18 脅威を目の当たりにする僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。
ギリウス:ドワーフの戦士。
驚愕するタンザ。
「は、裸の女性が!?」
魔物達は一糸まとわぬ女性達だったのだ。
金の髪も白い肌も迷宮の闇で輝かんばかり。その美しい容貌はほぼ完璧で、少女の可愛らしさと熟女の妖艶を併せ持っていた。そんな女性達が蠱惑的な笑みを浮かべ、はちきれんばかりに豊かな体を見せつけるかのような淫靡な動きで近づいて来る。
異様である。
だが全裸の女性という姿が、冒険者達に攻撃を躊躇わせた。
その隙に女達が微笑みながら呪文を唱える。
タンザもよく知る呪文を、皆で。
「いけない! 眠りの呪文だ!」
警告を発するも、直後に【スリープ】が何発も放たれた。
【スリープ】精神領域の呪文。催眠の念波が敵を眠らせる。
駆け出しの魔術師でも習得できる最も簡単な呪文ではあるが、心を蝕むその力は強烈無比だった。
(こ、この威力は……!)
驚きつつもタンザは精神力を振り絞り、必死に耐える。
しかし仲間達は抗しきれずに次々と倒れ、眠ってしまった。
かろうじて耐えたノームの僧侶が、片膝をつきながらも叫ぶ。
「おのれ、夢魔か? 悪魔の類ならば聖属性の呪文で!」
彼が印をきり詠唱すると、聖なる波動が衝撃波となって敵に放たれた。
【ホーリーフォース】聖領域の攻撃呪文。衝撃波で敵を打ちのめす。悪魔・不死等に特に有効。
だがその呪文を、女は艶やかな笑みを崩さず片手で弾いてしまう。
「全く効かない!?」
驚愕した直後、僧侶は逆に女達が放つ眠りの呪文に屈し、床に伏した。
女達の前で無力を晒す冒険者達。
もはや残るはタンザ一人。精神を重点的に鍛える霊能者だからこそ耐えたが、もはや風前の灯火だ。
そんな彼がこの苦境で呪文を放った。青い粒子が周囲に放たれ、そして――
冒険者達が次々と目を覚まし、立ち上がった!
女達が驚きで初めて笑顔を崩す。
【ウォッチベル】精神領域の回復呪文。意識を覚醒させて睡眠・気絶・動揺などから立ち直らせる。周囲の味方全員に有効。
「はあっ!」
先頭をきって女達へ槍を繰り出すヴァルキリー・レイラ。フェルパーの女盗賊・ルルスやドワーフ戦士のギリウスがそれに続く。
裸身の女達は次々と斬り伏せられていった。見た目通り、物理的な攻撃には弱いようだ。冒険者達の刃にもはや容赦はない。麗しい女性に見えてもやはり恐るべき魔物なのだから。
現に、剣を受けながらもかろうじて耐えた女の一人が、後ろに跳んで間合いを離す。
(いけない、また呪文で攻撃されたら!)
タンザは素早く呪文を行使した。
だが攻撃呪文では無い。先刻、僧侶の呪文が跳ね返されたのを見て、敵に高い呪文耐性がある事を察したからだ。弱点となる属性があれば対応する呪文で攻撃もできようが、未知の魔物相手にはそれも難しい。
タンザから放たれた青い粒子は味方へ降り注いだ。途端、仲間達の動きの速さが目に見えて上がる!
【ヘイスト】水領域の呪文。敏捷性を向上させる。
「とどめぇ!」
生来素早いルルスの細身の剣が、呪文を完成させる直前の敵へ突き刺さった。
――戦闘後――
部屋の片隅で冒険者達は宝箱を見つけた。
ルルスがそれを調べ、歯切れ悪く告げる。
「外せるとは思うけど……タンザ、調べてくれる?」
タンザは罠を見破る呪文【ディヴァイン・トラップ】を使ってみた。青い粒子が宝箱に降り注ぎ――
「蓋を開けると魔法を封じた札が破れて呪文を浴びせる罠……恐らく即死呪文。実物は初めて見るけど<死の宣告>という罠だよ」
「なるほど! 仕掛けはあったけどヘンな紙に繋がってたから不安でさ。でもそれでオッケー」
物騒な結果に明るい笑顔を返し、ルルスは数本の細く小さい金属棒を蓋の隙間へ差し込んだ。棒はそれぞれ違う角度で曲がっており、それをカチカチといじって――
「最後のワイヤー外して、ほいっと」
楽しそうな声とともに蓋を開けた。中には数個の宝石と、何やら布の束。
今は鑑定する手間を惜しみ、得た物を荷物に押し込むと、冒険者達は先へ向かう。
――隣の部屋――
女達のいた次の部屋に、クランの第4パーティはいた。
涙を流さんばかりに歓喜する彼らの一人が訴える。
「助かった。別の魔物と戦って回復係が麻痺してしまって、あの女達にも勝つ術が見つからなくて進退窮まっていたんだ」
幸い習得した回復魔法に麻痺を治す呪文もあったので、タンザは動けない僧侶にそれをかけた。
【キュア・パラライズ】水領域の回復呪文。痺れて動けない運動機能を回復させる。
「ありがとう。私もその呪文を習得すべきだったな……」
頭を下げるムークの錬金術師。それをタンザは笑顔で慰めた。
「今覚えている呪文だって別の場所で役に立ちますよ。さあ、拠点へ戻りましょう」
実際、タンザとて習得可能な呪文の全てを網羅しているわけではない。どんな呪文を優先して覚えるかは魔法職にとって重要な選択である。
「ああ。ところで、この場所なんだが……その、上手くMAPに描けないんだ。外壁の外に出てしまってて」
4班のリーダーが作成途中のMAPを指し示す。
地下迷宮において、各階の広さや外壁の位置は大概の場合共通である。地下を大規模に掘るのに各階で広さや奥行きを変えていては、建造作業に大きな手間と費用がかかってしまうからだ。
だから冒険者がMAPを作る時、外壁の位置をあてにする事も多い。
「途中で幻覚かワープにでも引っかかったかな?」
タンザは呪文で周囲を探る。青い粒子が宙に球状の映像を作った。
【ウィザード・アイ】透視の呪文。術者を中心とした周囲の映像を作り出す。映像は遮蔽物の向こうもリアルタイムで反映する。
映像とMAPを見比べるタンザ。
「いや、MAPは間違ってない。このエリアは上層階とは外壁の位置や座標が違うんだ!」
「ええ!? それじゃまるで別のダンジョン……」
4班リーダーのその言葉で、タンザの中でこの階層での出来事が繋がる。
一変した建築、未知の敵、初めて見る罠、異なる構造……
「もしかしたら地下で2つ目のダンジョンに繋がる設計だったのかもしれない」
タンザが口にしたのはあくまで想像だ。しかし冒険者達は驚きざわめく。滅多にある事では無いが、不可能では無い故に。
厳しい顔でレイラが指示を出した。
「戻るぞ。この事を早くクランに報せねば。探索の前提からして変わってしまう情報だからな」
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