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7 強敵と遭遇する僕

タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。

ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。

カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。

「4階も終わった今、そろそろ練習も終えて本番だと思ってくれ。エレベーターへ行くぞ」


 クラン長・カルロが皆に言い渡す。

 このダンジョン、地下4階からは、9階までエレベーターで任意の階へ降りる事ができるのだ。

 9階の奥へ進むには通行用のアイテムが必要で、結局5~8階を探索しないと10階に進む事はできないのだが。


「エレベーターから降りた痕跡を各階で調べれば、レイラ達が踏み込んでいない階はスルーできよう」


 クラン幹部のドラコン盗賊に言われ、カルロは力強く頷いた。


「こんなに早く地下4階までを調べ終える事ができるなんてな。まだ夜も明けてないだろ」


「俺達のパーティは3階だけで二カ月かかったのになぁ……」


 雑談しながらクラン<明けの明星(モーニングスター)>の者達は通路を緊張とともに睨む。

 そんな中、タンザは緊張していた。


(いきなり僕のランクを大幅に超える階へ行くかもしれないのか……)



 ――地下9階の入り口――



「うーん……やはりここですね~」


 エレベーターを降りたばかりの所で床を調べ、フェルパーの女盗賊・ルルスが唸った。

 盗賊として鍛えた彼女の目は、床に残る微かな足跡を発見したのだ。

明けの明星(モーニングスター)>のメンバーは顔を見合わせ、頷きあうと、9階の奥へと進む。

 しかし次の分かれ道でルルスが音を上げた。


「む、む……すいません、痕跡を見失いました」


 それを聞いて、ドラコン盗賊が代わって床を調べる。

 ところが――


「こっちもだ」


 彼も先に進む足跡を見つけられなかった。

 しかしカルロは特に気にしなかった。


「まぁいいさ。おそらく地下10階への階段だ」


 硬い床に残る足跡など、もとより専門職でさえ確実に見つける事はできない微かな物なのだ。


(一応、試してはおくか)


 タンザは再び腕を振り、呪文を行使した。こんな時のために習得しておいた呪文を。


【ディテクト・シークレット】精神の波動をレーダーのように使い、忍び寄る敵や隠蔽(いんぺい)された仕掛けを察知する呪文。


 青い粒子が煌めき――

 ハッと弾かれたように、タンザは顔を上げた。


「カルロさん! あそこに何かがあるようです!」


 大声をあげて指さすタンザ。

 周囲の者達は、そしてカルロは仰天した。


「あそこ……あそこだと!?」


 タンザが指さしたのは迷宮の天井だったのだ。


「ふうむ? まぁ確かめてみるに越したことはない」


 ドラコン盗賊はそう言いながら、クライミング用具を取り出して壁をよじ登った。

 垂直の登攀など、落とし穴にひっかかった時ぐらいしかまずやらない。しかし天井に辿り着いてごそごそとまさぐる事しばし――


「むう! ここは開くぞ」



 ――隠し通路――



 上げ蓋になっている隠し戸をもちあげ、天井裏に入り、盗賊がロープを垂らした。

 一人ずつそれを登る冒険者達。天井裏には人が立って歩ける隠し通路があった。


「なんて事だ。今さら9階で新しい道を発見か」


 半ば呆然と呟くカルロ。

 ルルスは埃まみれの床を調べてすぐに声をあげた。


「あります! ここを通った跡が!」


「そりゃ床を調べても行き先はわからんわ。レイラ達、どうやってこんな所を見つけたんだ? タンザがいなかったら俺達にも無理だったぞ」


 冒険者の一人が呟く。

 ドラコン盗賊がタンザの肩を叩いた。


「やるではないか。お手柄だ」


「あ、いや、普通は盗賊がいるから重要視されない呪文が、今回はたまたま役立っただけで……」


「どんな腕利きでも成功100%を前提にはできん。サポートの魔法があるなら頼もしいぞ」


 そう言ってドラコン盗賊はばくりと口を開けた。多分笑ったのだ……タンザは思わず怯んでしまったが。



 ――隠し通路の奥――



 通路はさほど長くなく、行き止まりに下へ降りるハシゴがあった。

 降りた所は部屋の中。扉が一つあるのみ。

 そして扉には見るからに禍々しい紋様が描かれていた。


「いかにもな扉だな。タンザ、あの透視魔法を頼む」


 カルロに促され、タンザは【ウィザード・アイ】の呪文で手元に扉の向こうの映像を出した。

 浮かぶ映像は――

 扉の向こうは大きな部屋。

 中央に何かの魔法陣。

 対面にも扉があって、そこに血痕が続いていた。

 そして眼前の扉は、壁に埋め込まれた何かの機械機構と連動している。


「この扉は一方通行だ。入ったら出られん」


「あの魔法陣は召喚用の物ですね。退路を断たれた状況で、固定モンスターと戦わされると思った方がいい」


 ドラコン盗賊とエルフの魔術師が、映像を見ながらそう言った。

 皆はしばし考える。


「召喚モンスターが意外と手強く、引き返せもせず……奥に行くしかなかったのか」


「て事は、レイラさん達でも負ける魔物が出てくるって事か」


 あまり良い予想は出ず、やがて皆が沈黙したが。

 カルロは決意を固めた目で剣を握り直した。


「ここまでの協力、感謝する。後は俺のパーティでなんとかしよう。明日中に戻らなければ死んだと思ってくれ」


 ドラコン盗賊やエルフの魔術師など、元々カルロのパーティメンバーだった幹部達は苦笑いをしたり肩をすくめたりしたが、反対する者はいなかった。

 一方、他のクランメンバーは顔を見合わせ、露骨に迷いを見せる。


「私達じゃ足手まといだろうなあ」


 ルルスも諦めを漂わせてそう言った。

 タンザも迷い、考え、悩み……やがて。


「意見、よろしいですか」


 カルロに話しかけた。


「ああ、言ってくれ。今は何にでも(すが)りたい」


 頷くカルロ。

 タンザは(はら)をくくって申し出る。


「協力します」


「無謀だぞ」


「いえ、戦うわけではありません」


 周りで聞いていた者達が驚き、タンザの次の言葉に耳を傾けた。



 ――魔法陣の部屋――



 扉を勢いよく開け、<明けの明星(モーニングスター)>の冒険者達が部屋へ雪崩れ込んだ。

 途端に、魔法陣に禍々しい紫の炎が灯る。

 炎から現れたのは――魔神(デビル)、と呼ばれる魔界の住人。


「上位魔神の一種、ゲイザーアイズだ!」


 エルフの魔術師が魔神(デビル)の名を叫ぶ。

 魔神(デビル)――人類がゲイザーアイズと呼ぶそいつは、巨大な眼球と神経の束でできた怪人だった。

 一抱えもある目玉が頭部・胸部・腰部・両肩・両足となり、それを神経の太い束が繋いで人型をとっている。

 全身を構成する7つの巨眼が妖しく輝きだした……!

御覧いただきありがとうございます。

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