32 不穏な変化を知る僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
エリカ:攻撃呪文を得意とする魔術師の少女。
デメトリオ:ムーク族の中年錬金術師。
リアム:君主の少年騎士。
――地下12階――
その日、タンザ達は第一ダンジョン最下層に降り立った。パーティ全員が初めて来る階層へ。
エレベーターから降り、タンザはMAPを広げる。
「ここでレイラさん達は9階の……第二ダンジョンに続く隠し通路の情報を得た。僕らも同じ地点を目指す。そこへの到達でもって、今回の修行は完了とするよ」
それを聞くと女魔術師のエリカが小さく肩を竦めた。
「実力だけならもう一軍復帰してもいいと思うけどね」
少年ロードのリアムが「でも……」と口を挟む。
「エリカさんのための目標じゃないんですか? お姉さんに追いついた証明をして復帰するというのは」
「え、そうなの!?」
驚きながらタンザに問いかけるエリカ。
「それも半分あるけど、別のクランに移籍したパーティも同じ地点を通過したみたいだから。ちょっとした対抗意識だよ」
タンザがそう言うと、フェルパーの女盗賊・ルルスが頷いた。
「ツイムさんか。うん、出て行った人に負けてるのは癪だもんね!」
「ふうーむ、若い頃のようにチャレンジ精神が燃えてきますぞ!」
ムークの錬金術師・デメトリオが元気な声をあげた。
最下層だけあって魔物も手強く、下級とはいえ巨人やドラゴンが当然のように洗われる。
だが上層で培った技術はしっかりと身に付き、多少の苦戦はしつつもパーティに勝利をもたらし続けた。
何度目かの休憩。
他のメンバーが迷宮の壁にもたれて息を整える中、ルルスだけは床を調べている。
「どうしたの?」
「ここ、本当に人が来てないみたい。めちゃ古い足跡しかないんだよ」
気になって訊いたタンザに、ルルスは床を指でなぞりながら告げた。
エリカが小さく溜息を一つ。
「そりゃまぁね。第二ダンジョンへのアイテムを売りまくったヤツがいるから、ここへ来る必要が無くなってるわけよ」
「9階隠し通路の存在自体が今や知られていますからな。アイテムを買わないパーティも9階で自力入手して、そのまま第二ダンジョンへ行くようです」
デメトリオも街で聞いた話を皆に伝える。
「クランの攻略ノートでも、11階や12階には必須のアイテムは無いようですし。多分その事もあの双剣の人が皆に伝えたんでしょう」
リアムの想像は当たっていた。
二刀戦士ツイムは自分達の持ち帰ったメダルがよく売れるよう、最深部には他に貴重品が無い事を客に教えていたのだ。
他にこの階を探索したのは<明けの明星>のカルロとレイラのパーティぐらい。クランの攻略ノートにはその2パーティからの情報で12階のMAPやデータが記されたのだが、9階隠し通路の情報以外に必要な物は無い筈だった。
それからさらに戦闘を重ね、罠を見つけては解除し、パーティはどんどん目的地へ近づく。
かなり奥へ進んだ頃、エリカが怪訝な顔で皆に話しかけた。
「なんかさっきからやけに不死怪物が多くない?」
彼女の言う通り、途中から敵の群れに最低でも1種は不死が混ざっている。
「クランの攻略ノートと少し食い違いますね……」
リアムは不安を感じていた。
その時、ルルスが通路の先を指さした。
「ねぇ、あの扉……」
禍々しい紋様が描かれた金属の扉。
その上には血文字が書かれている。
<デプラビテ教団>
リアムはその名を知っていた。
「堕落の邪神です……でもクランの攻略ノートにこんな情報はありませんでした。誰も来なくなった後で、邪教団が入り込んでいたんですね。不死が多いのも彼らのせいか」
念のためにMAPを確認するタンザ。目的地に行くだけなら入る必要のない部屋がいくつかあるエリアだ。
(でも通り過ぎた後で、後ろから何かされても困るしな)
タンザは邪教団に対処する事を決めた。
「退治しておこう。でも手強いようなら地上へ逃げ戻って、街に報告するからね」
他の四人はそれに頷いた。
しかし扉を調べ、ルルスは両手をあげる。
「うーん、開かない。鍵を後付けしたな。鍵というよりただの閂みたいだけど」
タンザは扉に手を伸ばした。その掌から青い粒子が流れ、扉に注がれる。やがてゴトゴトと音がした。
【ノックノック】開錠の呪文。鍵や罠を念動力で解除する。
ルルスが触れてみると、扉はスッと開く。
彼女は納得いかなさそうに呟いた。
「閂がそれで開くんだ……」
それでも扉は開いたのだ。
パーティは隊列を組み直してその中へ入る。
すると……
「侵入者か!」
いきなり鋭い声がとんできた。入るなり発見されてしまったのだ。
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