5 第一歩を踏み出す僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。
「パーティごとに手分けして探索域を分担すれば、同時に複数の階層を調べる事が可能だ。今回に限っては、それは有りだと思いたい……」
タンザの提案を聞いたクラン長・カルロが腕組みしつつ考える。
各パーティが感と独自判断でバラバラに動くのではなく、組織だって統率された捜索を行う方法を。
しかし……
「まぁ浅層はもうMAPが解明されているも同然だから、それもできますけど」
構成員の一人がそう言ったが、口調にはどこか反発がある。
別の冒険者が言葉を続けた。
「レイラさんのパーティなら今わかっている一番深い階だと思います。MAPどころか行くのも難しいんじゃ?」
己の実力以上の場所へ行かされる事を恐れているのだ。協力する気になった者達も、自分が命を捨ててでも……と考えているわけではない。
レイラはランク12……現在判明している最下層・地下12階の探索を進めていた冒険者だ。これは街でも有数のランクで、クラン長・カルロを含め数えるほどしかいない。
慌ててカルロは付け加えた。
「いや、皆に無理はさせない。帰る途中で何かあったのかもしれないから、ランクの低いパーティには浅層を探ってもらいたい」
それで皆は一応安心した。
だが疑問を呈する者も現れる。
「けどなぁ。互いに通信できるわけじゃないし、他のパーティがどこまで探ったかわからないと、他人の捜査済みの場所をうろうろする事もあるんじゃないか?」
そこを突かれてカルロは困った。
「どのパーティがどこを調べるかを事前に決めておくしかないな。MAPが完成していない階層は決めきれないが……」
しかし、そこでタンザが手を上げて発言した。
「複数のパーティが連携して動くのはどうでしょう?」
意味がわからず、冒険者達が困惑の目をタンザへ向けた。いきなり作戦に口出しをする新参へ、批難がましい視線も少なくない。
しかし……
「ふむ、説明してくれ」
クラン長のカルロが促してくれたので、タンザは安心して続ける事ができた。
羊皮紙を取り出すと、近くの机に広げた。そこにこの街の冒険者なら誰もが見慣れた地下1階のMAPを手早く描く。
「各層の入り口か、大きな分帰路か。そこまで複数のパーティで向かいます」
そして中央近くに〇で印をつけた。
「辿り着いたら『迷宮内の拠点』にして、1パーティがそこを確保、待機するんです。徘徊する魔物をそこで排除し続ければ、一時的に安全地帯を作る事ができます」
〇印から四方の通路に矢印を伸ばすタンザ。
「他のパーティはそれぞれ、担当する方向・区域を探索します。何時間以内に戻って来る……と決めておいて、戻ってきたパーティが結果を報告すれば、限られた時間で広範囲を調べる事ができます。また時間内に戻って来なかったパーティがあれば、事故があったと判断して救助に向かうパーティを送るんです」
この案はタンザの、前世の記憶を利用したものだ。
地球で未踏の鍾乳洞等を探索する時、または大掛かりな登山を試みる時。最深部や登頂へ挑戦するチームを、支援用のチームが様々な道具や物資を持ち運んで援護する方法がある。
それを地下迷宮に挑む冒険者達に当てはめて考えた方法なのだ。
提案を聞いて長のカルロは「なるほど……」と感心した。
「それを浅層から繰り返していくのか。このクランの人数で造れるパーティ数なら、一日でかなりの階層を虱潰しに探索できそうだぞ」
クランの冒険者達が顔を見合わせる。
そこにあるのは、先刻までと違い――期待と、いくらかの高揚。
「なんか……やれそうじゃね?」
「危なくなったら安全地帯へ逃げ込めば加勢してもらえるのか。助かるな」
「待機パーティは消費アイテムを多めに持って行けば、補給地点にもできそう」
冒険者達は、タンザへ一方的に質問を投げるのではなく、互いに意見を交わすようになっていた。
そんな冒険者達にタンザが告げる。
「初めての試みだから、きっと不手際や失敗もあるでしょう。その上で、皆で協力すれば……個々に探索して、結果的に見つかるかどうかよりも、確実性は高いと思います」
カルロが皆を見渡した。
「改めてはっきりさせておく。不満がある者に無理強いはしない。協力してくれる者は今から名乗りをあげてくれ」
最後の指示はちょっぴり失敗だった。
皆がいっせいに、我も我もと名乗りだしたのだから。
結局、この時点でクランに残っていた冒険者は皆が協力してくれた。
――乗合馬車の停留所――
夕刻の停留所で、御者たちは最後の客を待つ。
この時間、他の街へ向かう便はもう無い。
あるのはダンジョン入り口へ向かう最終便だ。
昼夜など無いダンジョンへ、日が暮れてから潜る冒険者達が僅かだがいるからだ。彼らを乗せて、毎日1台や2台はその日最後の仕事に出発するのだ、が……。
「お、来たか」
中年の御者が足音を聞きつけて振り向く。
そして驚きに目を見開いた。
その日の客は大集団――大き目のクランが総出で来たような人数だったのだ。
タンザの隣で、フェルパーの女盗賊・ルルスが停留所を見渡す。
「よかったー。残りの馬車に片っ端から乗れば、なんとか足りるね!」
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