自由な世界、不自由な僕
社会人1年目。
朝から晩まで仕事、仕事、仕事。
いや、オブラートに包む必要なんてない。
大量のメール、休まることのないクレームにマルチタスク。残業をしても怒られる、仕事を減らそうとして頑張っても上積みされる。それなのに楽をしてそうな奴より低い給与。
嫌だ。
辛い。
職場に隕石でも降ってきて無くなってしまえばいいのに。
いや、それだけじゃあダメだ。
ヤな奴なんて皆いなくなっちゃえば良いのに。
どうして僕がヤな奴側じゃないとおもってそんなことを考えられるのか。
だって、僕が生きるこの世界は僕が中心なんだから。
他の人の事なんか考える必要なんて無いんだから。
だから、「クレーム」処理をしながら、僕は涙をこらえながら世界を呪う。
「皆居なくなればいいんだ」
......
...
.
2040年、12月24日月曜日。
世界はクリスマスを祝福するかのように、一色の幻想的な光に包まれた。
そんな光をまだ朝日も昇らぬ時間帯から眺めながら、僕はスーツスタイルで外出をしていた。
駅のホームにつく頃、ようやく朝日が世界を照らそうとしていた時、僕はぼんやりとホームの電光掲示板を眺めていた。
「 」
いつも通りの朝。
いつも通りならば次の電車の情報が記載されるハズなのだが、何も表示がされていない。
「...ハァ」
朝から憂鬱でしか無い。
何も表示されないときは、決まって人身事故などで電車が止まっているパターンだ。
どおりで、ホームに誰も人がいないわけである。
改札を戻り、自動運転で動くリニアレールの電車に乗り換える。
今年から運転が開始されたリニアレールは、1駅区間が1500円と割高だけど各駅を僅か3分で移動でき、更に停車時間が2分間隔の為、実質5分おきに1区間を移動できる無人電車である。
もちろん、会社からは費用が高いため使ったら自腹となるので普段は使わないのだが、今日は年末に向けての作業があるため遅刻は許されない。
ピッと甲高い音とともにゲートが緑色に発行して、僕の1500円分の電子マネーが減額される。
リニアレールが丁度出発してしまい、次のリニアレールが来るまでの3分の待ち時間ができる。僕は唯一のプライベートタイムとばかりに、ネットの世界で情報収集を行う。
『クリスマスケーキ』『新作』『白組、赤組』...
トレンドをポチポチと端末操作で確認するも、僕の生きるこの世界では何も刺さるトレンド記事は無かった。
そんな無駄な時間もあっという間で、リニアレールが音もなくホームに到着すると、出入り口の扉が開いた。
周囲には誰もおらず、悠々自適にリニアレールに乗り込むと、端っこの席にこじんまりと着席する。
座れる時には座りたいのが性である。
そしてあっという間に3駅目に到着して降車後、出口のゲートを通るとさらに二駅分の金額である3000円分の電子マネーが減額された。
会社から支給されない交通費に、既に4500円も使ってしまい何のために働いているのかわからなくなってきてしまう。
無人のコンビニに立ち寄り、おにぎり2つ、ウーロン茶を1つを買い更に500円が吹き飛んでいく。
電子マネーの残高も残りわずかで、嫌になってくる。
それでも、これから仕事なので気持ちを切り替えるしかない。
セキュリティキーを掲げて室内に入ると、シンと静かな空間が広がった。
誰とあいさつするわけでもなく、更に突き進んでセキュリティキーを掲げる。
座席が6つだけある狭い空間に入ると、紙媒体に入室記録を記述して自身の席へ着く。
僕以外の席には誰にも座っていない。みんなここ最近、残業が続いていたから力尽きたのかな。
そんなことを思いながら、パソコンの電源を入れ仕事を始める。
......
...
.
幸いなことに、今日は仕事中に差し込みの業務もなければ、メールの対応もなかった。世の中は年末へ向け働く気力を失いつつあるのかもしれない。
それでも。
僕のタスクは年末までぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
今日みたいな日にこそ、タスクを消化しなければ明日以降きっと後悔するに違いない。
誰もいないオフィスで深夜まで働き、終電が迫る午後11時45分。
そこで仕事を切り上げ、僕はオフィスを後にした。
帰りも電車が止まっていたせいで、リニアレールを利用。
今日の支出は既に9500円。泣きそうである。
空腹感に負け僕はコンビニでシチューと消費期限ギリギリのパンを買い、帰宅する。
帰宅後にササッと食事を終えた僕は明日に備えて就寝。
世界は既に終わっていたとしても。
僕は明日も仕事をする。