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悪役令嬢、推し活のために破滅フラグを叩き折る

作者: 黒黄緑

第一章 断罪のはずが、舞台の幕開けですわ!


 煌びやかなシャンデリアが輝く王宮の大広間。壁際には名のある貴族たちが並び、中央には一人の少女が立っていた。


 ――私、レティシア・フォン・アーデルハイト。公爵家の令嬢にして、乙女ゲームの悪役令嬢。


 本来ならば、この場面は「婚約破棄」と「断罪」の瞬間。物語の中の私は、ヒロインをいじめた悪女として、全てを奪われ、家も名誉も失い、国外追放――または、最悪の場合、処刑される運命にあった。


 しかし。


 私は、この世界が乙女ゲーム『悠久の聖女と黒薔薇の王子』であることを知っていた。


 なぜなら、私は前世の記憶を持つ転生者。


 しかも、ただの転生者ではない――


 私は、舞台オタクであり、2.5次元俳優ガチ勢である!!


 この世界には、舞台文化がない。芝居もただの宮廷の余興程度。俳優もいない。2.5次元どころか、演劇そのものが未熟なままだった。


 ……ありえない。こんな状況、耐えられるはずがない!!


 だから私は決めた。


 「この世界に、最高のエンタメを生み出してみせる!!」


 そう、破滅エンド? そんなもの、推し活のためにぶち壊してみせるわ!!


 さて、現実に戻ろう。


 私は今、第二王子エドワード殿下の前に立っている。彼の隣には、清楚な金髪碧眼の少女――聖女リリアナ。


 彼女こそ、この乙女ゲームのヒロイン。そして、私の婚約破棄を宣言させる役目を持つ少女だった。


「レティシア・フォン・アーデルハイト!」


 エドワード殿下が厳しい声で私を見据える。


「貴様の悪行の数々、この場をもって断罪する!」


 そう言って彼は、私に向かって銀の剣を突きつけた。


 ……うん、良い感じのテンションね。


 私は冷静に、彼の目をじっと見つめた。いや、むしろ見惚れてしまいそうだった。


(素晴らしい……!この距離、この緊張感……まさに舞台映えする構図だわ!!)


 私は思わず震える手を握りしめた。


 そう、エドワード殿下は"美しい"のだ。整った顔立ち、鋭い眼差し、長身に合った優雅な所作――王子の名にふさわしいカリスマ性を持っている。


 だけど、惜しい。


(このセリフ回し……惜しいわ! もっと声に抑揚をつけて、感情の起伏を意識して! そして剣を抜く瞬間、もう少し間を持たせたほうが効果的!)


 いや、待って。私、何を考えているのかしら? 今は断罪の場でしょう!?


 だが、私の脳内ではすでに「エドワード王子、舞台俳優デビュー計画」が組み立てられ始めていた。


 いやいや、それどころじゃない!まずはこの場を切り抜けないと!!


第二章 舞台監督令嬢の華麗なるプロデュース


1.婚約破棄、されましたわ!でも問題ありませんわ!


「レティシア・フォン・アーデルハイト! 貴様との婚約は、正式に破棄する!」


 王子の高らかな宣言に、大広間はどよめいた。


 ふむ、来たわね。


 本来ならここで私は涙ながらに縋るか、逆上して暴れるかのどちらかを選ぶべきだった。そうすれば、王子とヒロインの愛の物語はより一層ドラマチックなものになり、貴族たちは「悪役令嬢の醜態を見た」と満足することだろう。


 だが、私はそうしなかった。


「――まあ、素晴らしい!!」


 私は一拍置いて、感動の拍手を贈った。


「いやぁ、エドワード殿下! 完璧なタイミングとセリフでしたわ! 王子としての気高さ、そして決意を感じる堂々たる態度! まさに劇のクライマックスにふさわしい演出!」


