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彼は泣きながらわたしの腕を止血した。
少しは冷静になったのか、謝り続ける彼の背中を右手でなでる。
弱くて不安定で可愛いわたしのだめな彼。
左腕はきつめに包帯が巻かれた。
病院に連れて行こうとする彼を制止し、わたしは自分で手当てをすると言った。
血を拭うとぱっくりと開かれた傷口からは皮膚の下がはっきり見えている。
第3の目だと茶化すわたしを見ても泣き止まない。
本来であれば何針かは縫うような深さに達した傷も、保険証を使えば親にばれて面倒なことになるので自力でなんとかするしかない。
別に死にはしない。
この程度で死ねたらどれだけ楽か。
血の凝固は意外に早いもので、出血死なんてすることはない。
俺にやらせてと言うので、彼に手当てをしてもらった。
「離れないよ、安心して」
落ち着かせるために頭をなでる。
ひたすら謝っている彼にどうしたものかと悩んだが、この場合は泣き止むまで待つしかない。
これはピアノを弾くのはしばらく難しいかもな、と腕の感覚と相談する。
ピアノの試験が今週中に終わったことだけは不幸中の幸いだ。
来週だったら単位を落としてしまっていたかもしれない。
この状況下でも単位の心配ができる程度にはわたしは冷静だ。
ほぼ腕の感覚がない。
これは予想以上に切ってしまったかもしれない。
ぐーぱーして動かしてみるが、動きが通常とは違う。
今だけの問題なのであればいいが、治らない場合は困るなあと他人事のように考える。
一応は動いているので出血のせいで鈍っているだけだろう。
大丈夫。
言い聞かせて自分の腕を見る。
包帯が巻かれていない部分までも傷だらけ。
浅く切っているとはいえど傷痕は消えることはないだろう。
ボロボロだね、と嘲笑した。
その週末はいつもより彼が優しかった。
壊れることがなければ優しいが、1.5割増しだ。
抱かれて眠っている間何度も痛くない?と聞いてくる。
痛くないよと微笑むわたしはなかなかに演技が上手くなった。
生き方が下手でも、ふたりだったら大丈夫。
今はつらくても幸せになる。
あの頃はつらかったんだからと、笑って彼を小突いてやる日がきっとくる。




