34 邪教団と戦う僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
エリカ:攻撃呪文を得意とする魔術師の少女。
デメトリオ:ムーク族の中年錬金術師。
リアム:君主の少年騎士。
高司祭となったインケンの指揮下、殺到してくる邪神デプラビテ教団の僧侶達と不死怪物ども。総数30を超える数で圧し潰そうとしているのは明らかだ。
しかしそれらの先頭へ冒険者から魔法が飛ぶ。
最初に炸裂したのは白い光輪。一早くそれを撃ったのは、意外にもこれまで敵の攻撃を防御する事に専念していた少年ロードのリアムだった。
彼の唱えた呪文により発生した光輪は大きく広がり、不死怪物を何体も捉えると、それらを一瞬で蒸発させてしまった。
【ディスペル・アンデッド】聖属性の攻撃呪文。呪力による負の命を浄化し、不死の魔物を消滅させる。
この呪文は神聖魔法としては下位に属する。魔法を学び始めたリアムでも手が届く範囲にあった。
「お、おのれ! 呪文だ、呪文を放て!」
後方の高台で叫ぶインケン。多重に呪文をかけられた時、その全てに抵抗するのは高レベルな冒険者にとっても簡単な事ではない。
それは魔法を学ぶ者なら理解できるべき事。
よっていつもは攻撃呪文を真っ先に撃つ女魔術師のエリカは、この時、既に防御の魔法を唱え終えていた。
【マジック・スクリーン】魔領域の防御呪文。敵対的な魔力を軽減し、威力の低い物は消去する。
邪教の僧侶達から次々と魔法が飛んできたが、エリカが張った魔力の膜に遮られ、次々と消される。
しかし全てを消す事まではできず、何発かは膜を破った。
風の刃や、治癒を逆転させた負傷の魔力がタンザ達を傷つける。またムークの錬金術師・デメトリオは敵の呪力を受けて目を抑えた。
「み、見えない! 盲目にされましたぞ!」
彼も魔法を使う事はできるが、これでは何を唱えても敵には当たらない。
だがデメトリオに青い粒子が吹き付ける。
それはタンザの放った呪文だった。
【キュア・レッサー・コンディション】精神領域の回復呪文。心身に悪影響をもたらすいくつかの状態異常を消し去る。
味方を回復させながらタンザは指示を飛ばす。
「【アスフィクシエイション】、僧侶に!」
それに従い、デメトリオは急ぎ呪文を詠唱した。邪教の僧侶が次の呪文を放つ前に、指示された呪文が完成する。
僧侶達の半数ほどが、喉をおさえ、血の気を失い、もがきながら次々と倒れる。だが彼らからは断末魔が一つも聞こえなかった。
【アスフィクシエイション】大気領域の即死呪文。敵の呼吸器官から空気を奪い、窒息によって絶命させる。
「な、なにィ!? 即死呪文を使うとは邪悪な!」
驚愕するインケン。
「もう死んでる奴をけしかけるアンタも邪悪でしょ! こんな奴ら、吹き飛ばしてやるわ!」
エリカが忌々し気に叫び、ようやく得意の攻撃呪文を唱える。消去されなかった不死をリアムが得意の防御戦技で食い止めていたが、炎が爆発して魔物を吹き飛ばした。
数で大きく優っていた筈なのに明らかな劣勢。インケンは大いに焦った。
「ええい、止めろ、奴らを止めるのだ!」
そんな彼に罵声が飛んだ――すぐ側から。
「うるさい、黙れ、このぉ!」
祭壇の陰から飛び出し、細身の剣を繰り出すのはフェルパーの女盗賊・ルルス。
彼女は戦いの中、味方の陰から敵の陰へ、そして物陰へと隠れ動いた。そして死角から祭壇に登り、一人離れているインケンの背後をとったのである。盗賊の技術の一つ、バックスタブと呼ばれる奇襲攻撃だ。
「ぎゃっ!」
斬り裂かれたインケンは流血して仰け反った。
一方、残る僧侶達にタンザから青い粒子が吹き付ける。数を減らした僧侶達が皆そろって動きを止めた。
【ホールド・モンスターズ】精神領域の魔法。神経の伝達を阻害し体を麻痺させる。
だが精神の呪文は時間をかければ強い意思で破れる。僧侶達は呪縛から逃れんと必死になった。
だが間髪いれず叫ぶタンザ。
「【ポイズン・ガス】を!」
デメトリオが呪文を唱えると、僧侶達の間に毒々しいガスが発生した。それは僧侶達を捉えて滞留し、急速に血中を侵していく。
【ポイズン・ガス】大気領域の攻撃呪文。毒性の雲が長時間残留し、包まれた生物に被害を与え続ける。
もはや絶命必至……邪教の僧侶達が麻痺の呪縛を破るまで、毒の雲の中で生き残る可能性は無い。
だからタンザ達パーティは皆で、残る最後の敵・インケンへと向かった。
ルルスに追い詰められていたインケンがヤケクソで叫ぶ。
「く、クソッ! こうなれば今の私の最大最強の呪文を見せてやる! 女は生かしてやろうと思ったが、もう手加減はできませんよ!」
そう言って彼は右手の甲を前にかざした。右腕にはアンクのような模様が彫られた円盤が嵌められた手甲を装備しており、インケンの詠唱とともにその模様が輝く。
リアムが驚き叫んだ。
「【デス・ウィッシュ】! 神魔の力で行使する、最高位の即死呪文です!」
だが青い粒子が吹き抜け、詠唱が停まった。
目を見開くインケン。しかし彼の口は動かない。タンザの呪文によって動きが封じられたのだ。
【パラライズ】水領域の呪文。敵1体を麻痺させる。単体に魔力が集中するぶん拘束力は高い。
「にゃりゃあ!」
かけ声とともに剣を繰り出すルルス。
動けないインケンはそれをまともに食らい、鳩尾を貫かれて倒れた。
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