が歩いていくのが見えた。
イヤホンで音楽を聴きながら、無防備に廊下を渡っていく。
その瞬間、Q-Fileのページが勝手に開かれ、文字が浮かび上がった。
《接触フラグ成立。対象Bとの関係再構築を推奨》
まるで……この本が、俺の未来を誘導しているみたいに。
「……おい、本当に……お前は、誰なんだよ……!」
俺はQ-Fileを閉じた。
それでも、背中には確かに“視線”を感じていた。
「再会と感染」
Q-Fileに浮かび上がった名前――藤原 司。
それは、月島 陸が唯一信じられる幼馴染の名前だった。
「本当に、誰にも話しちゃいけないのか?」
迷いながらも、司にQ-Fileの存在を明かしてしまった陸。
しかしその瞬間、司は“見えてはいけないもの”を見てしまう。
本に触れたことで、“死に戻りの呪い”は彼にも伝染する。
そして始まる、二人目のループ適応者の誕生。
だがその裏で、新たな監視者の影が動き出していた――