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いつかまた音に乗せて届けるから  作者: 光瀬
彼とわたし
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2


 午後の授業は頭に入ってこなかった。

 彼に会うことが日課になっていたのに、今日は嬉しい報告があるはずなのに、もやもやとした気持ちがそれを打ち消す。

 会いたいと会いたくないがせめぎ合った。


 それでも時間は流れるもので、抵抗することもできず放課後になった。


 これほど音楽室に行くことが憂鬱だったことはない。

 昼休みのわたしはただわがままだっただけ。

 いつものように音楽室前で彼は待っていてくれたはずだ。

 しびれを切らしてわたしの教室まで来たのだろう。

 大人気ないことをした。

 まずはちゃんと謝ろう。

 理由はどうあれ、約束はしていなくても日常を壊したのはわたしだ。


 階段を上り終えるとすぐに見える音楽室のドアの前で、彼はまたしゃがみこんで待っていた。

「ヤンキー」

「遅いからです」

「理由になってないです」

 話しやすい雰囲気を作ってくれているのがわかる。

 わたしよりも大人だ。

 室内に入ると、彼は合唱台に座る。

 いつもの特等席には行かず、ピアノに近い場所に腰を下ろしている。

 無言で合唱台をぽんぽんと叩き、ここに座るようにと促される。

 謝らなければならないし、わたしはそのまま隣に座った。


「お昼、体調悪かったの?大丈夫?」

「ううん、そういうわけじゃないの」

「なにか嫌なことあった?」

「ううん」

「連絡先聞いてなかった俺も悪いし、別に約束してるわけじゃないけどさ…。ちょっとだけ、待ってる間さみしかった」

「……」

「俺気付いてないだけで何かしたなら言って」

「違うの」

「うん?」

「君が何かしたってわけじゃないの。ただ今日は本当に音楽室来る気分になれなかっただけなの」

「なにかあった?」

「わたしもわかんないけど…、なんかもやもやしてて」

「もやもや?」

「これはわたしの問題なだけ、ごめん」

「…わかった」

「あと、昼休みわざわざ教室まで来てくれたのに態度悪くてごめんなさい」

「ああ、あれは俺がはるちゃんのこと考えないで教室行ったから、俺のほうこそごめんね」

「ううん…」


 気を遣わせてしまっている。

 この空間が好きだったのに、今は息苦しい。

 

「あ、あとね」

 一番に伝えたった。

 かばんから合格通知書を取り出して彼に見せる。

 それが何かわかった瞬間彼が一気に笑顔になる。

「まじか!!」

「合格しました」

 そう、本当はこれを伝えたかった。

 そのために1年校舎まで行った。

 走り出しそうになるのを抑えて、早歩きになって。

 一番近くで見守って支えてくれたから、だから一番に伝えたかったの。

「おめでとう」

 満面の笑みで、また頭を撫でられた。

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