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計画への対処

 リナルド様の企みを知ってしまった翌日、教室で席に座り、隣に座るリュディに挨拶を交わすと僕は麻紙を取り出して昨日見た魔法陣を見せた。

 念のために、リナルド様からも見られないように。


「朝一で何かスゴく大がかりな魔法陣を見せてくるね?」

「拾った物だけどね。どういうものかわかる?」


 今日の朝、記憶してあった魔法陣を予習用の紙に描いたものだ。

 描いてみてわかったけど、今の僕にはすべてを理解できない。そもそも全部描かれてもいないし、ところどころ間違っている可能性も高かった。

 ただ、魔法陣の方向性は見えてくるんじゃないかと思って描きだしたものだ。

 特にリュディは魔導具を扱う貴族だ。魔導具に描かれた魔法陣なら知ってる気がする。


「大規模なものだとわかるけど、よくわからないな。何かを収集、変質させる……?」

「僕もそこまではわかるんだけどね」

「すまないね。興味はあるけど、今すぐには力になれそうもない」


 そこにニンファとデメトリアが教室に入ってきた。

 挨拶を交わすと席に座る前に、こちらの魔法陣に目をやる。


「魔法陣?」

「うん。これどういうものかわかる?」

「中央区画でマナの収集、一部のマナを変質。魔力化……じゃないみたい。第一区画、第二区画で変質したマナの散逸? 第三区画で集めたマナの反転過負荷。第四区画は描かれてないからわからない。ただところどころに偽装があるから全部の解析は無理かな。あとは基本的に一度切りの使い捨てだね」


 今日のニンファは朝から早口だ。

 そう言えば家は魔法陣の専門家って言ってたっけ。授業の範囲外でもよく知ってる。

 賢者の知識で風呂の入り方みたいな割とどうでもいいものや錬金術の素材については詳しくわかるのに、魔法や魔法陣、この国についての知識がないのはなんでだろうね。


「そもそも魔法陣なんて完成しないと詳細なんてわからないんじゃありませんの?」

「デメトリアの言う通り。だけど、それでも方向性は見えてくるものだよ。単純な話だけど、大きな魔法陣の内部に緻密な紋様が多く描き込まれていたら大規模になるのはわかるだろう?」

