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虚の探求者  作者: ましろくろ
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[1]ー【a】

本稿をご覧頂きありがとうございます。

本稿は、以前書いていた小説を改めて書き直したものです。

定期的に更新を行なっていくつもりですので、少しでも興味をお持ちになられた方はブックマークに加えて頂ければ幸いです。

文の拙さにはご容赦くださいませ。


 

2030年7月10日


「暑い。溶ける…。なんなんだよ、この暑さは…!」


 注文して手元にきたアイスコーヒーで喉を潤しながら、楓は椅子に座ったまま天を仰いだ。


「今日は猛暑日だって聞いたねえ。ほら、これで首元でも冷やしな。」

「ありがとう、碧さん。助かるよ。」


 楓はよく冷えたおしぼりを受け取る。来店時におしぼりは既に1つ受け取っていたが、暑そうにしていた楓に気を利かせた女将の配慮だ。言われるがままに首元を冷やし、暑さが和らいでいくのがわかる。

 ここは赤羽にある『グレイス』という個人喫茶店だ。楓はここの常連客で、店の女将である宇垣碧(うがきみどり)には懇意にしてもらっている。

 今は平日の日中、時計は11時20分を示していた。約束の時間まではあと10分程。ちょうど手持ち無沙汰気味になっていた碧と雑談を交わしながら、待ち合わせの時間になるのを待つことにした。


「碧さん、今日は忙しかった?」

「見た通りだよ。暇も暇。夜はそれなりにお客さんも来てくれるんだけど、ただ…最近はちょっと物騒だからねえ。」


 楓は周りを見渡す。店の従業員は碧だけで、客も楓以外には1組だけだった。高校生である楓は夏休みの最中で、今日はここで待ち合わせの為に訪れていた。

 まだ時刻は正午前なので、客が少ないのはそれほど不自然なことではない。しかし、碧の懸念は、別のところにあった。


「ああ、最近ニュースでも多いよね、異能犯罪。何か組織的な動きがあるのかも、とか言ってた。」

「悪いのは異能を悪事に使う人間だっていうのは分かってはいても…こんな感じじゃ、異能=犯罪みたいなイメージがついちゃいそうで嫌になっちゃうわ。」

「…そうだね。」


 楓はつい目線を逸らしてしまう。自分の力を悪用したことはないし、“左眼”のことは誰にも知られていない。

だが能力者(ホルダー)である楓にとって、この手の話には思うところがあった。

 異能犯罪とは、その名の通り異能を悪用した犯罪行為のことである。簡単(極端)な例を挙げるなら、異能でセキュリティや警備を突破して銀行強盗する、とか。異能は未成年の子供の方が適性があるらしく、未成年犯罪が増加していることを危惧する声もある。そもそも今日では、異能の使用自体が法で制限されていた。能力者=危険人物、のような偏った思想を持つ者もいるくらいだ。

 このように、異能、あるいは能力者に対する風当たりが強い今の社会では、自ら能力者であると公表する者は少ない。楓もその1人で、自分の力のことを他人に打ち明ける気はなれなかった。

 そんな事を考えていると、碧から質問がとんできた。


「今日は奈月(なつき)ちゃんは?」

「もう少ししたら来るよ。ここで待ち合わせているから。」

「相変わらず仲が良いことで。それで? 待ち合わせしてるのなら、これからどこかに行くのかい?」

「そ。大学のオープンキャンパスに行ってくる。帝徳大学のやつ。」

「有名大学じゃない。楓ちゃん、進学することにしたの?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど…。奈月がオープンキャンパスのチケット手に入れたからって。」

「そうなのかい。せっかくの機会なんだから楽しんでくるといいさ。私としちゃ、2人が大学でも仲良くしてる姿が見られたら嬉しいね。」

「進学して学びたいこととか、全然思いつかないんだよ。大学に通う自分の姿なんて、想像つかないし。」

「そんな難しく考えることもないよ。選ぶのは後で良い。今大事なことは、この先の選択肢を拡げることさ。」

「確かにそうかもね。」


 碧の言葉は、楓にとって耳の痛い話であった。結局は、決断しきれない自分が悪いのだ。元々将来の夢なんて持っていなかったが、2年前の事故で多くを失ってから自分の進む道先が何も見えない。幼馴染である奈月と共に進学するのも決して悪くはないが、本当にそれで良いのか? と問う自分がいた。


『大事なのは自分で選ぶ意志だ。例えそれが間違っていたとしても、その選択は必ず自分の糧になる。』


 かつての親友が良く口にしていた言葉だ。いざ進路を決める必要がある今、この言葉が頭をよぎる。


(ホント、優柔不断というか…自分が嫌になる。)


 楓がそんな自己嫌悪に陥っていると、新しい客が来店してきた。と言っても、よく知る顔だ。


「こんにちはー。」

「いらっしゃい、奈月ちゃん。」


 入ってきたのは待ち合わせをしていた奈月だ。楓は先程までの負の思考を頭の片隅に追いやる。

 時刻はちょうど11時30分になっていた。


「楓もおはよう。いつも通り早いね。」

「おう。そっちもいつも通り、時間通りで。」


 お互いに軽く挨拶を交わす。時間にそぐわない「おはよう」だが、いつものことなので違和感はない。

 彼女は天海奈月(あまみなつき)。楓とは小学校からの幼馴染だ。中学までは同じく幼馴染で親友の雪斗(ゆきと)とよく3人でつるんでいた。2人は高校も同じ場所に進学している。


「今日のオープンキャンパス、楽しみにしていたんだから。遅刻なんてしないわよ。」

 そう言いながら、奈月は横並びになっている楓の右隣の席に座る。


「別に疑っていた訳じゃねーよ。どうする? ここで食っていくか?」

「ちょっと早い気もするけど…せっかくだし、食べていこっか。」

「毎度ありがとさん。ご飯大盛りにしとくよ!」

「サンキュー、碧さん!」


 少し早めの時間であるが、空腹具合は悪くない。楓と奈月は少し早めの昼食を『グレイス』で済ますこととなった。




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