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虚の探求者  作者: ましろくろ
11/11

[3]ー【b】


 ショッピングモール『スクウェア』は6階建てで、上から見るとドーナツ状の形をしている建物だ。正確には中央へと通り抜けられる隙間があるので、アルファベットの「C」の文字が正しいか。この隙間の切れ目から反時計回りに、AからHの8つのブロックに分けられている。

 建物が緩い弧を描くカーブのように曲がっており、更にブロックごとに自動ドアで仕切られている為、隣のブロックの様子が分かりにくい構造になっている。とは言え、行き来するための通路であるので通り抜け自体は簡単であった。


 Eブロックを通過した先で、奈月は先程の無線相手の姿を確認した。拝橋と名乗っていた青年は、辺りを警戒しながら奈月にこちらへ来るように合図する。

 彼の名は拝橋朱雀(はいばしすざく)。奈月と同じく『クエント』のメンバーで、奈月の1つ年上にあたる。冷静かつ柔軟な思考力と、率先して動く行動力で仲間からの信頼も厚い。彼の隣にはもう1人、米原という奈月の1つ年下の少年がいた。

 挨拶は省き、奈月は率直に状況を尋ねる。


「朱雀さん、どういう状況ですか?」

「正直俺も全て把握できている訳ではない。指名手配中の『ゲイル』のメンバーらしき人物を見かけてな。俺たちだけでは対応が難しいと判断して、応援を要請したが…。メールをした直後に非常ベルが鳴ったんだ。」

「非常ベルを鳴らしたのは誰ですか?」

「分からない。だが、『ゲイル』とは別に、人混みの中にリベンジャーの姿を見かけたような気がする。もしかしたら、奴が鳴らしたのかもしれない。」


 『ゲイル』とは、『クエント』と同様に能力者たちが集まって作られた組織である。だが、『クエント』と『ゲイル』では、その中身は大きく異なっていた。

 奈月や朱雀の所属する『クエント』は政府公認の組織で、ハイパー・ウォールの内側に蔓延る虚魔(ニビル)の討伐と異能絡みの事件への対応を主な活動内容としている。

 一方の『ゲイル』は、一言でいえば違法な手段も問わない犯罪集団だ。顔が割れているメンバーもおり、指名手配されている者も存在する。しかし、諸々の事情から他国組織と繋がりを持ち巧妙に匿われていたりする為、なかなか尻尾が掴めない集団なのであった。


「…私も今日、ここでリベンジャーに似た人物を見かけました。画像でしか見たことがなかったので確信が持てませんでしたが、朱雀さんも見たと言うなら間違いないと思います。」


 洋服の買い物を終えてカフェに寄る直前、奈月は彼に似た人物を見たような気がしていた。

 「リベンジャー」と呼ばれている、年齢や出自不詳の謎の男。身の丈程もある細く長い刀に、季節問わず羽織っているコートが特徴的で、異能による犯罪を行う者に対し“裁き”と称した私罰を下してまわっているらしい。

 『ゲイル』にリベンジャー。どうやら奈月が考えていた以上に状況は混沌としているようだった。朱雀が迂闊に動くことができないのも納得できる。

 と、ここで奈月の中で1つの疑問が浮上した。


「朱雀さんたちは、何故ここに来ていたんですか?」

「マスターからの指示だ。ネット上で、この建物を指して妙な予告文のようなものが流れていてな…。念の為にと、俺と米原で様子を見に来ていたんだ。」

「予告文? どんな内容だったんですか?」


 朱雀によれば、ネットにこのようなものが出回っていたらしい。


『7月12日、ショッピングモール『スクウェア』にて、虚魔(ニビル)を出現させる。』


 虚魔が初めて確認されて25年、品川以外の地で虚魔が現れたという記録は存在しない。こんな絵空事のような話は、誰もがジョークだと分かるものだ。しかし、奈月の反応は険しかった。


「朱雀さん、これって…。」

「ああ。普通ならこんな話、誰も信じない。だが、『クエント』にとっては2年前のことがあるからな。簡単に無視できるものでもない。2年前の“当事者であるお前”からしてみれば、尚更だろう。」

「………。」


 奈月は沈黙で肯定を示した。

 朱雀はそのまま言葉を続ける。


「マスターもそう考えて、俺たちをここへ派遣したんだ。今のところ虚魔の姿は見ていないし、別の問題に直面してる訳だが…。」


 予告文にばかり気を取られてしまっていたが、今直面している問題は『ゲイル』とリベンジャーへの対処だ。

 朱雀によれば、彼らは北側のCブロックの方へ移動していったらしい。多少時間が経過しているので正確な場所は分からないが、交戦している可能性は十分にあった。

 ここで、それまで黙っていた米原が口を開いた。


「それにしても、リベンジャーはともかく、『ゲイル』の目的が気になるっすね。」

「確かにそうね。彼らも予告文を見て来たのかしら?」

「それは分からないな。そもそも目立つことを好まない奴らが、こんな人気の多い場所に姿を見せることは珍しい。『ゲイル』の目的は分からないが、この状況があの予告文と無関係だとも言い切れない。もしかしたら、ここには何かあるのかもしれないな。」


 米原の問いに奈月、朱雀が順に考えを述べる。だが3人とも、情報が足りず煮え切らない推測しか持てていなかった。 

 これ以上は考えていても仕方がない。朱雀はそう判断して行動を促す。


「他の増援は期待できそうにないし、俺たちも動くとしよう。天海、武装の方は大丈夫か?」

「簡易武装ですが持っています。」

「よし、まずは奴らに近づく。ただし、戦闘が目的ではない。状況の把握が最優先だ。くれぐれも無茶はするなよ。」

「「了解です。」」


 奈月と米原の返事が重なる。そして、朱雀をこの場のリーダーに据えて、3人は行動を開始した。




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