「な、何を言っているんだ……?」


 王子は面食らった顔をしている。


 隣のリリアナも戸惑いの表情を浮かべたままだ。可愛らしいヒロイン演技だが、彼女はまさか自分より悪役令嬢の方が目立つ展開になるとは思っていなかったのだろう。


「ですが、今のセリフ回し、ほんの少し余韻が足りませんわね。殿下、もう一度申し上げてもよろしいかしら?」


「ふざけるな!!」


 うーん、惜しい。もっと「怒りを抑えながらも威厳を持たせた低めのトーン」で言うべきなのだけど。まぁ、現時点では仕方がないわね。


 私はすっと背筋を伸ばし、優雅にお辞儀をした。


「では、私は公爵家に戻りますわ。お二人の愛が結ばれたこと、心より祝福申し上げますわよ?」


 そう言い残して、私は悠々と大広間を後にした。


 ――婚約破棄、大成功!


2.推し活の第一歩は、劇場設立ですわ!


「お嬢様……本当に、このままでよろしいのですか?」


 私が公爵邸へ戻ると、使用人たちが心配そうに出迎えた。


「何を仰るの? むしろ計画通りですわ!」


「け、計画通り……?」


「ええ。私はもう、婚約破棄された『悪役令嬢』ですもの。この立場を活かして、自由に行動できるようになりましたわ!」


 私は大きく腕を広げた。


「これから私は、新たな舞台を作りますの! すなわち、この世界初の『演劇文化』の創造ですわ!」


 使用人たちは困惑していたが、そんなことは気にしない。


 まず私が最初にすべきことは――


 劇場を作ること!


 私は公爵家の資金を使い、王都の一角に土地を確保。そこに壮大な劇場を建設する計画を立てた。


「ここを『グラン・テアトル・ノワール』と名付けますわ!」


 異世界には劇場という概念がほとんどない。貴族の娯楽といえば、舞踏会や詩の朗読会、あるいは音楽演奏ぐらい。でも、そこに本格的な舞台演劇を持ち込めば、新しい文化が根付くはず!


 そして、私の"推し"が生まれる土壌を作るのだ!!


3.俳優がいないなら、スカウトすればいいのですわ!


 しかし、問題があった。


 この世界には、演劇俳優という職業が存在しない。


 貴族の余興で演じる者はいても、それはあくまで趣味の延長。本格的なプロフェッショナルな役者はいない。


 ならば、どうするか?


 育てればいいのよ!!


「貴族も平民も関係ありませんわ! 最高の俳優を見つけ出しますわよ!」


 私は王都中を巡り、役者の素質がありそうな人材を探し始めた。


 その中で見つけたのは――


① 大道芸人の青年・カイル

 王都の広場でパントマイムを披露していた青年。表情の作り方、身体の使い方が抜群だった。


② 元傭兵の男・ジークハルト

 武器の扱いに長けた屈強な男。戦闘シーンの再現に最適! 本物の剣技を取り入れた舞台を作るなら、彼の存在は不可欠。


③ 宮廷詩人の美青年・ルシアン

 貴族たちに詩を朗読していた優雅な青年。声の通りがよく、セリフ回しの美しさは舞台向き!


 こうして、私は次々と人材をスカウトし、「黒薔薇歌劇団」を立ち上げた。


4.そして、異世界初の舞台が幕を開ける


 数ヶ月後――


 ついに、異世界初の舞台劇『黒薔薇の王』が初演を迎えた。


 会場は貴族や庶民たちで埋め尽くされ、観客は開演を今か今かと待ち望んでいる。


 そして、幕が上がる。


 ――黒薔薇の王、降臨。


 闇を纏いながら現れた主役・カイルが、劇場全体を支配するような存在感を放った。


 観客は息を呑み、完全に彼の演技に魅了されていた。


(そうよ……!これが私の求めていた世界!!)


 私は確信した。


 異世界のエンタメ革命は、ここから始まるのだと!!


