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午後の授業は頭に入ってこなかった。
彼に会うことが日課になっていたのに、今日は嬉しい報告があるはずなのに、もやもやとした気持ちがそれを打ち消す。
会いたいと会いたくないがせめぎ合った。
それでも時間は流れるもので、抵抗することもできず放課後になった。
これほど音楽室に行くことが憂鬱だったことはない。
昼休みのわたしはただわがままだっただけ。
いつものように音楽室前で彼は待っていてくれたはずだ。
しびれを切らしてわたしの教室まで来たのだろう。
大人気ないことをした。
まずはちゃんと謝ろう。
理由はどうあれ、約束はしていなくても日常を壊したのはわたしだ。
階段を上り終えるとすぐに見える音楽室のドアの前で、彼はまたしゃがみこんで待っていた。
「ヤンキー」
「遅いからです」
「理由になってないです」
話しやすい雰囲気を作ってくれているのがわかる。
わたしよりも大人だ。
室内に入ると、彼は合唱台に座る。
いつもの特等席には行かず、ピアノに近い場所に腰を下ろしている。
無言で合唱台をぽんぽんと叩き、ここに座るようにと促される。
謝らなければならないし、わたしはそのまま隣に座った。
「お昼、体調悪かったの?大丈夫?」
「ううん、そういうわけじゃないの」
「なにか嫌なことあった?」
「ううん」
「連絡先聞いてなかった俺も悪いし、別に約束してるわけじゃないけどさ…。ちょっとだけ、待ってる間さみしかった」
「……」
「俺気付いてないだけで何かしたなら言って」
「違うの」
「うん?」
「君が何かしたってわけじゃないの。ただ今日は本当に音楽室来る気分になれなかっただけなの」
「なにかあった?」
「わたしもわかんないけど…、なんかもやもやしてて」
「もやもや?」
「これはわたしの問題なだけ、ごめん」
「…わかった」
「あと、昼休みわざわざ教室まで来てくれたのに態度悪くてごめんなさい」
「ああ、あれは俺がはるちゃんのこと考えないで教室行ったから、俺のほうこそごめんね」
「ううん…」
気を遣わせてしまっている。
この空間が好きだったのに、今は息苦しい。
「あ、あとね」
一番に伝えたった。
かばんから合格通知書を取り出して彼に見せる。
それが何かわかった瞬間彼が一気に笑顔になる。
「まじか!!」
「合格しました」
そう、本当はこれを伝えたかった。
そのために1年校舎まで行った。
走り出しそうになるのを抑えて、早歩きになって。
一番近くで見守って支えてくれたから、だから一番に伝えたかったの。
「おめでとう」
満面の笑みで、また頭を撫でられた。




