29 牛歩の中で考える僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
エリカ:攻撃呪文を得意とする魔術師の少女。
デメトリオ:ムーク族の中年錬金術師。
リアム:君主の少年騎士。
――地下8階――
特訓を続け、タンザ達は今日もダンジョンに潜る。今回はさらに階層を1つ下げた。
当然、魔物はその分手強くなる。しかし7階で何度も戦ううち、そこで遭遇する魔物に慣れてしまい、同じ事の繰り返しに近くなってしまったのだ。これでは戦い方が硬直してしまい、訓練が逆効果になるかもしれない。
(ゲームの中ならとにかく経験値さえ稼げばいいんだけどなぁ)
悩みながらも8階、いつでもエレベーターに引き返せる範囲で戦う事を、タンザはパーティメンバーに告げていた。
ある部屋で遭遇したのはキラースコーピオンの群れだった。
人間よりも巨大なサソリの群れで、尾針の毒は威力の低い解毒呪文では治せないほど強力。
フェルパーの女盗賊・ルルスはその針とハサミを身軽に回避し、細身の剣で反撃した。しかし硬い甲殻のせいでなかなか致命傷は与えられない。
一方、少年ロードのリアムは――盾で防ぎ、剣で切り払って、サソリの攻撃から必死に身を守っていた。防戦一方で攻撃する機会を掴めていないが……タンザはその動きに前回までと違う物があるように見えた。
(何かを形にしようとしているのか?)
ともかくタンザはサソリへ呪文を行使する。得意の精神系呪文はほぼ効かない――反射と本能で活動するだけの虫に、人間でいう『精神』などは無いからだ。
よって使うのはもっと単純な物。念動力により迷宮の床に亀裂が走り、薄く剥がれて宙に浮いた。いくつもの石の刃となってサソリへ撃ち込まれる。
【ブレーズ】地属性の攻撃呪文。石の刃が敵へと飛来し斬り裂く。
サソリの甲殻に次々と石の刃が食い込み、体液を吹き出させた。
そこへ女魔術師エリカの放った炎が爆発し、弱ったサソリどもを次々と焼き払った。
戦闘が終わり、タンザはリアムへ近づいた。
彼は汗だくで疲労していた……が、体は無傷だ。
息を切らせる彼へ、タンザの掌から青い粒子が降り注ぐ。
【スタミナ】水領域の回復呪文。かけられた者は活力を取り戻す。
ふう、と一息吐くと、リアムの汗がひいていく。彼はタンザに微笑みを返した。
「ありがとうございます。体力を回復する呪文ですね? 神聖魔法にも同じ物があります」
「そうか。君も魔法を習得できるんだよね」
そのタンザの言葉に、しかしリアムは肩を落とした。
「はい。でもなかなかそちらまで手が回らなくて……」
ロードは神聖魔法を使える魔法戦士なので、呪文を習得しないのでは強みの一部を捨てている事になる。
まず前線を支える事に必死なリアムにとって、あえて後回しにしているが悩みの一つでもあった。
しばらく「うーん」と考えるタンザ。
「回復呪文なら低レベルでも役立つ物はあるし……戦闘後の治療だけはできるように、いくつか習得しておく程度から始めたらどうかなぁ」
とりあえずの思い付きだが、リアムは「ハッ」と何かに気づいたようだった。
「そうか! それなら必要な魔法も、そのためのスキルも限定できますね!」
「う、うん?」
「タンザさん! アドバイス、ありがとうございます!」
やけにキラキラした目で礼を言うリアム、それに戸惑うタンザ。
(何か役に立った……かな?)
その側でエリカもまた疲れていた。
「はー、しんど。消耗が大きいわね」
威力を上げればそれだけ消費も大きくなる。可能だからといって最大威力で放った火球の呪文は相応の負担を彼女にかけていた。
ムークの錬金術師・デメトリオが回復薬の小瓶を差し出す。
「物理攻撃の弱いパーティだからね。はい、魔法力を回復するポーションだ」
「うー、悪口言われた」
ふくれるルルス。
デメトリオは慌てて別の薬を取り出した。
「あ、いや、そうじゃないよ。ええと、ごめん、この剛力のポーションをあげよう。君でも男以上の筋力になるし、1戦闘間は持続するから、戦闘中に使う価値は十分あるよ」
そのやり取りを見て感心するタンザ。
「調合が得意というのは本当なんですね」
「調合だけに専念できれば、まだしも役に立てるんだけどね。必要な素材と私自身の魔力の両方が要るからねぇ……」
デメトリオは溜息混じりだ。
タンザは自分に理解できるように考える。
(RPGで例えるなら、キャラクターのレベルが低いと弱いアイテムしか生産できない……みたいな感じかな)
「あの……一応一つ、案があります。ただし嫌だったらきっぱり断ってください。人によってはナメられていると感じかねない案なので」
躊躇いがちにタンザが切り出すと、デメトリオは必死に食いついて来た。
「いやいやいや、タンザ君の案なら信じられる。何かあるなら教えてくれ!」
この日、タンザ達はここでダンジョンから帰還した。
新たなスタイルを身につける二人のために。
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