14 新たなステップ……の前にちょっとだけ揉める僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。
カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。
クラン【明けの明星】の総出で行う上級者の先導・指導。
低ランク冒険者は全て先輩の手を借りて格上の魔物と戦い、引率しない高ランク冒険者は修行するパーティのいる階層の入り口で待機、非常事態には加勢すべく備えていた。
そんな様子を他のクランがしばしば目撃し、奇異の眼を向ける。
そんな日々が始まってから一ヵ月が過ぎた。
――拠点のホテル――
その日、【明けの明星】はダンジョンへ行かず、攻略ノート編集に使う大部屋に集合していた。
クラン長のカルロが皆に声をかける。
「今日までよく頑張ったな。ランクのもっとも低い者達でも7ランクを名乗って恥ずかしくない実力があるぞ」
凡才ならば数年はかかる道程である。
命を落としたり諦めたりで脱落する者も珍しくない。
だが実戦に優る修行なし。その実戦を、的確な場所と相手を選び、上級者の手本と指導によって格上相手にこなし続け、低ランクの者達は異例の速度で駆け抜けた。
「こんな短期間で、ランク2桁になるなんて……!」
はしゃぐフェルパーの女盗賊・ルルス。
彼女とタンザはランク10に達している。低ランクどころか、もはや上級の仲間入りだ。
幹部のドラコン盗賊・ザックが不敵に笑った。
「ランクのもっとも低い者達でも7か。こんなクラン、他にはあるまい」
高名で大きいクランは裾野も大きい。普通はピラミッド構造で、ランク1~2の冒険者が一番多いものだ。全員が高ランクのクランは少数精鋭、1~2パーティだけで結成されている所ばかり。
30人以上の人数を抱えて全員が中級以上に達しているクランなど、ダンジョンが見つかってから10年の間に生まれた事など無かった。
そこでヴァルキリーのレイラが口を挟む。
「とはいえしばらく修行に専念してたから、深層への探索は足踏みしている状態だ」
「他のクランは私達が引退するなどと噂している。まあ、大きく実力差のある後輩の指導を毎日ずっとやる理由なんて、普通なら後継者育成しか無いからな」
幹部のエルフ魔術師・インテがそう告げた。
(そう、後進指導も全く無いわけじゃないんだ。他のパーティの世話をするケースだってこの世界にもある。となると、僕みたいに集団で情報を持ち寄るやり方だって、考えた人もいたんじゃないか)
タンザは最近、そう考えるようになっていた。
これは決して自分だけの「革新」ではないのでは……と。
(けれど一般的な方法を変えるには至らなかった。切り出すタイミングに恵まれなかったのかもしれない。僕の意見だって、レイラさん達が遭難していなければ日の目を見なかったかも……)
それに多少試した所で、他人を利用だけして出し抜く者がいれば崩壊する方法だ。
<明けの明星>で上手く行っているのは、皆がレイラ救出という共通の成功体験を持っており、繫がりを壊してそれを失うような真似をしたくない……と考えている事も大きいだろう。
考え事をしている間にも、冒険者の一人が攻略ノートの一冊を手に取った。
「下には進んでいないが、修行がてら浅~中層の情報はより詳しく集めた。9階までの地図はほぼ完璧だし、魔物のリストも充実している」
「ほぼ完璧……ではあるが、完全に完璧ではない。あそこの先とかな」
別の冒険者がそれを口にする。あそことは、レイラのパーティが遭難した隠し通路の奥である。
まだ誰も知らない、行った事も無いエリア。
「そろそろやるか」
カルロの言葉にレイラが頷く。そして他のメンバーも。
――夕刻の商店街――
明日からの探索に備え、タンザとルルスは大きな道具屋へ向かった。人通りも気にせず、ルルスが陽気な声をあげる。
「さーMP回復のアイテムを買いこむぞー」
「それは僕ら魔法系職だろ。ルルスは盗賊だから、他に要る物があるんじゃないの?」
「タンザにいろいろやってもらうためだもーん」
そう言ってルルスは「ニシシ」と笑った。
微笑み返すタンザ。
しかし……霊能者の感覚が、何か悪意や敵意のような物を感じ取った。当然、ルルスからではない。
(誰が、なぜ?)
タンザは振り向いた。
道を横切って三人の冒険者がやってくる。ニヤニヤと口元は歪め、見下し、小馬鹿にする視線を送りながら。
「なんだ。魔法は無能でも女は捕まえられるんだな」
一ヵ月前にタンザを追い出した、元パーティの三人……戦士のヤカラ、盗賊のチャラス、神官のインケンだった。
「エースの遭難を探すための頭数が欲しいタイミングで、たまたま今のクランに潜り込めたそうじゃねぇか。実力は無くても女としょうもないツキだけはあるとはよ」
「我々のミスをこちらのクランに告げ口して悪評を広めるとは、陰険な報復もあったものです」
ヤカラとインケンの言い分で、今への経緯がどう見られているのかわかった。チャラスがいやらしい視線をルルスに向ける。
「お前のせいでエリカがクランを抜けちまった。詫びとしてその女をよこせや」
タンザはルルスの手を取り、牽いた。
「行こう」
三人を迂回しようとするが、その行く手を遮られた。
「女は置いてな」
彼らの目を真正面から見るタンザ。
ヤカラの目つきが鋭く、口調が喧嘩ごしになる。
「やんのか? ロクな攻撃呪文も無い無能が……」
青い粒子が舞い、ヤカラが……いや三人が悲鳴をあげた。背を向けて転がるように逃げていく。
三人が姿を消してから、タンザは再び、ルルスを牽いて歩き出いた。
【テラー】水領域の魔法。敵は冷たく湿った気配に襲われ、意味もわからず本能的な恐怖に駆られる。
道具屋に向かう途中でルルスの手を離すタンザ。だがルルスは「ウヘヘヘ」と意味深に笑った。
「?」
意味が分からず戸惑うタンザの前で、ルルスは……
「どうしよっかなー、うーん、どうすっかなー」
聞こえよがしにわざとらしく呟く。
「何が?」
タンザの質問に、ルルスは待ってましたとばかりに胸をはった。
「オンナを取り合って魔法イッパツで追い払うとはねー。うーん、私をカノジョという事にしたいかぁ。まぁタンザの事は友達としては好きだし? もっと深いナカになりたいと思われちゃって、さあどうしよっかなー」
浮かれて軽い足取り、まさに有頂天というヤツだ。
三人組は見下していた相手のせいで女が離れていき、なのにタンザが女連れであった事が癪に障って、嫌がらせが主目的だったであろう。
タンザは人を一方的に見下す悪意に腹が立ったのだ。
別にルルスを取り合っていたわけではないのだが――
鼻歌まじりに上機嫌のルルスに、そこら辺は言い出し難かった。
(余計な事を言うと機嫌悪くしそうだね……)
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