13 昔の知人達に会う僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。
日に日に己の実力が上がっていく事を実感する毎日。タンザはとても充実していた。
その日はダンジョンへ行かない「休日」だったので、回復用の消耗品を何種類か買い足しておこうと思い、タンザは道具屋へ向かった。
修行の探索で得た収入も、パーティで分配している。だが引率してくれる先輩には、せめてものお礼として、2人分渡していた――5人で探索したなら6等分し、引率者には2倍渡すというように。
それでも何度もダンジョンへ潜ればある程度まとまった金にはなる。
道具屋の暖簾を潜り、棚に並べられた様々なポーションを物色して――タンザは見知った顔を見つけた。
「あ、久しぶり」
声をかけると相手は振り返る。
安物街で知り合った、うだつの上がらない冒険者連中の一人。低ランクのリザードマン戦士だった。
「タンザか……クランを移ったそうだが、元気でやっているか?」
「うん、<力の一打>より水が合うよ」
「そうか……」
リザードマンの戦士は沈みがちに呟く。相変わらず上手くいっていないようだ。
「そろそろ昼だし、屋台市場にでも行く?」
自分も少し前までは彼と同じだった事を嫌でも思い出してしまい……タンザはその戦士を食事に誘った。
愚痴というものは聞く者がいるだけでもありがたい物なのだから。
――屋台市場――
その日は他の低ランク冒険者達が何人か訪れていた。彼らとも一緒に、皆で大きめのテーブルにつく。
職業も種族も年齢もまちまちだが、浅層でうろうろしている低ランク冒険者である事は共通していた。
安い炒め飯や串焼きを食べながら、次々と現状への不満が吐き出された。
「はぁ、なかなか探索が進まないや。やっぱ専業の回復職が要るのかなあ」
「ウチはせっかく入ってくれた盗賊が罠にかかって死んでしまった……」
そうした溜息交じりの呟きに「そうだよね」「大変だね」と相槌をうつタンザ。
「まぁ皆はまだ若い。時間は十分ある」
努めて笑顔でそう言うのは、全身が長い体毛に覆われたムーク族の錬金術師だ。口ぶりからある程度の歳になっているようだが、長くやっても芽が出ない、でもやめ時を見極められない……そんな者も少なからずいる。
「タンザさんは順調なようですね」
そう言ったのはタンザより年下の小柄な少年騎士。ランク不相応に立派な甲冑を身に纏っているが、その容姿ときたら男なのか女なのは一見ではわからない。
富裕な実家を持ちながら様々な理由があって冒険者になる者もいる。そうした者は開始時の金に余裕はあるが、悲しいかな、才能の有無は別問題だ。
タンザは少し引け目を感じながらも正直に答えた。
「うん。今のクランは面倒見がいいから」
そこからしばらく、皆が聞きたがるのでタンザの現状の話になった。
「ほう……低レベルパーティの底上げを担当する人がいるのか? 変わってるな」
リザードマンの戦士は信じ難いようだ。実際、道場でも訓練場でもないのに他者の技量向上を手伝う冒険者など、この世界には滅多にいない。
さらにホビットの盗賊が――悪意とまではいかないが――否定的な言葉をなげかけた。
「けどよぉ、冒険者なんて自分の腕が頼りの生き方してて、他人に引っ張り上げてもらおうなんてちょっと甘えじゃねぇか?」
なかなか立派な心構えである。結果を出せていない者が他人へいっぱしの口を叩くのをどう受け止めるかは難しい所だが。
だがタンザは笑顔に努めた。ついこの前までここにいた者の一人なのに、適当なご高説を垂れ流すつもりは無い。
ただ<明けの明星>のやっている事を否定されたくはないので、理由も話してはおいた。
「……というわけなんだ。クランの危機を皆で解決したのがきっかけだから、特別とは言えるかも」
それを聞くと盗賊は納得する。
「じゃあ今から面倒みてもらって甘い汁吸おうというヤロウはお断りだな」
「さ、流石にそういう人は遠慮してもらうんじゃないかな」
タンザが言うと、戦士が頷いた。
「ふむ。当然の事だ」
――翌日――
朝早くから<明けの明星>を訪れる物達がいて、クラン長のカルロはホテルのホールでそれに対応する事になった。
それを見てタンザはびっくり。
やってきたのは昨日いっしょに昼食をとった、うだつの上がらない安物街仲間のうち二人だった。そして彼らの用件はクランの移籍だったのだ。
「恥を忍んでお願いしたい。<明けの明星>に移籍させてもらえませんか」
そう言って平身低頭しているのはムークの錬金術師である。
「私に才能が無いのはこの歳からしても明らか。しかし悪あがきは全てやっておきたい」
「ボクも同じです。前のクランは辞めて来ました。ここで駄目なら故郷に帰ります」
その隣で同じく頭を下げているのは、年下の少年騎士だ。
昨日の話の流れでは、ランクの底上げをしてもらいたくて途中加入する奴は不要……そういう話だったのに。
この二人はそれを聞いた上でやってきたのである。
「クラン長……」
気まずさを感じつつ声をかけるタンザ。
「知り合いか?」
訊いて来るカルロに、タンザは昨日の事を話して――
カルロは二人に告げた。
「言っておくが相互協力だ。戦力になってもらうための底上げだから、ランクを上げてから他へ行くというなら、こちらにも相応の考えがあるぞ」
「「はい!」」
即答する二人の目に、少なくとも必死さはあった。
その頃には他のクランメンバーも集まっていた。戦士の一人が新参の二人へ気さくに声をかける。
「錬金術師の旦那もお嬢ちゃんも、よろしくな!」
「……ボク、男です」
少年騎士が項垂れた。
驚く戦士の後ろでフェルパーの女盗賊・ルルスが肩を竦める。
「何度も見たパターンだねぇ」
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