「納得できる話ですわね」

「どんなものが発動するかはある程度、想像するしかないけど、逆に言えば推測は可能なわけだ。さっきニンファが言ったみたいにマナの収集やマナの一部変質とかね」


 さすがリュディとニンファは頼りになりそうだ。

 ただ、これでリナルド王子がどんな計画を立てているのかは見えてこないけど……。


「でも、ロモロ。解析するなら大人に見せた方が早いんじゃない? それこそ、先生に聞けばもっと詳しい話を聞けるよ」

「いや、ニコーラにも解析をしてみたいって話は伝えたんだ。で、少し聞いてみたんだけど、ニコーラもすぐにはわからないって話だったから」


 ……実を言うと、ニコーラに見せた魔法陣は意図的に情報を省いている箇所がある。

 その省いた箇所は発生させる事象が明らかにはっきりとしていた。

 見せれば、危険なものだということはすぐにわかってしまう。

 そうなれば、この魔法陣の出所を漏らさなければならなくなる。


 王子の発案なのか、ただ単に計画に荷担しているのか知らないが、被害の大きくなるであろう暗殺計画の被害を被らないようにしなければならない。

 問題はその方法だけど……。

 実は朝、密かにお姉ちゃんにも少し相談していた――。


「この魔法陣が地下で描かれてるみたいなんだけど」

「うっ……」


 お姉ちゃんは魔法陣の授業が一番嫌いだったようで、今でも魔法陣を見るたびに頭痛がするらしい。見るのを拒否してきた。

 ひとまず事情を説明する。


「その第六王子がその魔法陣を使って第四王子を殺そうとしてるって?」

「そうだね。魔法陣を描いてたのは別の人――王子の従者だけど。お姉ちゃんの話からすると、お姉ちゃんの世界ではこの計画が成功してると思う」

「第六王子って、ロモロが仲良くなった子でしょ。そんな性格が悪い子なの?」

「いや、むしろ、頭がよさそうというか。気品もあったし、王子らしいなって思ったよ。僕みたいな平民にも優しいというか、公平に接してくれたし」

「それでロモロはどうしたいの? このことを明らかにして、王子を止めるの?」

「まあ、止めるのはもちろんなんだけど……」


 すると、お姉ちゃんは少し笑って、


「ロモロは説得したいんじゃない?」

「そう、かな。そうかも……」

「あのね、ロモロ。子供の頃ってさ。悪いことがしたくなっちゃうんだよ。自分のわがままが通らないことに憤って、年上たちのままならなさに怒って、どうしてもぎゃふんと言わせたくなるんだよね」

「……規模が違うと思うんだけど」

「規模が違うだけで出発点は同じだよ。それにその王子もロモロも、まだ人が死ぬってことをどういうことかわかってない。殺すっていうこともね。いなくなってくれたら、色々改善されるのに……なんてよく思ってたし、結果的にそうなったこともあるけど……どこかにしこりは残るし、恨みだって買う」


 お姉ちゃんは遠い顔をする。

 実際に戦争で人を殺してきていたのだ。重みが違う。


「知らないからブレーキが利いてないだけ。ロモロが言うなら、その第六王子って本来はいい子なんだと思う。だから、無理矢理止めるよりも説得した方がロモロは、将来後悔しないんじゃないかな」

「……でも、魔法陣が発動したら迷惑が掛かるはずだし」

「大丈夫だよ。あたし、魔法陣の罠なんてこれまで全部潰してきたし。魔法陣に入れられる魔力なんてたかが知れてるし、何かあればあたしに言ってくれれば平気だから。場所教えてくれれば、そこまで一直線で行くよ」


 無茶苦茶すぎる。でも、お姉ちゃんならやりかねない……。

 ただ、ここは頼ってみてもいいかもしれないな。


「じゃあ、ギリギリまで説得を頑張ってみるよ。それと、魔法陣の解析もしておかなきゃね」

「そっちは任せた。魔法陣なんて、なんでホントにあるんだろ……」


 ――そんなわけで、僕は王子を説得することに決めた。

 そのためにはこの魔法陣を突きつけて、王子がやろうとしていることを物証付きで証明する必要がある。

 僕がスターゲイザーで見た情報なんて、何の証明にもならないしね。


 中途半端に尋ねて危険視されるよりも、すべての物証を集めて、一気に畳みかけたい。


「それじゃ、この四人で時間かけて解析してみない? 自主的な勉強ってことで」

「急いでるわけじゃないんだ?」

「わたくしは別に構いませんわよ。ニンファさまがオーケーならですけど」

「……わ、わたし……は、いいよ………。デメトリアに……好きにして……ほしい、し」

「もう! ニンファさま。ニンファさまがやりたいかどうかなんですわよ」

「……デメトリア……のやりたいことが……、わ、たしのやりたい……ことだから……」


 デメトリアは少し困った顔を見せる。

 従者としてはもう少し主人に積極性や自主性を促したいところなのかもしれない。


『ええ。できる限り……半年以内で決行できるように……』

 決行時期はだいたいわかっているのだ。

 解析が難航して、半年中に目処が立たず、計画も止められそうになかったら、これは皆に見せて明らかにする。


 暗殺計画は確実に止める。

 できれば事を大きくせずに。


「それでリュディはどう?」

「いいよ。面白そうだ。宝の地図みたいで面白そうじゃないか。お宝は、どんな未知の現象か、ワクワクするね」


 リュディも快く承知してくれた。

 これで午後から四人で解析に取り組める。


「それじゃ、午後から時間がある時でいいかい?」

「うん。それで充分だよ」



 それから授業はつつがなく進み、それも終わって放課後。

 僕ら四人はさっそく魔法陣の解析を始めた。


「さて……まずは解析をするにも取っかかりがないとダメだね」


 リュディが魔法陣を指でなぞりながら呟くように言う。


「リュディの言う取っかかりって、偽装を解くってことだよね?」

「そうだね。偽装にも色々とあるんだ。魔導具にも魔法陣は描かれるわけだけど、生活に使うようなものはともかく、兵器とかは偽装されてることが多い。他国、あるいは他領に中身がバレると問題になったりするからね」

