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いつかまた音に乗せて届けるから  作者: 光瀬
彼とわたし
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 試験結果が届いたのは7月末だった。

 受験が終わってからも音楽室でピアノを弾く習慣は変わらず、そして彼もまたいつものように通っていた。

 ただ少し変わったのは、前よりも会話が増えたことだった。

 相変わらず窓辺に座るけれど、わたしがピアノを弾いている姿を優しく見るようになった。

 そんな視線はなんとなく気付いていた。

 照れくささから気付いていないふりをしていたけれど、それすら彼は気付いたかもしれない。

 結果がわかって、一番に頭に浮かんだのは彼の顔だった。

 担任から結果を聞いてすぐに、普段は行かない1年校舎に向かっていた。

 誰よりも早く伝えたかった。


 教室の前の廊下で友人らしい数人と立ち話をしている彼の姿を見て、声をかけるか迷ってしまった。

 あれ…。

 胸の奥がきしむ。

 なんだろう、この違和感。

 わたしの存在に気が付いていないようで、談笑を続けている男女の集団に近付くことができない。

 距離を縮めることができず、その距離がわたしたちの距離なのだと思い知る。

 わたしは、彼のこんな笑った顔を見たことがない。

 いつも見ている優しい笑顔ではなく、無邪気な年相応の笑顔に、わたしと彼の隔たりを感じる。

 年が違うからというだけではない。

 彼の周囲に対する態度が違う気がして、それを見ていたくないと思ってしまった。

 そのまま声をかけることなく、わたしは自分の教室に戻った。


 一番に知らせたかった。

 昼休みと放課後に一緒にいるだけなのだから、知らない顔があるのは当然だ。

 それだというのに。

 どうしてわたしは勘違いしていたんだろう。

 彼には彼の生活があって、わたしはその一部分しか知らない。

 それがひどく、さみしく感じた。


 音楽室を使用するようになってから、初めて昼休みは教室で食事をしていた。

 楽器周辺で食事をしないことを約束の上で音楽室での飲食を許可してもらっていた。

 久しく昼休み中の教室にいなかったからか、周囲のにぎわいが少し耳障りだ。

 早々に食事を終えて遊び始める男子、机を持ち寄って食事をしながら話題に欠けない話をする女子、その中でわたしはひとりでお弁当を広げていた。

 珍しく教室にいることで誘ってくれた女子がいたが、楽譜見ながら食べたいからと断った。

 彼の姿を見てから喉に魚の骨がひっかかったような感覚が続いている。


「なんで来ないんですかー」

 楽譜をぼーっと眺めながら箸を進めていると、机の目の前にしゃがみこんでいる彼がいた。

 驚いて声が出そうになったが、他学年の教室にきているというのに彼は動じた様子もなくわたしを見て不貞腐れている。

 周囲がどよめき、立花の男の来客だと注目されている。

 ここではまずいと思い、いまだ不貞腐れている彼の手を引き廊下に出た。


 教室から離れて階段の下、やっと人が少ない場所を見つけて立ち止まり手を離す。

 それまで引っ張られるがままついてきていた彼がまた不満そうに口を開く。

「なんでコソコソしなきゃならないの」

「3年の校舎のしかも教室まできたらびっくりするでしょ!!それじゃなくても君は目立つのに」

 その身長と顔のせいで。

 ため息をつきながら彼と向き合う。

「音楽室行かなかったのはごめんなさい。なんか、ちょっと気分すぐれなかったから」

「じゃあ連絡くらい…」

 そう言いかけてあ、と間抜けな声をあげる。

「俺たち連絡先交換してない…」

 知り合ってどれだけ経つだろう、わたしは彼の連絡先を知らない。

 連絡をしなくても昼休みと放課後は当たり前に音楽室に来ていたから。

 確かに何も言わずに今日だけ教室で過ごした自分が悪い。

 わかってはいるのだが、どうしてももやもやした気持ちを拭えない。

 最近では慣れていたはずなのに、彼と目を合わせるのも気まずく感じる。

「とりあえずわかった。ごめんね、無理に教室まで来ちゃって」

 バツが悪そうに彼が謝ってくるが、謝罪すべきはわたしだ。

「わたしのほうこそごめんなさい。放課後、音楽室で待ってるから」

 しゅんとしているわたしの頭をぽんと撫でて、彼はうんとだけ言って去っていった。

 いつもの優しい声だった。

新章です。


付き合う前のお互い好きなのにって感じ初々しくてかわいいですよね。

はるかのヤキモキしている気持ちも、彼の心境も楽しみです。

冒頭でも記載がありますが、2/3はノンフィクションなのでモデルがいない分、どうしてもはるかを応援してしまいたくなります。


余力があればifの世界も書いてあげたいなーと考えています。

はるかと彼が幸せな世界線を作りたい。

そんなことを思いながら先はまだ長いのでお付き合いくださいませ。

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