30 仲間が開眼するのを見る僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
エリカ:攻撃呪文を得意とする魔術師の少女。
デメトリオ:ムーク族の中年錬金術師。
リアム:君主の少年騎士。
たった一度の戦闘で引き返したタンザ達は、ホテルで準備に入る。
次にダンジョンへ向かったのは2日後だ。
――地下8階――
ワーボアー。人類に敵対する事を選んだ獣人族が集団で襲いかかってきた。
その突進力は石壁に穴を開けかねない。
そんな獣人の攻撃を、少年ロードのリアムは盾と剣でかろうじて捌いていた。非力な彼だが、器用で俊敏な事だけは戦士として合格点に達している。
フェルパーの女盗賊・ルルスが機敏に戦うその後ろで、女魔術師のエリカが最大の火球を敵にぶつけ、爆発させた。
続いてタンザが青い粒子を放ち、混乱の呪文【コンフュージョン】で敵の行動を狂わせる。そうしながら、直後に彼は叫んだ。
「デメトリオさん、【スティンクボム】!」
ムークの錬金術師・デメトリオが呪文を放った。これまでの彼と違い、迷いなく呪文を完成、行使する。
毒性のガスが敵の只中で爆発し、敵を倒す決め手となった。
戦いが終わり、皆が一息つく。
ルルスが敵から戦利品を漁る、その間、リアムは自分に回復の呪文を使っていた。元々魔法の基礎は学んでいたので、最下級の呪文なら簡単に習得してしまった。
負傷を自分で治すと、彼は目を輝かせてタンザに訊く。
「どうですか、さっきの戦闘は?」
「問題なし、だね」
頷くタンザ。
盾での「受け流し」や剣での「切り払い」は戦士ならある程度は誰でも学ぶし行う。ただし力を鍛え、重く頑丈な防具を装備する上での補助的な技能だ。
しかしリアムは逆にそれら「技術での防御」をより重視し、優先し、徹底する戦い方を目指しているのである。
(成功判定つきで攻撃を無効化できる技を複数併用した、計算上は高確率で高い防御性能を発揮するタイプ……50%で攻撃を防ぐ能力を2つ同時に使えば理論上は75%で敵の攻撃をカットできる、とかいうビルドみたいな感じか)
タンザはまた地球のRPGに例えて考える。
(多分これ、浪漫ビルドに入るスタイルだな)
防御技が失敗した時は、生来の非力による脆さが露呈するだろう。これもゲームに例えるなら、確率に頼るとどこかで事故を起こすという事だ。
量産型がなぜ量産型なのか。それはどのレベル帯でも安定して強いからなのだ。
だが非力に生まれたリアムが戦士系職として生きるなら、量産型にはなれない。ゲームと違い、個人の資質にリセマラなど存在しないのだ。
(そんな彼という個人の能力値に沿って考える前提なら、これが最適解なのかもしれない)
「私の方も指示通りに動けていましたかね?」
今度はデメトリオが訊いてきた。
これにもタンザは頷き、肯定する。
「うん、上手くいったと思う」
大きな溜息を「はぁーあ」とつくエリカ。
「リーダーから命じられた通りにのみ動くって……なんか息してるアイテムみたいな扱いね」
「ああ、情けない話さ。でも私が情けないのは今さらだからね。自分の無能を認める事で一歩前進できるならするよ」
デメトリオの声は決して悲観した物ではなかった。
彼へのタンザの提案……それは、判断力に欠けるならいっそ指示待ちに徹してはどうか、という事だった。
使える呪文をあらかじめ伝え、司令塔と決めた者に言われた通りに唱える。指示が飛ぶまで待つから迅速な行動はできないし、いくら伝えても自分の全能力を完全に把握してもらうなど無理な話だ。
だが少なくとも迷う事は無くなる。ベストが無理なら何がベターか……そんな次元での妥協案でしかない。
だがデメトリオはその案をのんだ。
デメトリオは道具袋を取り出し、中身を見せる。
「アイテムもさらに造ってきた。得意なのと時間が無かったのとで、ポーションばかりだが」
「おお、攻撃用のポーションなんてあるんだ」
驚くルルス。
赤い液体の瓶に貼られたラベルは【ファイヤー・ボム】。投げれば同名の攻撃魔法と同じ効果で爆発する、魔法で作成した一種の爆薬である。
袋には他にも数種類の瓶が入っていた。
「消耗品だから乱用はできないが、どれも私自身が使える最強の威力に匹敵するよ。私が倒れても戦闘数回なら、攻撃だろうが回復だろうがこの袋で代用できる!」
「自分の予備ってわけ? なんか本当にアイテム化してるわね」
鼻息荒く力説するデメトリオを横目に、エリカは呆れて肩を竦めた。
「では修行を続けよう。余裕がある範囲でね」
パーティに声をかけると、「はい!」「了解!」「ま、やりますか」「わかったわかった」と温度差はあれ全員が肯定の返事。
(本隊に戻れる日は近いな)
そう感じながら隊列を組み直させるタンザ。
彼らは次の部屋へと向かった。
そしてその後の戦闘で8階に不安無しと全員が感じ、タンザ達は下の階層に降りるのだった。
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