10 新天地を得た僕
タンザ(タンザライト):主人公。霊能者という精神領域の魔術に長けた珍しい魔術師。
ルルス:フェルパー(猫獣人)の女盗賊。
レイラ:人間の女性。職業はヴァルキリー。
カルロ:ラウルフ(犬獣人)のロード。大手クラン<モーニングスター>のクラン長。
――大通りのホテル――
<明けの明星>の冒険者達が拠点のホテルに帰還した時、空はすっかり白んでいた。
クラン長・カルロは皆に頭を下げる。
「今夜は俺の我儘に付き合わせてすまなかった。皆にはいくら感謝してもしきれない」
その隣でヴァルキリー・レイラも頭を下げた。
「感謝するのは私だ。皆は私のパーティの、命の恩人だ」
カルロはタンザの前に来た。
「君がこのクラン<明けの明星>に来てくれるなら歓迎する。君の考えた、クラン皆でダンジョンの情報を集めるというやり方……ぜひ検討したい」
その後ろで幹部のドラコン盗賊が「うむ」と呟く。
「レイラ達が発見した隠し通路やその探索予定を告げてれば、今回の事はもっとあっさり解決した。案外バカにした方法でもないのかもしれん」
しかしやはり、皆が無条件に受け入れるわけではない。
冒険者の中には疑問を口にする者達もいた。
「正直、ちょっと抵抗あるけどな。せっかくの発見で他人ばっか得されるんじゃないかと……」
「それにクランで集めた情報を他所のクランに持って行かれたら、なんか丸損してバカみたいだしさ」
タンザは彼らに反発はしない。むしろ頷いて同意を見せる。
「そうですね。相互協力する気のない人に利用されないよう、いろいろ規則や対策を考えないといけない……それには同意します」
地球でゲームの攻略サイトを作るなら、閲覧して利用するだけの者が何人いても構わない。
しかしこの世界で扱うのは冒険者達の生活や収入に直結する貴重な情報なのである。それをただ利用される一方になれと言う気は無かった。
利用したいなら協力もしてくれ、というのがタンザの偽らざる本心でもある。
「それに皆で情報を集めるといっても漠然とし過ぎてさあ。何をどう教え合えばいいのやら」
そう言ったのはフェルパーの女盗賊・ルルスだ。
それを聞いてタンザはちょっと考え、実例を示す事にした。百聞は一見に如かずだ。
「ノートはありませんか?」
カルロに訊くと、彼は仲間の魔術師から羊皮紙のノートを一冊貰った。
それをタンザに差し出す。
「これでいいか?」
頷いてノートを受け取るタンザ。
ホテルのラウンジにあるテーブルにそれを広げ、皆の前で書き記していく。
「まず階層を記します。このノートは地下1階にしましょう」
地下1階。
そう書いてからすぐ下に罫線を引く。
「次にMAPを記しましょう。この時、座標もつけましょう」
縦横に字を書き、地下1階のMAPを描いていった。
「そして……座標と、そこに何があるのか。これを次からのページに記録していきます」
そう言うと自分が作っていたノートを取り出し、それを参照し、クランのノートの次ページから、自分の知る限り、地下1階で見つけた物や変わった部屋の事を書き映した。
「これを完成させれば……地下1階に入った事が無い者でも、読む事であらかじめどこに何があるのか知る事ができます」
そう言って顔をあげ、クランの冒険者達を見渡す。
幹部のエルフ魔術師が「ほうほう」と呟き頷いた。
「そういうノートを各階層ぶん、皆で情報を集めて造っていくわけだな」
「はい。それと……すいません、次は羊皮紙を何枚か」
「ノートじゃないのか」
そう言いつつもカルロはまたも羊皮紙を渡してくれた。
そこに「オーク」と名前を書き、大雑把に豚面の魔物兵を描く。あまり上手くはないが。
「これは魔物の記録です」
そう言って特徴や主な攻撃方法、よく効く呪文属性などを記す。
そして隅に短剣の先で穴を開けた。
「こうして……名前順に重ねて、紐で綴るんです。遭遇した階層ごとに造れば、魔物への対処や対策はずいぶん楽になると思うんです。ただ複数階層で遭遇する魔物もいますから、階層のノートとは別にした方がいいかと」
言いながら何枚か地下1階の魔物を書いて、羊皮紙を紐で一まとめにした。
それを覗き込んでいた駆け出し冒険者の魔術師が呟く。
「へえ……地下一階にも、虫系や爬虫類とかに氷属性が弱点の敵が結構いるんですね」
「動物型の魔物はそこら辺わかり難いが、気づけば省コストで倒せるから継戦力増加につながるな……と、そうか。今こいつは『気づけた』わけだ」
中堅冒険者の戦士がそう言いながら、話しながら途中で理解したようだ。
こういった魔物への対処は、ある程度の場数を踏んだパーティなら蓄積している。
だがそれを他のパーティへ教える事はほとんどなかった。
解散や他のパーティへの移籍などはいくらでもある話だし、その時に経験からの情報は伝わってしまうので、絶対の秘密として厳守するような事は無いのだが……だからといって商売敵やライバルへ積極的に教えるわけもない。
知られるなら仕方がないが、わざわざ教えてやったりはしない。
それがこの世界の冒険者の、経験で得た知識への基本的な姿勢だ。
それをクラン内とはいえ積極的に持ち寄り、共有しようというタンザの案。
こうして詳細を聞いてもらえる機会があって、初めて理解される物だった。
「今日はもう皆が休むだろうし、起きれば昼過ぎだ。ダンジョンへ出かけるには遅いだろう。ここは一つ、昼から皆でこのダンジョン情報集をできる所まで作ってみるか」
カルロの提案に、もはや誰も反対しなかった。
ドラコン盗賊が頷く。
「今ここにいる連中だけの秘密だぞ。他所にばらしたら許さんからな」
――その日の夜――
昼過ぎから情報集……「攻略本」作りにクランの皆で熱中する。
他所に漏れる事を警戒し、大きな部屋をもう一つ借りての作業だ。夜までかかり、地下10階ぐらいまではある程度の形になった。
「なかなか上出来ですね。行った事のある階層にも知らない事が意外とある物です」
エルフ魔術師のその言葉は、クランの皆が感じている事だった。
沢山のノートや魔物の記録の綴り。
テーブルの上のそれらを眺めつつ、レイラが言う。
「……タンザ。私は皆にお礼をしようと思う」
「え? あ、はい」
突然の話に面食らうタンザ。
しかしレイラは言葉を続ける。
「このノートがあればできそうな気がしてきた」
「ええ。レイラさんからの情報はクラン長と並んで最先端ですからね」
「いや、そうじゃない。これがあれば、有利な場所で適切な相手に効果的な修行ができる。短期間で戦力の底上げができるぞ」
レイラが皆を見渡す。
決意と期待をこめた瞳で。
魔物の出る場所やその傾向と対策。そこまでの道のり。
それらを把握する事でレイラが考えついたのは……いわゆるレベリング。
それもレベル上位の者が低レベルの者を引き上げる作業だった。
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