 第三章 推しのために全力で未来を変える


1.王宮に響く異世界初の喝采


 異世界初の舞台『黒薔薇の王』の幕が上がった。


 劇場『グラン・テアトル・ノワール』には、王都の貴族や富裕層だけでなく、興味本位で集まった庶民たちも詰めかけていた。


 最初こそ「演劇とは何なのか?」という疑問を抱く者もいたが、幕が開いた瞬間、その空気は一変した。


 暗闇の中、一筋の光が舞台を照らし、漆黒のマントを翻しながら主役が現れる。


「――漆黒の薔薇は、決して枯れはしない」


 カイルが放つ一言。その圧倒的な存在感と、堂々たる立ち姿に、会場の空気が張り詰める。


 続くジークハルトの剣戟シーンは迫力満点で、観客は固唾を飲んで見守っていた。ルシアンの語りも美しく、観客を完全に異世界の物語へと引き込んでいく。


 私は観客席からじっと見守りながら、確信した。


(これは、成功する!)


 王都に新たな文化を生み出し、最高の推しを育てるという野望。その第一歩が、今ここで確実に踏み出されたのだ。


 そして――


 カーテンコールの瞬間、劇場は割れんばかりの拍手に包まれた。


 舞台上の俳優たちが驚きに目を見開く。何しろ、この世界では「演劇文化」がまだ未発達。拍手が起こるというのも初めての出来事なのだ。


「す、すごい……!」


「俺たちの演技で、こんなに……」


 カイルやルシアンたちが感動に震える姿を見て、私は満足げに微笑んだ。


(さぁ、ここからが本番よ!)


 貴族たちが「新しい娯楽」として興味を持ったことも確認した。これで、さらに王宮へと進出するための足掛かりができる。


 ――私の推し活、次のステージへ進む時が来ましたわ!


2.王宮での公演決定!? まさかの依頼主は……


 舞台の成功から数日後、私は公爵家でのんびり紅茶を楽しんでいた。


 そこへ、私の執事が慌てた様子で駆け込んできた。


「お、お嬢様! たいへんです!」


「まあ、どうしたの?」


「王宮からの招待状が……! なんと、国王陛下が舞台を御覧になりたいとおっしゃっています!!」


 私はゆっくりとティーカップを置き、にっこりと微笑んだ。


「……ついに来ましたわね!」


 王宮での公演が決まれば、もはや演劇は「ただの一過性の流行」ではなく、「王族公認の文化」として確立されることになる。


 それはつまり――


 舞台俳優が、正式な職業として認められる日が近いということ!!


 私はすぐに黒薔薇歌劇団のメンバーを集め、王宮での舞台準備に取り掛かった。


 しかし、ここで予想外の展開が待っていた。


 王宮に着いた私は、国王陛下の前に案内されるはずだった。だが、通されたのは――


「久しいな、レティシア・フォン・アーデルハイト」


「……え?」


 そこにいたのは、王宮の奥深くに封じられていたはずの魔王だった。


3.魔王、まさかの舞台出演!?


「まさか、本当にお目にかかることになるとは思いませんでしたわ」


 目の前の男は、圧倒的な存在感を放っていた。


 長く伸びた銀髪。紅い瞳。漆黒のマント。全身から漂う「圧倒的ラスボス感」。


 そう、彼こそが乙女ゲーム『悠久の聖女と黒薔薇の王子』のラスボス――魔王ヴァルターであった。


 本来、彼は物語の終盤で目覚め、ヒロインや王子たちに討たれる運命の存在。


 しかし、どうやら現状ではまだ本格的に活動はしていないらしい。


 魔王はじっと私を見つめたまま、低く囁いた。


「貴様が、舞台とやらを作った張本人か」


「ええ、ご存じでしたの?」


「……ここ最近、王都の『気』が変わった。この世界の流れが、今までとは違う方向へ向かっているのを感じる。……そして、その中心にいるのは貴様だ」


 魔王ヴァルターは、椅子にもたれかかりながら続けた。


「私に興味はない。だが、"舞台"というものには少し興味がある」


「……まぁ!」


 つまり、この魔王、舞台を見たいの!?


 もしかして、もしかすると、推しになってくれる可能性がある!?