「兵器?」

「魔法を打ち出す魔導具だったり、魔法の威力を高める魔導具だったり、色々あるよ。でも、一番使われてるのは魔法の威力を高める魔導具かな。だいたい杖の形状をしているね。各国、その威力向上の効率方法は違ってくるから秘匿情報に等しい」

「魔法師が持つ杖のことね? あれってそんな意味合いがありましたのね。てっきり接近された時に殴打するための武器かと思ってましたわ」

「概ね間違ってはいないよ、デメトリア。魔法の威力を高める魔導具なんて、貴族の上の連中しか使わない。一般的な魔法師が杖を持つのは、それを元にした願掛けだよ。接近されたら使い慣れない剣を持ってたところでどうしようもないしね。鉄や青銅よりは木の方が魔力を浸透させやすいのは事実だけどね」


 それに、と言いながらリュディは続けた。


「それに今のは我が母国での話だ。魔法は国によって発展の仕方が違う。当然、魔法陣にも影響は出る。ボクの故郷、アルコバレーノは特に魔法には力を入れている。国家予算の二割以上は魔法の研究に費やされてるからね。無駄に終わってるものもあるけど」

「それはまた大盤振る舞いだね」

「魔法は国を豊かにする。そう信じてやまない国だからね。いいこともあれば悪いこともある。実際には国が豊かになるんじゃなくて、貴族だけが豊かになるだけだけど」


 そう言って少しだけリュディは目を伏せた。

 自分の国に思うところがあるのかもしれない。


「おっとっと、話を戻そうか。そんなわけで偽装は国によって個性が出るというわけさ」

「じゃあ、この魔法陣の個性――つまり、どの国の偽装が使われてるかを考えるべきってこと?」

「その通り。それが一番早いはず。で、ボクはアルコバレーノ王国の偽装を一通り知っているけど、これはそのどれでもない。アルコバレーノ王国の人が作ったものじゃなさそうだね」

「そりゃあ……というか、ファタリタのものじゃないの?」

「君がこの学校で拾ったならその可能性が高いよ。でも、ぱっと見ではこの国のものでもなさそうなんだよね。もちろん、僕もファタリタの偽装を全部知ってるわけじゃないのだけど、偽装の方向性というか、構成にファタリタを感じない」

「りりり、リュディの……言ってる、ことは……正しいよ…………。……こ、この偽装は……ファタリタじゃないから……」


 今のところ僕には何もわからないが、ニンファにもわかるらしい。


「わかるもんなの?」

「ボクは自他共に認める魔導具マニアだからね。魔法陣について偽装を含めて、色々と知ってるんだ」

「わ、私は…………魔法陣、については……お、お父様に……色々と、な、習ってるから……」


 僕の本への執着と一緒かな。

 対象は違えど、リュディやニンファを近く感じる。


「そんなわけでボクの知ってる偽装じゃないから、特殊な偽装だったら手も足も出ないね。ニンファはどう?」

「……こ、古典的な偽装だから、昔の文献と照らし合わせれば、この魔法陣の偽装した国がわかるかもしれない。……………………ち、ちょっと待ってて」


 そう言ってニンファとデメトリアを伴って席を離れたが、目当てのものはすぐに見つかったらしく早く戻ってきた。

 その手には何冊かの本がある。


「魔法陣と偽装に関する内容が載ってるね。これと照らし合わせていければ、国もわかるかな?」

「この本自体が偽装を明かしてくれるわけじゃないんですわよね?」

「そうだね。新しい偽装方法は当然隠匿されてる。ただ、さっきも言ったけど偽装には癖が出る。この魔法陣と本を照らし合わせて、似てるところを探せば国ぐらいはわかるはずさ」


