ゲルドと模擬戦
ひとまずベルタ様の調査結果を待つということで、王武祭と定期試験に向けた訓練や勉強を続けていく。
定期試験は筆記と実技。
筆記の方は油断しなければ問題ないとニコーラからもお墨付きが出ている。
実技も魔法の方は大丈夫と言われているが、ちょっと問題そうなのは武器による実技の方だ。
馬車の中でニコーラの説明が続く。
「武器は幅広く使える方が、試験では高評価されます」
「短剣ぐらいしかまともに鍛えてないからなぁ」
「こればかりは仕方ありません。戦場では剣、槍、弓が主流ですが、これらは一朝一夕には参りませんからな」
剣は短剣の応用で多少はなんとかなる。
ただ、槍と弓がな……。
「せっかくだから高評価をもらいたいところだけど」
「定期試験に意識を奪われないことです。定期試験というのはとどのつまり、日々の訓練の成果を示す場でしかありません。確認の手段でしかないのです。最終的な目的を忘れてはなりませんぞ」
「ニコーラは僕がヒドい点数とって査定が下がったりしないの?」
「ロモロ様が心配することではございませぬ。それに進級すれば剣、槍、弓のどれかに絞られるのですからな。ここでの点数に囚われてはいけませんぞ」
今のうちに得意な武器を見極めて、それで将来使う武器を見いだすということか。
それに使い方さえ知っておけば、使い慣れない武器を使う羽目になっても、牽制くらいにはなるかもしれないしな。
「ニコーラはどのくらい戦場に行ったことがある?」
「数多くとしか言えませんな。小競り合いや戦いに発展しなかったものも含めれば、三桁は超えるかもしれません。特にテソーロとは昔からやり合ってますし、今でこそ西のアルコバレーノや南の……今はシッタ同盟ですが、それらとも戦争はしてましたから」
「武器が使えないことはよくあることなの? あと、慣れない武器を使わされることとか……」
「ありますな。貴族が参戦する場合、基本的に武器は持参するものですが、武器が壊れて予備がないといった時に借りる時はあります。それが自分の使う武器であればいいですが、普段扱わない武器であるというのは往々にしてありえることです」
「だとしたら、武芸百般……色んな武器を扱えた方がいいよね」
「それは違いますな、ロモロ様。武器が壊れるのは下手に攻撃を受けたことによる技量不足か武器の手入れ不足と管理不足に他なりません。つまり、ただの恥です。そもそも武器が壊れたことを想定するよりも、ひとつの武器を極めた方が生存率は上がります」
「なるほど」
「もちろん他の武器を広く知ることは重要です。それは別の武器を持つ者を相手にした時の対応策のためでもあります。しかし、あれもこれもと極めようとするのはよくありません。今はやることを絞るべき時でしょう」
武器に関しては器用な方じゃないから、やっぱりひとつに集中していかないとダメって事だね。
「二兎を追う者は一兎をも得ず、か」
「……ロモロ様は不思議な言葉を色々と知っておりますな。おそらくロウソクを両端から燃やすことはできないと同じ意味かと思いますが」
「何かの本で読んだと思うんだけど……」
本当に最近はよく浮かんでくる。
いいことなのか、悪いことなのか……。
武芸の実戦授業が始まり、グラウンドで僕はリュディと組手をしていた。
互いに模造の剣を使って、確かめるように型通りの攻撃する。
相手の攻撃を受けて、自分が攻撃して……木の模造剣がぶつかり、小気味いい音が響く。
単調だが姿勢をしっかりしなければ教師にその都度指摘されるので気は抜けない。
それに、次の攻撃をどうするか、そのための攻撃はどう行うべきかなど、考えることは多岐に亘る。
特に剣は一番使い手が多いから、対応するためにも学ぶべき点は数多い。
「ま、待った……ロモロ……ちょっと、休憩……」
「え? 大丈夫、リュディ」
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
こう言っては何だが、リュディは体力がない。
例の身体の事情もあるのかもしれないから無理には言えないけど、なかなか通しで訓練ができなかった。
授業ではよくリュディと組むことが多くて助かることも多いのだけど、こと体力を使う授業だと物足りなくなってくることも多くなってきている。
「リュディ。キツいようでしたら、あちらで休んでいなさい」
ノエミ師がそう言ってリュディを気遣う。
今のリュディに無理が利かないことはさすがに察したらしい。
「そうします……。すまないね、ロモロ」
「気にしないでいいよ」
しかし、ひとりになってしまったけど、どうしようか。