 私は一歩前に出て、満面の笑みを浮かべた。


「それならば、いっそ舞台に出演してみませんこと?」


「……は?」


「魔王様ほどの風格を持つ方が舞台に立てば、観客の度肝を抜くこと間違いなしですわ!」


 舞台俳優の最大の武器は「圧倒的な存在感」。そして、それをナチュラルに持っているのが目の前の魔王である。


 ならば、彼を最高の「悪役俳優」に仕立て上げれば――


 この世界のエンタメ史に、伝説を刻むことができる!!


 私は興奮で震えながら、魔王の手を取った。


「さぁ、魔王様! あなたにふさわしい舞台を用意いたしますわ!!」


「……」


 魔王ヴァルターは、沈黙の後に深い溜め息をついた。


「……面白い。だが、一つだけ条件がある」


「なんなりと!」


 魔王はじっと私を見据え、低く囁いた。


「私を納得させる"台本"を用意しろ。そうでなければ、この話はなかったことにする」


「……!」


 魔王を納得させる台本――つまり、異世界最高のシナリオが必要だということ!


 ――ならば、やるしかない。


 異世界最高のエンタメを創り上げるために、私は全力で魔王を推し活してみせる!!


第四章 魔王主演、異世界史上最高の舞台を作りますわ!


1.魔王のための最高の台本を作りますわ!


「魔王ヴァルターを主演にした舞台――それが次なるプロジェクトですわ!」


 私は公爵邸の書斎にこもり、机に大量の紙を広げながら、熱気に満ちた声を上げた。


 目の前には、黒薔薇歌劇団のメンバーたち。主役俳優のカイル、剣戟担当のジークハルト、語り部のルシアン。そして、私の右腕であり舞台監督のメアリーが、目を丸くしていた。


「……えっ、魔王を主演にするって……あの、本物の、魔王ですか?」


「ええ、そうですわ!」


 カイルが戸惑いながら尋ねた。


「その、魔王って……たしか、かつて世界を滅ぼしかけたっていう……?」


「ええ、そうですわ!」


「ええ、そうですわ!って簡単に言わないでください!」


 メアリーが頭を抱える。


 無理もない。普通なら、魔王は世界の敵であり、討たれるべき存在。そんな存在を主演にするなど、異世界演劇史どころか、異世界史上初の暴挙に違いなかった。


 しかし。


 推しの魅力を世界に伝えるためなら、常識など知ったことではありませんわ!!


「でも、どうして魔王が舞台に出演することになったのですか?」


「それはもう、魔王様が『舞台に興味がある』と仰ったからですわ!」


「そんな理由で!?!?」


 メンバーたちがざわめく。


 まぁ、理解が追いつかないのも無理はない。


 だが、ヴァルター様は確かに言った。


『私を納得させる"台本"を用意しろ』


 つまり、彼は舞台に出ることを拒否しているわけではない。


 ならば、最高の台本を作り、彼を舞台へと導くのみ!


「いいですか、皆さん!」


 私は力強く手を叩いて、彼らの視線を集める。


「私たちの目標はただ一つ! 魔王ヴァルター様に、最高の悪役を演じていただくこと!!」


「そもそも、魔王が悪役じゃない舞台ってありますか……?」


「いいえ、ありませんわ!」


「即答!」


 私は満面の笑みを浮かべながら、机に広げた紙の山を指差した。


「ここに、新しい台本の構想をまとめましたわ!」


 そのタイトルは――


『堕ちた王冠――黒薔薇の魔王』


 この物語は、かつて世界を支配しながらも滅びゆく運命を受け入れざるを得なかった"魔王"の視点から描かれる。


 彼はなぜ戦い、なぜ滅びるのか――


 そう、この作品こそ、魔王ヴァルターというキャラクターを異世界に刻み込むための最高の舞台!!


2.魔王ヴァルター、舞台稽古に降臨する


「――魔王様、いかがですか?」


 私は意気揚々と台本を差し出した。


 ヴァルター様は玉座に座りながら、無表情でそれを受け取り、静かにページをめくる。


 重い沈黙が流れる。


(……ど、どうかしら? 気に入ってくださるかしら?)


