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8 救助に走る僕

タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。

ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。

レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。

「上位魔神の一種、ゲイザーアイズだ!」


 幹部の魔術師が魔神(デビル)の名を叫ぶ。

 魔神(デビル)――人類がゲイザーアイズと呼ぶそいつは、巨大な眼球と神経の束でできた怪人だった。

 一抱えもある目玉が頭部・胸部・腰部・両肩・両足となり、それを神経の太い束が繋いで人型をとっている。


 だが魔神(デビル)は内心、驚きも感じていた。

 こんな奴らは初めてだった。


 獲物を帰さないための、一方通行の扉。

 かつてここにたどり着いた僅かな獲物は逃げ帰る事ができない事に絶望しながら殺されたものだった。

 しかし今度の奴らは、扉に武器や盾を挟ませて閉まりきらないようにし、退路を確保していたのである。

 そしてこれまでの得物はせいぜい6人程度だったが、今回は20人ぐらいいるようだ。

 魔神(デビル)に向かって来るのは数人だが、魔法や射撃武器を構える者達が後ろで散開し、何かのアイテムを取り出している者達もいる。

 さらにごく僅か、もう一つの扉へ向かう者までいた。



 タンザがクラン長カルロへ出した提案は、普段パーティー内で個人が分担する事を、人数に任せてチームで行うという単純な物だった。MMOのレイドボス戦に近い考え……というよりそれを参考にしたのだが。

 高ランクの戦士達が斬りかかり、遠距離攻撃のできる者達が撃ち続ける。回復魔法の使える物達は手分けして治療に専念し、強敵に攻撃を通す自信の無い半端なランクの者達は回復アイテムを抱えて回復・治療に協力する。

 部屋の広さや間取りは透視の呪文であらかじめ把握できていた――これもこの戦い方への追い風になっている。

 それでもランク3以下の者達は戦場にいる事自体が危険だと判断し、部屋の外で待機していた。もしクラン側が敗れたら、彼らは街へ逃げ帰り、他のクランへこの事を報せて救援を願う手筈である。



 そんな侵入者どもの意図を理解したわけではないが、魔神(デビル)の役目は一つ。獲物を皆殺しにすべく魔法陣から出る。

 全身を構成する7つの巨眼が妖しく輝きだした……!


 眼球の一つが光線を放つ。

 クラン長・カルロは先頭に立ち、盾を構えて光線を受けた。

 光線は分厚い盾と鎧に阻まれながらも、鍛えられた肉体の皮膚を破り、いくつもの傷を負わせて出血させる!

 しかし負傷しながらもカルロはニッと不敵な笑みを見せた。


「大した威力だ。だが俺とて上級職のロード、まだまだ倒れん」


 そんなカルロに回復呪文が、そして魔神(デビル)に矢や攻撃魔法が飛ぶ。

 それは魔神(デビル)を撃ち、青紫の血を流させた。


「案外いけるぞ!」


「油断するな! 奴が厄介なのは……」


 誰かの歓声を幹部のエルフ魔術師が叱咤する。

 直後、魔神(デビル)から放たれた光線が再びカルロを撃った。

 その一撃でカルロは両膝をつく!

 生きている。意識もある。だが――


「これは、麻痺……」


 荒い息を吐きながら、カルロは呻いた。


 上級魔神(デビル)ゲイザーアイズ。

 その7つの眼球は7通りの魔力を備え、数々の状態異常を敵へ放つのだ。

 後衛にいた冒険者の一人が、光線を受けて両目を抑えた。視力を封じられ、盲目状態に陥って。


「クラン長達が!」


 フェルパーの女盗賊ルルスが悲鳴をあげたが、その手をタンザが引っ張る。


「僕らは計画通りに!」


 二人は入り口の対面にある扉へと走った。



 ――対面の扉の向こう――



 扉を開けると短い通路で、奥にもまた扉がある。

 そして予想通り、打ちのめされてへたり込む人影が5つ。

 その一人にルルスは呼びかけた。


「レイラさん!」


 銀髪のヴァルキリーが顔をあげる。


「君達は!?」


 レイラは破壊光線を浴びて負傷し、その傷を治していなかった。

 ルルスから状況を説明され、レイラは自分達の現況を話した。


「あの魔神(デビル)にこっちの攻撃が通じなかったわけじゃない。けれど仲間の司教が状態異常を受けてしまった。私も回復呪文は使えるが到底追いつかず……入り口の扉は開かなくなっていたし、なんとかこっちに逃げたけど、退く事も進む事もできなくなって……」


 司教は魔法系の上級職で、神職でありながら魔術師の攻撃呪文も使える。だがそのぶん、回復呪文の習得は僧侶よりも遅れる。

 そんな彼は頭を抱えてガチガチと歯を鳴らすだけ。呼びかけてもいやいやと頭を振って無力を晒していた。


(これは……恐慌状態?)


 タンザは症状に見当がついた。急いで薬を取り出す。


「回復薬もいくつか預かってます!」


 タンザが司教にそれを飲ませると、彼の瞳が正気を取り戻した。

 ルルスも自分の荷物袋から薬瓶を取り出し、レイラに、他のメンバーに飲ませる。


「よし、これで我々も戦いに復帰できる。総出で救助に来てくれたのだ、このまま座してはいられない!」


 レイラが力強く断言する。

 タンザとルルスも含め、皆が闘志を籠めて頷いた。

御覧いただきありがとうございます。

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