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いつかまた音に乗せて届けるから  作者: 光瀬
立花はるか
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2


 真新しい制服に手を通すと、高校生になった自覚が芽生える。

 少しだけ大人になったように感覚と、新しく始まった生活に心が躍る。

 何より中学の同級生が少ないことがとても嬉しかった。

 いじめられていたわけではないが、昔から立花は女子じゃないとよくからかわれていた。

 小学校の卒業式でスーツにネクタイという変わり者は中学で有名だったというわけだ。

 入学式からスラックスで登校をしているのはもちろんわたしだけで、奇異な目で見られた。

 高校生活は目立ちたくないと思っていたのだが、女子の中で服装がひとりだけ違うのはやはり目立ってしまうものだった。

 それでも校則でスラックスがあるのだから、とわたしは気にしないことにした。

 無理してスカートを履く必要もないのだから周囲の視線はある程度目をつむろう。

 からかってくる男子に対して校則で許されているし、という一言で全て片付けた。

 昔から女子らしくない点についてからかわれることに慣れていた身としては、苦痛というわけもなく悪いことをしているわけではないので堂々としていた。

 結局スラックスを履くことによって目立ってしまっていたのは変わりないのだが。


 そんな生活を送りながら高校二年の終わりに本格的に進路決定をする時期がきた。

 就職する者もいれば進学する者もいる。

 なんとなく進学、と思っている程度でどこの大学にしようなどは全く考えていない。

 大学の資料などを担任からもらうが決めるのは自分だ。

 そもそも自分は将来何になりたいのか。

 それが全くわからないのだからどうしようもない。

 まだ子ども、と言えないような年になっている。

 大人でもないが子ども扱いもしてもらえないような年になっている中、不安だけが先走っていた。

 自分が将来何をしているのかなんて、想像ができない。

 三者面談でも決まらず、気が付けば三年の春になっていた。


 2歳からピアノを習っていたから、という理由だけで音楽コースがある大学を決めたのは焦りに焦った末の消去法だった。

 昔から練習嫌いでレッスンのたびに叱られていた記憶がある。

 それでも音楽が嫌いだったわけではない。

 好きだからこそ思うように弾けない自分に苛立ってしまう。

 それならば練習を重ねればいいだけ、という正論は理解しているのだが子どもながらに反発心が強かった。

 両親はそんなわたしの進学先を最初は納得しなかったものの、なんであれ大学進学をするのであればと許してくれた。

 志望大学が決まってからの入試までの期間はとても短かった。

 7月にAO入試があるということで、担任は急ぎで準備をしてくれ願書の提出は間に合った。

 問題はそのAO入試の内容だった。


「演奏…」

 入試内容が記載された用紙を見てため息が漏れる。

 7月に受験する内容は自由曲の演奏と面談だった。

 5月のはじめに届いた書類を見て絶望した。

 確かに音楽コースなのだから実力試験では演奏になるだろう。

「これは合格する気がしません」

 職員室で担任に半泣きで相談する。

 いくら長年ピアノを習っていたといっても、人前で演奏できるほどの曲は持っていない。

「まだ2か月はあるんだからやれるとこまでやってみろ」

 2か月しかないと言いたくなったが、決めたからには選曲し練習するしかない。

「昼休み音楽室の鍵借りていいですか…」

 これは受ける前から負け戦ではないかと思いながら、受験までの2か月に挑むしかなくなった。

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