6 新しい方法を試される僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。
――ダンジョン地下1階の入り口――
「皆、MAPは持ったな? では1階の捜索にとりかかる。各パーティは分担地域を確認して、その最奥で呪文による遠隔報告。計1時間以内に戻ってくれ!」
クラン長・カルロの指示に「はい!」と応え、5組の冒険者パーティが散った。
地下1階を5つに分けて、手分けしての捜索。
ここでヴァルキリーのレイラとそのパーティが見つかるとは、誰も思ってはいない。
しかしより深層を調べるための、練習としてこの階で大集団捜索を行う事にしたのだ。
タンザは低ランクの身ではあるが、作戦立案者として「拠点」を確保する待機組に編入された。
クラン長カルロとその仲間、幹部達と共に。
昨日今日ダンジョンに入ったズブの新人はいないので、どのパーティーもすぐに戻ってきた。
フェルパーの女盗賊・ルルスが笑顔で手をふり「ただいまー」と声をかけてくる。
彼らが道中であった事を報告するが、最弱級の魔物を蹴散らした事ばかりだった。時間帯のせいで他のクランのパーティはほとんどいなかったようだ。
一番遅かったパーティでさえ時間に余裕を残しているし、最速のパーティはその半分ほどで戻ってきていた。
「よし、いいぞ。地下1階とはいえあっという間だ。次は2階だな……タンザ、何か意見はあるか?」
カルロに訊かれ、タンザは少し考えた。
「そうですね……各パーティに高レベルの人を入れるため、メンバーを組み替えるのはどうでしょうか。強いパーティが短時間で戻る一方で、弱いパーティが探索に長時間かけると、待ち時間というロスが生じますから」
クラン幹部の盗賊がタンザへ鋭い目を向ける。
「メンバーを変えると慣れた連携をとれなくなる恐れがあるが?」
彼はまるで角の生えたリザードマン。半人半竜のドラコン族で、盗賊ながら体格は人間以上。革鎧の下で鱗に包まれた筋肉も盛り上がっている。
そんな彼の迫力に気圧されながらもタンザは一生懸命に答えた。
「はい。ですからまだ浅層にいるうちに組み替えて慣れるようにしよう……と思いました。けれど絶対に正しい自信もないので、探索班の人達が不安なら撤回します」
探索班の冒険者達が迷いとともに顔を見合わせた。
一人の低ランク戦士が多少しょげつつ呟く。
「低ランクな俺達の連携なんぞより、高ランクの先輩に助けてもらった方が強い気はするんだよな。情けねぇけど」
その戦士の肩に、カルロが優しく手を置いた。
「いや、よく正直に言ってくれた。時短できるならしたい所だ。反対の者がいないなら組み換えをしよう」
反対の者はいなかった――初めてのやり方なので誰にも正解がわからないのだ。
探索班で最高ランクのパーティを分解し、彼らを中心とした新パーティに組み替える。
同じ5組ながら、パーティの戦力は先刻より平均化された。
そして挑む地下2階。
中央近くの大部屋に「拠点」を置き、各パーティは散る。
階層に比して遥かに強力な魔法や剣技を中心に攻める各パーティは、だいたい同じぐらいの時間で「拠点」へ戻ってきた。
結果、地下1階より早く探索は終わってしまった。
クラン<明けの明星>は皆で地下3階への階段に向かう。
ダンジョンの通路が広いといっても30人ほどの人数だと、やはりまともに隊列は組めない。
先頭に1パーティ、その後ろに次のパーティ、その後ろに……と、パーティが数珠つなぎになるしかないのだ。こうなると人数に比した戦力を発揮するのは到底不可能である。
それこそが、冒険者達は多くても6人まででパーティを組む理由だった。
入手した金品は、頭割りするのが原則である。となれば戦力にならない人員は欲しくない……むしろ邪魔だ。
今の【明けの明星】の行動を他のクランが見れば、奇行扱いしかしないだろう。
「思った以上に調子がいいぞ。今日中に大半は終えられそうだ」
あっさり3階の探索を終え、地下4階に設けた「拠点」で呟くカルロ。顔に浮かんでいた焦りもだいぶ軽減されている。
そこに探索を終えたパーティが戻って来るが――
「4班が遅いな?」
遅れているパーティが出た。
「俺達が見て来ようか?」
帰還したパーティの一つが申し出る。
そんな会話を聞きながら、タンザは4班の向かった方向と、以前自分が描いたMAPを照らし合わせて考えた。
壁際へ歩き、そこで右手を一振り。青い粒子が煌めく。
粒子が球となり、その中に映像が現れた。タンザ自身が小さく映り、その周囲の部屋や通路、そこの現況までが映る。
壁を挟んだ向こうで、遅れている4班が立ち往生している事も。
宝箱の側で、メンバーの神官が壁にもたれて動けず、他のメンバーが迷っている事も。
「罠にかかったのでしょうか。回復係の神官が状態異常で動けないのでは?」
映像を見てタンザが言うと、冒険者の一人が「あっ!」と声をあげた。
「4班で一番高ランクなのはその神官だ。あの症状は多分強めの毒……主力が動けないんで、どうしていいのかわからないんだな」
「よし、俺達がひとっ走り行くぜ!」
状況さえ確認できれば冒険者達の判断は早い。すぐに救助隊が向かった。
それを見送り、冒険者の一人がタンザに話しかけてくる。
「あのさ、なんか当然みたいにやってるけど。ダンジョンの壁を透視する呪文なんかあるのか?」
「え? あ、はい。最近やっと習得できた呪文【ウィザード・アイ】です。僕程度のレベルだと周辺しか見通せませんが……高位になれば辺り一帯の立体地図を手元に映したりできます」
驚かれた事に驚きながら答えるタンザ。
「そんな呪文、聞いた事ないぞ!?」
そう言って驚く声があがった。
戸惑うタンザ。
「霊能者専用と言っていい呪文なんですが、滅多にいない職業ですから……」
程なく4班と救助隊が戻ってきた。
それを見て、幹部のドラコン盗賊がタンザを横目に見る。
「ふむ。これより下の階には未踏地域も増えてくるが、あんな呪文があるならすぐに調べられるな」
「MPの消耗が激しくて、頻繁に使うのは無理です」
自信なく告げるタンザ。
しかしカルロがその肩を優しく叩いた。
「MPを譲渡する呪文がある事ぐらいは俺だって知っているし、このクランには何人か使い手がいる。回復アイテムの類も有るだけ持ってきた。君の判断に任せるが、必要だと思ったらどんどん魔法を使ってくれ」
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