 私は固唾を飲み、彼の反応を待った。


 そして、数分後――


「……なるほど」


 ヴァルター様はゆっくりと口を開いた。


「この物語、私の『過去』を語るものか」


「ええ! 魔王様の魅力を最大限に引き出すための台本ですわ!」


「……私の魅力?」


「そうですわ!」


 私は熱く語り始める。


「魔王様の圧倒的な存在感、カリスマ性、そして哀愁――! それらを余すことなく表現することで、観客はきっと魔王様に心を奪われますわ!」


「……ふむ」


 ヴァルター様は顎に手を当て、しばらく考え込む。


 そして、ついに――


「……舞台に立つのも、悪くはないかもしれんな」


「!!!」


 私は思わずガッツポーズをした。


 魔王様、舞台出演決定ですわ!!


3.魔王の舞台演技、まさかの天才的才能!


「魔王様、こちらが稽古場ですわ!」


 王宮の特設舞台に案内されたヴァルター様は、興味深そうに舞台の端から端までを見渡した。


 しかし、次の瞬間。


「……で、私は何をすればいい?」


 魔王は腕を組みながら、やや不機嫌そうに尋ねた。


 私は笑顔で応える。


「まずは発声練習からですわ!」


「発声……?」


「そうですわ! 俳優にとって、発声は何より大切です!」


 私は手本を見せるように、胸に手を当てて息を吸い込んだ。


「――漆黒の薔薇は、決して枯れはしない!」


 すると――


「――漆黒の薔薇は、決して枯れはしない。」


 ……え?


(ちょっと待って!? なんか、魔王様の声、めちゃくちゃすごくない!?)


 深みのある低音ボイス。王の威厳を持ちながらも、どこか孤独と悲哀を感じさせる響き。


 ……え、これもう、プロの舞台俳優なのでは!?


 周囲の劇団員たちも、驚きに目を見開いている。


「す、すごい……」


「今の発声、完璧すぎる……!」


「こ、これは……!」


 私の脳内では、すでに確信が走っていた。


(魔王ヴァルター様……天才俳優だわ!!)


 もはや稽古すら必要ないレベルの表現力とカリスマ性。


 これなら、本当に異世界最高の舞台を作ることができる!!


 私は震える手を握りしめ、心の中で叫んだ。


(魔王様……私の最推し俳優として、異世界を魅了しましょう!!)


第五章 魔王主演、異世界最高の舞台が開幕!


1.王宮公演、ついに開幕!


 そして、ついにその日はやってきた。


 異世界初となる王宮公演――その主演を務めるのは、他でもない魔王ヴァルター!!


 この瞬間を迎えるまで、準備には想像を絶する苦労があった。王宮の貴族たちの反対を押し切り、魔王が舞台に立つことを認めさせるため、私たちは何度も交渉を重ねた。


「魔王を舞台に立たせるなど言語道断!」


「演劇など低俗な娯楽!」


 そう言われるたびに、私は笑顔でこう返した。


「では、実際にご覧になってからご判断くださいませ?」


 結局、国王陛下自らが「では、一度見てみよう」と仰り、王族や貴族たちが勢ぞろいする形での公演が決定したのだった。


 この公演が成功すれば、演劇は正式に王宮の文化として認められ、私たちの劇団は異世界史上初の「公式劇団」として確立される。


 しかし、それ以上に重要なこと――


 私の最推し、魔王ヴァルター様の偉大なる舞台デビュー!!


 劇場の幕が上がるその瞬間、私は心の中でガッツポーズを取っていた。


2.魔王ヴァルターの開幕演技――異世界の歴史が変わる瞬間


 ――闇の帳が落ちる。


 観客席の空気が凍りついた。


 闇の中、一筋の光が舞台の中央を照らす。


 そこに立つのは、漆黒のマントを纏った一人の男。


 魔王ヴァルター。


 彼はゆっくりと歩みを進め、紅い瞳で観客を見下ろす。


 ――それだけで、劇場全体が完全に支配された。


 観客は誰一人として声を発さない。


 目を見開き、固唾を飲み、彼の一挙手一投足を見守るのみ。


 その空気をしっかりと感じた上で、魔王ヴァルターは口を開いた。


「……私は、かつてこの世界の王であった」


 その低く響く声が、まるで大地そのものを揺るがすかのように王宮中に響き渡った。


 貴族たちは息を呑み、国王陛下ですらも微動だにせず、彼の言葉を聞き入っていた。


(……すごい!!)


