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Q-File  作者: HIroyuki4727
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第3話:「誰も信じられない」

死んだのに、生きている。

生きているのに、世界が歪んでいる。

そんな日々が、もう三度目になる。


毎回、本に書かれている陰謀が起こる。

回避しようと動けば、生き延びられる。

でも失敗すれば――即、死。

そしてまた“昨日”に戻る。


この異常なループが始まってから、もう何日が経ったのか正確にはわからない。

記録には残らない。

だって、誰も覚えていないんだから。


──俺だけが、“死んだこと”を覚えている。



「もう、誰かに話した方がいいんじゃないか……」


放課後の帰り道、つぶやいた自分の声があまりにも虚ろだった。


教室では、いつもと変わらない日常が繰り返されている。

笑い声、授業中の居眠り、放送のチャイム。

全部が薄っぺらく見える。


本音を話せば、きっと「頭おかしい」と思われる。

でも、限界は近かった。


この“死の予告書”を持ち続けながら、一人で世界の裏側に抗うのは……もう、しんどい。



その夜、俺はQ-Fileを読み込んだ。

今度は「校内の陰謀」に関するページだった。


《◯◯高校の音楽準備室には、通信装置が隠されている》

《職員室には“観測者”が潜んでおり、特定生徒の行動を監視している》

《異常行動をとった生徒は、特別な処置を受けて“転校”扱いにされる》


ぞっとした。


この学校の名前が、はっきりと書かれている。

そして、“転校”とされた生徒の中には――見覚えのある名前があった。


「……榎本、って……隣のクラスの……?」


1ヶ月前、急に“体調不良”で長期欠席になったやつだ。

それから見ていない。


偶然にしては、できすぎている。



次の日。

俺は学校にQ-Fileを持ち込んだ。


調べるべきは――音楽準備室。


昼休み、誰にも見られないように人気のない時間を見計らって向かった。

音楽室の隣の準備室。鍵はかかっていない。


そっと扉を開けると、埃っぽい楽器の匂いが鼻をつく。

中を探る。ロッカー、棚、引き出し……何もない。


そう思ったそのとき、床板の一部がわずかに沈んだ。


「……ん?」


その下には――コードが這っていた。


配線だ。明らかに“音楽室のため”ではないルートを通っている。


そのとき、背後から声がした。


「月島くん? こんなところで何してるの?」


振り返ると、音楽教師の中村先生が立っていた。

笑ってはいるけど、目だけは笑っていなかった。


「君さ、最近ちょっと……変わってきたよね?」

「何か、問題でもあるのかな?」


――やばい。


直感が叫んでいた。

この人、“知ってる”。

俺がQ-Fileを持っていることも、ここに来た理由も。


「……いえ、別に……」


その瞬間、先生がポケットに手を伸ばした。


俺は全力で走った。

振り返らずに、全速力で廊下を抜け、階段を駆け下りた。


教室まで戻ると、机の中にQ-Fileをしまいこんだ。


心臓がバクバク鳴っている。

汗が止まらない。


「もう……ダメだ……誰にも、言えない……!」


本当に、誰が味方で誰が敵かわからない。

昨日まで信じていた人も、もしかしたら“観測者”かもしれない。


いや、もしかしたら……クラスメイトの誰かが“スパイ”かもしれない。


教室にいる、何気ない会話をするやつら。

俺を心配してくれるように見える友人。

あの中に、俺を監視しているやつがいる?


疑念が、頭の中で膨らんでいく。


誰も信じられない。

それでも、誰かを信じたい――



Q-Fileの最後のページに、新たな一文が浮かび上がっていた。


《次に死ぬのは、“月島 陸”ではない》


「……は?」


初めて、自分以外の名前が示唆された。

いや、正確には“俺じゃない”と明言された。


じゃあ、誰が?


その“誰か”が、俺の大切な人だったら。

……そのとき、俺はどうする?



第4話:「本は、俺を見ている」

Q-Fileに書かれるのは陰謀だけじゃない。

そこには、次第に「自分の思考」すら書かれ始める――

そして現れる“藤原つかさ”の名前。

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