第1話:「Q-File」
たまたま時間を潰すために立ち寄った、見覚えのない古本屋。
そこで出会ったのは、都市伝説や陰謀論がびっしりと綴られた一冊の本――『Q-File』だった。
好奇心から読み進めると、本には“明日起きる事故”の予言が。
信じなかった俺は、そのとおりに死んだ。
そして気がつくと、事故の前日に戻っていた。
これは、死ぬたびに“陰謀”と“現実”が交差する世界で、
本の謎に迫りながら、生き延びる術を探す少年の物語。
本に触れた者は、見えてはいけない世界を見る。
そして――この呪いは、誰にでも伝染する。
俺の名前は――月島 陸。
ごく普通の高校二年生だ。
特別な才能があるわけでも、目立つ存在でもない。
ただ、どこにでもいるような学生。
強いて言えば、“ちょっとだけ空気を読むのが得意”なくらいかもしれない。
今日も学校が終わって、ただなんとなく、帰り道を外れて商店街をふらふら歩いていた。
ふと、今まで見たことのない古本屋の前で足を止める。
看板には、色あせた金文字で《Re:Leaf》と書かれている。
いや、書かれていた“気がする”と言ったほうが正確かもしれない。
通学路の途中に、こんな店あったか?
ドアには「営業中」とも「閉店」とも書かれていない。
けれど、吸い込まれるように俺はドアノブに手をかけた。
カラン……。
入った瞬間、風鈴のような音が鳴る。冷たい空気が肌に触れた。
中は思ったより広く、古びた棚に並ぶ本の匂いが鼻をくすぐる。
奥のカウンターに、白髪の老人が座っていた。
「ようこそ、迷い人。」
唐突にかけられた言葉に、思わず足を止める。
「……あの、この店……いつから?」
「ずっと昔からここにある。見える者には見えるし、見えない者には見えない。それだけですよ。」
意味がわからない。けれど、不思議とその言葉に嘘は感じなかった。
「何か、お探しですか?」
「いえ……ただ、時間を潰してただけです」
そう言って店内を見回すと、ひときわ埃をかぶった本が、目に留まった。
棚の端、まるで“待っていた”かのような位置に、それはあった。
黒いハードカバー。タイトルは銀文字で――『Q-File』。
手に取った瞬間、ひんやりとした感触が指先に伝わる。
表紙を開くと、そこにはびっしりと都市伝説や陰謀論の記述が並んでいた。
「ふーん、電波塔からの洗脳電波……」
「地下鉄の最深部には政府の実験施設……」
「学校の放送室が監視装置……」
どれも、くだらない噂話みたいな内容だ。そう思っていた――そのとき。
《明日午後5時12分 新町交差点 信号システム異常により車両多重衝突、死者1名》
俺の目が止まったのは、その一行だった。
新町交差点。
俺が明日、塾の帰りに通る予定の場所だ。
気味が悪くなり、本を棚に戻す。
しかし、なぜか手放せない感覚が残る。
何かに見られているような、あるいは……読まれているような。
「それは、選ばれた本ですよ」
不意に、店主が言った。
「……選ばれた?」
「持っていくといい。お代はいりません」
冗談のような話だが、俺はなぜか断れなかった。
帰り道、何度も本をカバンに入れ直した。
胸騒ぎが止まらなかった。
翌日。
塾の帰り。
新町交差点。
午後5時10分。
「……バカバカしい。都市伝説なんて――」
その瞬間だった。
信号が点滅し、クラクションが響き、光と音が弾けた。
視界が白く染まったあと、何もかもが――止まった。
……
……
目を覚ますと、そこはベッドの上だった。
カーテンの隙間から差し込む光がやけに眩しい。
カレンダーを見た。
今日の日付は――昨日だった。