 私は鳥肌が立つのを感じながら、舞台袖で興奮を抑えていた。


 この演技、もはや"演技"というレベルではない。

 いや、むしろ"魔王ヴァルターという存在そのもの"が、そのまま舞台上に降臨しているような錯覚さえ覚える。


 その圧倒的な存在感――まさに、異世界最高の悪役俳優!!


 彼の言葉に続くように、他の俳優たちも演技を始める。


「魔王よ! 貴様の時代は終わったのだ!」


「新たな光の時代を築くため、お前を討たねばならない!」


 カイルやジークハルトたちが、勇者や王族の役を演じながら魔王と対峙する。


 しかし、魔王ヴァルターの演技は圧倒的だった。


 ただ立っているだけで、彼は舞台の全てを支配する。


 そして、ついに――


「我を滅ぼし、新たな時代を築くか……」


 彼がそう呟いた瞬間、観客の心が一斉に揺さぶられたのが、はっきりと感じ取れた。


 貴族たちが言葉を失い、国王陛下も真剣な表情で舞台を見つめている。


 王子エドワードでさえ、かつて私を断罪したことも忘れているかのように、食い入るように舞台を見ていた。


 ――この公演、大成功だわ!!


3.カーテンコール、そして異世界演劇の未来へ

 劇の終盤。


 魔王ヴァルターは、最後の戦いの末に討たれる。


 彼はゆっくりと膝をつき、暗闇の中で微笑む。


「……我の時代は終わる。だが――」


 そして、微笑みながら一言。


「――貴様たちは、果たして何を築くのか?」


 その言葉を残し、彼はゆっくりと倒れた。


 ――沈黙。


 劇場全体が、張り詰めた空気に包まれる。


 そして、次の瞬間――


 ――大喝采!!


 観客たちが一斉に立ち上がり、割れんばかりの拍手を送る。


「す、すごい……!」


「なんという演技……!」


「魔王ヴァルター……彼の演技は、まさに本物の王のようだった……!!」


 貴族たちが感嘆の声を上げ、国王陛下ですらも満足げに頷いている。


 私は心の中で叫んだ。


(やった……! ついに……!)


 異世界に、演劇文化が完全に根付いた瞬間だった。


 舞台の中央では、魔王ヴァルターが静かに立ち上がり、観客の拍手を受け止めていた。


 その表情は、どこか満足げで、そして、ほんの少しだけ楽しそうに見えた。


 ――その時、私は確信した。


(魔王様……あなたはもう、ただの魔王ではありませんわ。あなたは、この異世界最高の舞台俳優ですわ!!)


4.そして、異世界は舞台へと変わる

 王宮公演の成功により、演劇は正式に王族の娯楽として認められた。


 『黒薔薇歌劇団』は国王直轄の劇団となり、異世界全土へと舞台の波が広がっていった。


 そして――


 魔王ヴァルターは、異世界初の「伝説の俳優」となった。


 かつて世界を滅ぼしかけた魔王が、今や世界を魅了する存在となったのだ。


 私は満足げに微笑みながら、紅茶を一口飲んだ。


「これからも、異世界のエンタメ革命は続きますわよ!」


 そして、私は新たな舞台の構想を練る。


 ――次なる目標は、「魔王VS勇者」2.5次元舞台化!!


 私の推し活は、まだまだ終わらない!!



読んでいただきありがとうございました。続きが気になる、面白かったって方はブックマークと下の方にある星マークを付けてください。ものすごく励みになりますので。それでは、次の話でお会いしましょう。

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