12 懐かしい人と会う僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。
ギリウス:ドワーフの戦士。
通路の奥では白い影が宙を舞っていた。それらに追い詰められ、壁に貼りつくようにして震えている冒険者がいる。
そこへ駆け付けたクラン<明けの明星>の一行。
タンザは白い影を見て、それがクランのモンスターリストに載っていた事に気づく。
「フィアーゴーストか!」
金切り声で生者を恐慌状態に陥れ、生命力を吸い取って衰弱死させる不死怪物である。
不死に精神属性の呪文は効かない。
だがタンザは青い煌めきとともに呪文を行使した。揺らめく炎が幻のように宙へ生じ、ゴースト達へ覆い被さる。
ゴースト達の金切り声に、己らが焼かれる事への悲鳴が混じった。
そこへパーティの仲間達が次々と斬りかかる。
恐慌の声にドワーフの戦士ギリウスが立ち竦まされたものの、フェルパーの女盗賊・ルルスやヴェルキリーのレイラが次々とトドメを刺した。
ゴーストを一掃した一行。
タンザは襲われていた冒険者へ声をかける。
「もう大丈夫です。治療の必要があれば僕達が……あっ!?」
驚くタンザの前で、救助された者も驚いていた。
「タンザ!? こんな所で……」
赤毛に釣り目の女魔術師。かつて同じパーティにいたエリカだった。
戸惑うタンザ。
しかしその横でレイラが取り乱し気味に声を荒げた。
「エリカ!? お前にはまだ早いと言っただろう!」
「知り合いなんですか?」
思わず訊いたタンザに、レイラは呻くように答える。
「私の妹だ……」
ランフランク伯爵家の娘が二人して冒険者になっている。
これはこの世界でも奇妙で稀な事であった。
二人とも、家で顔を会わせた時に、互いの現況を話さないでもない。特にレイラは遭難しかけたのだし、その時の事やそれからの状況をエリカだって聞きもした。
その際にタンザの事も話に出たのだが――
「お姉ちゃんから、タンザを連れて7階に降りていると聞いて。それをパーティの皆に話したら、アイツが行けるなら俺達も行ける筈だって」
タンザを追い出した後、パーティには女の精霊使いを入れて探索を進めていたそうだ。
その精霊使いに旧パーティメンバーは事あるごとにタンザを引合いに出し、自分達を持ち上げて話すので、エリカはつい「タンザは別のクランで順調にやっている」と告げてしまったという。
すると旧メンバーは何を勘違いしたのか「アイツが7階層にいるなら俺達も行ける」と言い出し、ここへ降りてきてしまったのだ。
そしてゴーストに遭遇し、恐慌状態に陥って、エリカを置いて皆逃げてしまった。
恐慌状態に陥った者がどうなるかは魔物とのレベル差も影響するし、差が酷い場合はショック死する事さえありえるが、不確定な要素でもある。
錯乱して逃走する者達の中、エリカ一人が金縛りにあって動けなくなったのは、不運だったとしか言い様がない。
「今のパーティで本当にやっていけるのか、悩むようなら<明けの明星>に来いと前から言っているだろう。むしろ最初から……」
レイラがそう言うとエリカはそっぽを向いた。
「お姉ちゃんにおんぶに抱っこされるのは嫌だったんだもん」
「それで失敗していたら世話は無い!」
そう叱責してから、エリカは他のメンバーへと振り返り、頭を下げた。
「皆、すまない。この子を地上まで送らせてくれ。今日の修業が中断した詫びは、金か何かできっちりと……」
少し考えて切り出すタンザ。
「救助した人を無事に届けるのも、大事な修行だと思います」
「良い事はやっておくべきだね!」
そう言ってルルスも賛同する。
ギリウスも黙って頷き、こうして地上への帰還が決まった。
通路を引き返しながら、エリカが俯いて小さな声でタンザへ話しかける。
「……追い出した私なのに、借りができたわね」
タンザはそれ聞いて……穏やかに微笑んだ。
「僕の呪文習得だけど。昔は皆にダメ出しされても仕方なかったのかも」
「?」
驚くエリカ。
「ある程度の戦闘力を確保してから他の分野を抑える、という方法でも良かったよね。最初から器用貧乏な方へ向かっていたかな、と、今では思うんだ」
タンザはそう言って前を……パーティの進行方向へ向き直る。
「だから攻撃の呪文や精神以外の領域も学ぶようにはしたんだ。さっきの呪文は僕が使える火領域の攻撃魔法なんだけど、早速役立ったよ」
【サイオニック・ファイヤー】火領域の攻撃呪文。超能力で発火現象を起こし、敵に炎を浴びせる。
――<力の一打>拠点のホテル――
エリカを連れて帰還し、クランの幹部に説明する。
「そうか。ウチの者が世話になったな」
応対した幹部の武闘家・エラソは露骨に苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
「まぁ……逃げた連中には俺からキツめに言っておく」
ホテルの階段から伺いながら、<力の一打>のメンバーがひそひそと話す。
「あれ、追い出されたタンザじゃね?」
「それにメンバーを助けてもらったのかよ、アイツら」
用件も終わり、ホテルから去る<明けの明星>の一行。
去り際にタンザが振り返ると、エリカは居心地悪そうに小さく頭を下げた。
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