リナルド様は別の人とやってるし、ニンファは遅れて入学したことが原因なのか、ひとりで別のカリキュラムをやっている。デメトリアを横に指摘を受けながら、剣を振っていた。
「ノエミ師。少しいいだろうか」
「なんですか、ゲルド」
珍しくゲルドがノエミ師に相談をしていた。
そして双方がチラチラと僕を見る。
「いいでしょう。ただし、無茶はしないように」
「しない」
「魔法応戦を無断でしたことは忘れていないのですよ」
「……だから、今回はちゃんと許可を取っただろう」
そう言ってゲルドは僕の前に来た。
身体の横に長い槍を立て、僕に向き直る。
「物足りないというのなら俺が相手になろう。剣と槍で勝手は違うだろうがな」
「ゲルド。いいの?」
「構わん。ランチャレオネ家の槍術の一端をお前に見せる意味もある。……兄上の足下にも及ばんがな」
「それってつまり……」
「俺如きを攻略したところで兄上には決して勝てん。しかし、逆に言えば俺如きに負けているようでは話にならんということだ」
そう言ってゲルドは槍をこちらに突き出すようにして構えた。
本気の目だ。
「魔法ではまだお前に敵わんだろうが、武芸であれば負けるつもりはない。多少の怪我は覚悟しろ」
ニコーラを見ると、こくりと頷く。
勉強をさせてもらえということだろう。
こちらとしても願ったり叶ったリだ。
スパーダルド寮には槍を扱える人はいないからね。
「お前も授業で習ったから知識だけはあると思うが、槍の戦い方というのは突くと払う。基本はこれだけだ。引っかけるというのもあるが、兄上はあまりやらない」
「君の兄も、その長さの槍なの?」
ゲルドの持っている槍はかなり長い。
彼の身長よりも。二倍はないだろうが、それに近い長さはある。
「ランチャレオネで習う槍術は基本的には長槍用が多い。短槍もあるし兄上も使えるが、あまり見る機会はなかった。長槍の間合いで事足りるからな」
「じゃあ、その槍が届くくらいの間合い……ここでいいかな?」
「それでいい。では、突きと払いを織り交ぜていくから躱してみせろ」
適度な間合いでゲルドの槍術が繰り出される。
払いは予備動作が大きいので、これは簡単だった。後ろに下がればいいし、高さによってはジャンプかしゃがむでもいい。
ただ、突きが厄介だった。
「うおっ、と!」
「そらそらそらそらそらそらそら!!」
手数に押されて、避けるのに精一杯だ。
僕が予測している以上に穂先が伸びてくる。
命中すれば一発で終わりだ。
「これをかいくぐらんと話にならんぞ!」
「簡単に言うけどさ……!」
ゲルドの突きが早い。
避けて一歩踏み込もうとしても、すでに次の突きが準備されていて、そこにまた踏み込んだら避ける手段がない。
それにゲルドが上手いのだ。
こちらの行く気に合わせて、テンポを変えてくる。
「言っただろう! ランチャレオネ家は耳がいいと! 俺とてこの距離ならば、お前の心臓の鼓動や呼吸音ぐらいは拾える! 攻める気配も読める!!」
「そういうことかっ!」
つまり、僕が積極果敢に行こうとしているタイミングはバレているってことね。
ズルくない!?
「どうした? 少しは抵抗してみせろッ!」
こうして模擬戦をさせてもらっている以上、何かしら攻略法を見いだす必要はある。
攻める気配が読まれている以上、相手の想像や予想を裏切る手段でゲルドを打倒しなければならない。
どうすればいいのか?
要は槍を無力化すればいいのだ。
「これで決める!」
ゲルドが必殺の刺突を繰り出してきた。
それに対して、僕は剣を構えて受ける姿勢を取る。
「血迷ったか!?」
攻撃を避けられるなら避けるべきだろう。
この場合、攻撃を受けるメリットというのは――武器を伝って相手の体勢を崩せることだ。
「!?」
穂先に攻撃を受けた瞬間、剣で下に向けて弾く。
長い槍を逸らされたゲルドは多少、体勢を崩したがそれでも倒れるほどではない。
だけど、微かに引っ込むのが遅れ、膝下にある槍を僕はそのまま踏んだ。
当然、槍は簡単には戻せない。
槍を踏み台に一歩踏み込み、そのまま剣を振るう。
首に吸い込まれるように――そこで剣を止めた。
「……これでどう?」
「兄上相手にこれができるかは疑問だが……まあ、悪くはないんじゃないか」
どうやらよかったらしい。
咄嗟だったが、上手くいってよかった。
「そら。もう一度だ。対応策はいくらあっても困るまい」
「うん。お願いするよ」
再び、僕とゲルドは相対し――。
授業が終わるまで、他の生徒たちが組み合わせを変える中、僕とゲルドはずっと模擬戦をした。
得たものが多い充実した模擬戦だったと思う。




