4 移籍する僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
――路地裏の屋台通り――
肩を落として慣れた通りを彷徨うタンザ。
貧しい者の集まるこの通りには、昼間から安酒を飲ませてくれる屋台も多い。
タンザは自暴自棄な気持ちを抱え、そんな店の一つに入る気になっていた。
その背に聞きなれた声がかかる。
「タンザ、どした?」
「<力の一打>をやめたというか、クビになったというか」
そう答えながら振り返ると、予想通り、そこいたのはフェルパーの女盗賊・ルルスだ。
しかし彼女の様子はおかしい。なんだか焦っているようだ。
詰め寄るようにタンザへ近づいてくる。
「じゃあ今から別のクランに入るんだね!?」
「あ、多分……」
頷いたタンザの手を、彼女はがしっと握った。
「ウチへ! <明けの明星>へ! 急いで来て!」
「え、え?」
目を白黒させるタンザ。
それをルルスは強引に引っ張る。
「今はとにかく人手が要るの!」
(切羽詰まっているんだな)
そう察してタンザは彼女についていく。
路地を走る二人。
そうしながらタンザは訊いた。
「で、なんでなの?」
叫ぶように答えるルルス。
「ヴァルキリーのレイラさん、昨日のあの人のパーティが行方不明なんだよ!」
――別の大通りに面する大きなホテルのホール――
クラン<明けの明星>の長はラウルフ族のカルロだった。
ラウルフは犬の獣人で、これも人類側についた種族である。犬の性質を継ぎ、信仰心と生命力に優れている。
そんな彼は上級職、神聖魔法を使う戦士・ロードに就いていた。
「そうか、ウチのクランに移籍してくれるのか。君を歓迎する。さっそく君が所属パーティのどれかに入れる事ができるよう、手配しよう」
若く腕の立つ彼だが、今は焦りから早口になっている。
だが、そんな彼の後ろから声がかかった。
「それで皆で仲良く行方不明者探しか? あんたの私情で」
そこにいたのは一つのパーティ。話しかけたのは剣を両腰にさげた……おそらく二刀流の戦士。目つきの鋭い青年だ。
(私情?)
タンザの疑問は、その戦士の話ですぐに氷塊した。
「レイラはランフランク公爵家の娘で、あんたの実家はそこに仕える騎士の家系だもんな。だが俺達は無関係だ。クラン長の都合で探索になにがしかの命令が出るなら、俺達はここを去る。あばよ」
そう言うや、そのパーティは本当にホテルを出て行ってしまった。
「あ、あ……ナンバー3のパーティが……」
うろたえるルルス。
「仕方ない。確かに、あいつの言う通りでもある。彼らの腕ならどこのクランでも受け入れるだろう……いや、あの様子じゃもう渡りはついているのかもな」
カルロは落ち込みつつそう言うと、ホールに集められたクランの構成員達を見渡した。
「これからレイラのパーティの捜索に出てもらいたい。無理にとは言わない。意見があるなら遠慮なく言ってくれ……」
構成員達は顔を見合わせる。
ルルスは拳を握って息巻いていた。
「実力差がありすぎてパーティには入れてもらえなかったけど、レイラさんにはいつも励まされたり慰められたりアドバイス貰ったりしてたもん! 私は協力するよ!」
すると――
「あ、俺も……」
「私も、駆け出しの頃に……」
「そうだよな、うん」
あちこちから共感と同意の声が上がり始めた。
(見かけは冷たい感じだったけど、下の者の面倒見はいい人だったんだな)
タンザはそう感じた。
「ありがとう、力を貸してくれ」
カルロは構成員達に頭を下げる。
(トップなのに腰の低い人だな)
タンザは初対面のクラン長に好感を覚えた。
だからだろうか。
タンザはここで彼に話しかけてみた。
「あの、今日来たばかりで恐縮なんですが……」
「何かな?」
聞き返すカルロに、タンザは改めて話してみる。
クラン内のパーティ同士で情報を集め、ダンジョンの「攻略本」を造る方法を。
それをクラン内で共有し、メンバー全員の探索に役立てる事を。
この街の常識の正反対を。
「情報を持ち寄って記録していくって? 発見した物を他のパーティに教えるのかよ……」
「今まで造ったMAPも全部公開するの? タダで?」
「頑張って先へ進んだ連中ほど損しないか、それ」
冒険者達は皆が戸惑っていた。
態度も雰囲気も否定的だった。
ルルスさえ「何言ってんの?」という視線を向けていた。
一通り聴き、カルロは言った。
「試す価値はありそうだ」
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