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いつかまた音に乗せて届けるから  作者: 光瀬
立花はるか
9/37

6.5


 いつもは一定の距離があったが、ここまで近いのは初めてだった。

 合唱台に隣り合って座るが、自分の心音が聞こえるのではないかと思うほど緊張していた。

 やっと少し落ち着いたようで、安心する。

 安心してほしいからと思ってではあるが突然手を握り隣に座ったうえに、自分の感情に気付いてから赤面している気がして顔を合わせられない。

 普段通り普段通り、と心の中で言い聞かす。


 隣に座っているのに、距離は詰めないようにと心がける。

 つい先ほど気付いた気持ちを先走らせたくなかった。

 今ははるかが落ち着いてくれたのならそれでいい。


 なんで音楽室に来るのか、と問われた瞬間になんて答えたらいいのかと一瞬だけ悩んだ。

 おそらくは素朴な疑問。

 特に意味などはらんでいないだろうし、邪魔だからという言い方でもない。

 気付いたのはついさっき。

 けれど多分もっと前から、俺ははるかのピアノじゃなくはるかを好きになっていた。

 だから毎日会いに来ていたんだ。

 でもそんなこと、大切な時期のはるかには言えない。


「はるちゃんのピアノ、俺好きなんだよ」


 自分でもずるいなあと思いながら、ピアノと付け加えて好きと伝える。

 ピアノを好きなのも事実だ。

 嘘は言っていない。

 話している間に、無意識に言ってしまった。

 ひとり占めしてるみたい、と。

 実際に俺は一生懸命悩みながら弾いているはるかの時間をひとり占めし、その幸せを自分のものだけにしている。

 俺って結構独占欲強いのかもしれない。


 はるかの冷たい手を指先に感じたのは驚いた。

 触れるか触れないかくらい、ふわっと触れるだけの手。

 まるで1音目に入る直前のはるかの一瞬の間のように優しい感覚。

 え、と声が出そうになったのを堪えるが、すぐに振り向いてしまっていた。

 予想外な展開には慣れていない。

 触れられている部分に一気に神経が集中する。

 心臓の音がうるさくて、呼吸が止まってしまっているのがわかる。

 俺を見ないまま、小さく体育座りをして下を向いているはるかの表情がわからないが、少しだけ手が震えていた。

 ありがと、とつぶやくように言ったはるかは、多分顔を真っ赤にしている。

 ああ、やっぱり好きだな。

 そう思うと同時に手を握っていた。

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