11 修行に励む僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。
――ダンジョン地下7階――
麻痺毒をもつ怪鳥コカトリスの群れがけたたましい鳴き声をあげた。
だが群れの半数は既に倒され、迷宮の床に躯を晒している。
さらに1体を貫き、しかしそこでヴァルキリーのレイラは一歩退いた。
「敵の動きは見ていたな? 次はお前達だ」
彼女の後ろから斧を担いだドワーフの戦士が飛び出し、かけ声とともにコカトリスへ斬りかかる。また1体、魔物が叩きのめされた。
残る怪鳥は2体。いっせいに戦士へ襲い掛かる。
そこへタンザが青い煌めきとともに呪文を放った。するとコカトリスの1体が苦悶に身を捩り、頭から出血すると、もう片方のコカトリスへ猛然と襲い掛かった。
かつてはタンザ唯一の攻撃呪文だった魔法による効果である。
【メンタル・アタック】精神波によって敵の脳を攻撃し、内部ダメージを与えながら錯乱させる。精神領域では初歩の攻撃呪文だが、練達の術者が高い威力で使えば心身へ同時に深刻な被害をもたらす。
麻痺毒をもつ魔物が同士討ちを始め、戦士は無傷で再度の攻撃に転じる。
怪鳥どもが掃討されるまで時間はかからなかった。
レイラ以外のメンバーは少し前までランク3~4程度だった者達、本来ならこの階層には力不足だ。
だがレイラが手本を見せながら敵の数を減らす事で、彼ら低ランク達も実力以上の魔物を相手に勝利を重ね続けた。そして短期間で、もはやこの階層の敵とも互角に渡り合えるようになっている。
様々な魔物の知識がクランの攻略ノートに記され、予習・復習が容易になっている事も大きい。
(地球で遊んでいたRPGなら、敵全部を強キャラで一掃しても、パーティにいるだけの他キャラにも経験値が入ってレベルアップするんだけど…‥)
タンザは魔物と戦いながら思う。
(この世界じゃ見ているだけのレベルアップは無いみたいだ……こうやって実戦に参加しないと。流石にゲームのようには行かないか。いや、ゲーム内では簡略化されている事を実際にやればこうなる……と考えるべきかな)
「ホッホウ、助かったわ」
ドワーフ戦士・ギリウスがタンザに礼を言う。
その傍ら、フェルパーの女盗賊・ルルスは部屋の片隅で宝箱を見つけた。しばらくそれを調べ、やがて自信なさそうに告げる。
「これは……高圧電流じゃないかな? 多分……」
タンザは彼女が不安なのを見て、左手を軽くふった。青い粒子が宝箱へと漂う。
「僕の呪文でも同じ結果だよ」
【ディヴァイン・トラップ】対象やその周辺に仕掛けられた罠を見抜く呪文。
目を丸くするルルス。
「はええ、霊能者は罠も調べられるの! そりゃ透視できるもんな。もしかして罠とか鍵の解除もできる?」
「うん。念動力を応用した物理機構解除呪文【ノック・ノック】があるし、この階層の修業で習得したよ」
「そっかぁ……盗賊いらないじゃん」
肩を落とすルルス。
タンザは彼女に微笑みかけた。
「MPが無限にあればね。僕には荷が重いから、ルルスを頼らせて欲しいな」
途端にルルスの表情が一転、ぱあっと明るくなる。
「まっかせー!」
そして上機嫌で蓋の隙間にピックを差し込み、罠を外し始めた。
二人のやりとりを見て、ギリウスが「たいしたもんだ」と呟く。
「しかし霊能者て何をする魔術師なのか、今だにちと理解できないんだが。火力型じゃないとは前に聞いたが」
「重視しているのは攻撃や防御みたいな行動の種類ではなく、精神領域という属性だね。例えば……水属性には、冷気での攻撃も、水領域を利用した回復も、水中呼吸みたいな能力付与も行う。風属性でも真空を使った攻撃や防御の呪文もあるし、飛行する魔法もある。僕ら霊能者は精神に属する領域の呪文を、種類を問わずに学ぶんだ。結果、攻撃も無いわけじゃないけど、透視や念動力、催眠や身体操作の方に偏るね」
説明しながらタンザはギリウスが戦闘で負った傷に触れた。
青い光が輝き、負傷が癒えて塞がってゆく。
【ヒール・ウーンズ】傷を治す、基本的な回復魔法の一つ。
ギリウスが感心して「なるほど……」と呟く。
「属性に特化したタイプか。これが炎術師とか風術師なら、もっとわかりやすかったんだろうが。なんでタンザが他所で無能扱いされてたのか不思議だったが……世の中は頭良い奴ばかりではないからな、はっきり主張せなんだら、わかってもらえなくても仕方ないぞ?」
「返す言葉もない」
苦笑するタンザ。
その肩をギリウスが上機嫌で叩いた。
「ま、おかげでワシらの所に来てもらえたわけだが。そう考えればラッキーよな!」
和気藹々とじゃれあう後輩達を、レイラは密かに微笑み、嬉しそうに眺めていた。
しかしすぐに普段通りの落ち着いた表情を作り、声をかける。
「そろそろ先に進むぞ。気を引き締め直せ」
「はい!」
後輩達は威勢よく応えた。
改めて前進する一行。各階層のMAP作成も修行と同時進行で進み、どこでどんな敵の出現頻度が高いかも判明しつつある。
「そろそろ不死怪物が出る頃だ。適した戦法を考えるように」
そう言いつつレイラはダンジョンの扉を開ける。
その向こうは暗い通路だ。
その通路の奥から悲鳴が聞こえた。
「誰か苦戦してるんじゃない?」
ルルスの言葉にレイラが頷く。
「行ってみよう。状況によっては助太刀する」
一行は通路へ駆け込んだ。
御覧いただきありがとうございます。
何かしら反応がいただければ嬉しい限りです。




