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佳美との連絡に関しては彼との内容にあまり触れないようにしていた。
それでも敢えて内容を聞き出したいのかわからないが、彼の話を振ってくることは何度かあった。
推測に過ぎないものの、佳美は彼とまだ連絡をとっている気がした。
わたしがとんな生活になっているのかを伝えられたくもなかった上、彼に対してどんな言葉を発しているのかも知りたくない。
ここで牽制をしていなかったのはわたしのミスだと言える。
数ヶ月、腐った生活が続いた。
毎日茉莉奈と連絡をとりながら、なんとなくで大学に通ってなんとなくで生きている。
大学の単位を落とすわけにはいかないので、教職課程も含めて大学生活はきついものだった。
バイトをしている友人に比べたらましな生活ではあったものの、体力低下が著しかったわたしにとって生活するだけでやっとだった。
佳美からくるメールが特に意味をはらんでいなかったのとしても悪意を感じるようになったのも、わたしの精神状態が安定していなかったせいかもしれない。
そう思うようにしていた。
体重が減り、睡眠時間もまともにとっていない。
夜は酒ばかり飲んでいて、アルコール度数が高くないにしろ褒められた生活ではない自覚もあった。
ただ、自分を大事にしない方法が、一番心を安定させられた。
なんとなく、一生一緒にいるのだと思っていた。
恋愛感情だけでなく、徐々に友情に近いものになっても、わたしは彼と一緒にいるものだと思っていた。
彼を一番に想っていた事実は変わらない。
無理やり過去形にしようとしても、進行形の気持ちを誤魔化すことはできない。
わかっていても、わたしはそこから狂い始める。
彼と別れてから半年が経つ頃には、わたしの生活はひどくなっていった。
大学で知り合った男の先輩と夜に遊びに出かけ、初めて話す人とも平気で酒を飲み交わした。
お前はまじで変わり者だと笑われていたのもこの時期だった。
先輩と遊んでいると気が紛れる。
30弱のピアノレッスン室があり、学年が違えど専攻であれば関わることがある。
たまたま別講義で同じだった先輩がレッスン室にしたので、顔を出したのがきっかけだった。
「レッスン室にいるの珍しいですね、サボりですか」
ドアをノックしてから部屋に入ると、先輩は笑いながら答える。
「次の曲決めてるだけー」
「は…?」
この時まで、同じ学部の先輩であることは認知していたが同学科同コースということは知らなかった。
学科もコースもそれぞれ分野が違う上、言ってはいけないのだろうが見た目がチャラい。
「先輩ってまじで先輩だったんすか」
卒業演奏が近い先輩たちはレッスン室に篭りがちだが、先輩はたまに大学にきては気分で帰るような人だった。
「一応ちゃんと同じコースの先輩だよ。意外って言われるかもしれないけど、立花もそれは同じでしょ」
笑いながら答える先輩に好感が持てた。
先輩として接してはいるものの、あまり先輩風を吹かせない雰囲気も柔らかい話し方も安心できた。
その日以降仲良くなったわたしたちはレッスン室でよく話をするようになった。
そんな中で突然恋愛相談がある、と言われたわたしは身構えた。
相談に乗れるほどわたしは経験豊富なわけでもなく、相談が成り立つのかわからない。
「彼氏と喧嘩したー…」
聞き間違えたか、と一瞬思ったが彼女という単語ではなかったと思う。
「彼氏っすか」
「同棲してるんだけどさー、つまらないことで喧嘩しちゃってから口聞いてくれなくて」
目に見えて落ち込んでいる先輩にどう言葉をかけるか悩むが、真面目に答えるべきなのかわかった。
「先輩にとってつまらない喧嘩だったとしても、もしかしたら相手にとってはつまらなくないかもしんないすよ」
喧嘩の原因なんて大抵はつまらないものだが、意固地になっている場合はつまらないものとして片付けられないし、当事者であれば尚更だ。
先輩がどれだけ相手のことを考えていたとしても、本気で悩んでいたとしたらちゃんと向き合うべきだ。
目から鱗のような顔をしている先輩が、少し間を置いてから笑った。
「確かにそうだわ。俺がつまらないって思ってても違うかもしれないしな。んじゃ今日夕飯鍋にしよっか、彼氏帰ってくる時に一緒にいてよ」
どんな誘い方だと思ったが、彼氏と言っている限り半信半疑ではあったものの先輩の家に遊びに行くことにした。
もちろん食事をあまりしないわたしにとっては鍋が食べれるとは思っていなかったが、気分を紛らわせるにはいいかもしれない。
いつまでも彼に縛られている生活から抜け出したい。
その気持ちが大きかった。
彼氏が帰ってくるまで時間がかかるという先輩の家についてからは、家にあった電子ピアノで時間を潰した。




