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熾り火  作者: 久村悠輝
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第2章

 岩に隠れながらマンドレイクに近付く。まるで白ネギのような姿をしたモンスターは自分の縄張りを警備するかのように徘徊している。買ったばかりのショートソードを握る手にじっとり汗をかく。彼我の距離10メートル、一気に飛び込めば先制を取れる。少年は再びショートソードを握り直した瞬間、目が合った!


「▽┣Д%ゐ@◎♯☆!」


 聞き取れない声を発しながらマンドレイクは丸太の様な腕を振り上げこちらへ猛烈な勢いで向かってくる。危険を察知し木製の円盾(ラウンドシールド)を構える。ガァン! と派手な音をが響いた。まるで巨大な小石がぶつかったような衝撃が円盾を持つ手に走る。そのままたたらを踏みながら数歩下がるが次の腕が目の前にあった。


 勝負は一方的だった。新品のショートソードは硬い外皮に弾き返され、丸太のような腕は円盾を易々と貫通する衝撃を繰り出した。成す術無くサンドバッグにされ少年は大地に横たわっている。


(あ~、まだ早かったか…)


 街を出る前に登録した【基点】(ホームポイント)へ戻ろうかとした時、2匹のキューニィが駆けて来るのが視界の端に見えた。

 キューニィとはこちらの世界で言うキウイにとても似た鳥だ。ふさふさな毛の様な羽毛に細長い嘴、短くてどっしりした足はまさにキウイの特長だ。

 しかしキューニィはデカい。そしてユルい見た目に反してとてもとても速い。嘴に轡を噛ませ手綱を結い、背中には鞍とそこから垂れ下がる鐙。それら一式は馬具そのものだが、鳥だから鳥具…になるのか。

 そんな鳥が身動きが取れない自分に向かって駆けて来るのは恐怖以外の何者でもない。


(え、ちょ…待って)


 このままでは踏み轢かれ“ミンチよりひでぇよ”になってしまうだろう。驚きと恐怖のあまり基点に戻る事は頭から完全に飛んでしまっている。しかし2羽のキューニィは少年の直前で急停止した。


「草原のど真ん中で野垂れ死に…って訳じゃ無さそうだね」

「おおかたクエアイテムを取りに来て返り討ちってとこやろ」


 2人がキューニィから降りて少年を覗き込む。


「少しそのまま動かないで」

「(動けと言われても動けない状態なんですけど)」


 などと思っている少年の額に手を置き。


「傷付き倒れた者に今一度女神様の祝福を、【復活(リバイブ)】!」



 【復活】

 戦闘不能になった者をその場で復活させる魔法。【基点】へ戻らなくて済むが【衰弱】状態になる。


 【基点】

 各セーフティゾーンに設けられているポイント。戦闘不能になった場合、ペナルティ無しで戻る事が出来る。


 【衰弱】

 バッドステータス。各ステータスが下がり全力で行動出来ない状態。地球時間で5分間継続する。



 復活魔法の光が少年を包む。ふわりと体が浮き上がり両足が大地を踏みしめる。


「あ、ありがとうございます!」


 少年はガバッと頭を下げる。その瞬間、視界が暗転し手と膝をつき屈み込んでしまう。


「5分間は衰弱状態だから無理はしないで」

「ここやったら白ネギも来ぃひんしそのまま屈んどき」


 やっぱり白ネギだった。


「【ウェポンスキル】のクエストだよね?」

「はい、【ハヤブサ斬り】を」



 【ウェポンスキル】

 武器毎に決められた技の事。短剣、片手剣、両手剣、弓、銃、片手棍などそれぞれに様々な種類のウェポンスキルがある。


 【ハヤブサ斬り】

 片手剣の初級ウェポンスキル。目にも止まらぬ速さで相手を袈裟斬りにする。ハヤブサキャンセルなる裏技があるとかないとか。



 少年を助けたのはエルフ族の美男子と関西訛りのリリパット族の青年だった。


「ボクはジュズマル。見ての通りエルフ族さ。それでこっちが」

「ガリウムや、リリパット族はこれで成人やから身長で弄らんとってな?」


 そこで少年はまだ名乗っていない事に気付いた。


「ユリウスです、ヒト族です。助けて頂いたのに名乗らずすみません」


 再び少年はガバッと頭を下げる。そして立ち眩みを起こしてうずくまる。


「良いから落ち着いて。ハヤブサ斬りのWS(ウェポンスキル)を覚えるならショートソードじゃなくてロングソードを装備出来るレベルじゃないと難しいよ」

「そうですよね…、出直して来ます」

「あ~ちょいと待ちぃな、手(つど)ぅたるから一緒に街戻ろな」

「でも迷惑じゃ…」

「後輩冒険者を助けるのは先輩の役目だよ。ガリは言い出したら聞かないから諦めて」

「ガリ?」

「ワイの事や。寿司の付け合わせとちゃうで?」

「ああ、ニックネームみたいな感じですか?」

「そう言う認識で構わないよ。ちなみにボクはジズって呼ばれてるよ」

「わかりました、改めてよろしくお願いします、ガリさんジズさん」


 この様子を眺めていたパーティが居たのはまた別の話。

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