 事も無げに言うが、わかるものなのだろうか。


「簡単にわかったら偽装の意味がない気がするけど」

「まあね。でも、例えばだ。使い捨ての魔法陣を強く偽装する意味があると思う?」

「……ないね」

「その辺りも含めて偽装は考えるんだよ。偽装の強度で役割を推測もできるんだ」


 本当に奥が深いな……。


「まあ、ロモロはまず本を読むべきじゃないかな。偽装に関するあれこれが載ってるから、まずは偽装というもの自体を知るといいよ。本を読むのは苦じゃないでしょ?」

「もちろん」

「では、わたくしたちも読みましょうか。ニンファ様」

「あ……う、うん……。チーボ家の……名にかけて……が、頑張る……」


 僕は嬉々として本をめくっていく。

 魔法陣の基礎的な話から応用、設置方法、トリガーや偽装の方法など、まだ教科書で習っていないところも少しずつ覚えていった。

 本を読んで例となる魔法陣を見て、見比べて、調べて、少しずつ魔法陣の描き方や解き方を覚えていく。


「まったく、相変わらず本に没頭すると周りが見えなくなりますわね」

「……昔ほど周りに気を配れないわけじゃないよ、デメトリア」

「まあ、あなたは昔だと本を読み始めると人の話にも耳を貸さないし、そこから動きませんでしたからね」

「ははは、ロモロらしい。目に見えるようだよ」


 そんな軽口を叩きながら少し思い出したことがある。

 魔法陣は前世の知識の中に、近しいものがあった。

 回路サーキット。エネルギーを循環させて、エネルギーを受けると様々な効果を発揮する。計算だったり、信号を増幅したり、情報を転送したり。

 魔法陣はトリガーを上手く使って、そのエネルギーを回すことで発動する。

 偽装はその効果やトリガーを隠しているに過ぎない。


 魔法陣には効果を発揮させるポイントと、それを繋ぐ線がある。

 この線自体は偽装が困難だ。理論上やれなくはないが複雑なパズルを作るようなもので、正直言えば使い捨てでここまでやる意味は薄いだろう。

 だから、効果を発揮するポイントを偽装した方が早い。


「リュディ。まずは魔法陣を線と効果に分ければいいの?」

「おー、理解が早いね。その通りだよ。線は偽装してもその難易度に反比例して効率は悪い。一目見れば効果のポイントはわかるだろう?」

「うん。ある程度」

「で、その線の描き方にも個性が出る。もうボクにはわかったけど、ロモロもわかったんじゃない?」

「この偽装の仕方はおそらくテソーロかな。線の曲げ方というか、角度とか、湾曲率にそれらしいものを感じる」

「当たり。さすがだね」


 テソーロ王国。

 ファタリタ王国の北にある国で、仲が悪く国境紛争も多い。

 元々その地域はひとつの大きな王国だったけど、海賊に攻め滅ぼされてしまったらしい。

 その元海賊たちが起こした国がテソーロだ。


「テソーロとは犬猿の仲なのだろう? うち(アルコバレーノ)とも国境を接してるし、仲がいいわけでもないけど。なんでそこの魔法陣がここにあるんだい?」

「なんでだろうね……。拾っただけなんだけど」

「ふむ。もしかしたら思いがけず宝のような魔法陣を手に入れたのかもしれないね」


 咄嗟に誤魔化す。これを王子の側近が描いていたとは言いがたい。

 リュディは納得したのかどうかはわからないが、興味は失っていないようだ。


「ともあれ、テソーロということがわかってしまえば、あとは類似する魔法陣を見たりして、役の偽装を見破るだけだね。時間はかかるだろうけど」

「線と役は分けられるようになったから、まずはそこをやろうか」

「では、そこを分担して、テソーロの魔法陣と見比べていけばいいんですわね。ほら、ニンファ様。腕の見せ所ですわ」

「う、うん……」


 そして、僕らは魔法陣をそれぞれ解体していく。

 簡単に言ってしまったが、何気に線と役の分離も難しかった。

 線と線が繋がっているように見えて繋がっていないのだ。あたかも立体交差でもしているかのように。

 結局、今回は四分の一程度の解体で終わり、役の偽装までは調べられなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 真ん中より少し下の、 >今のところ僕にはニンファにもわかるらしい。 意味不明な文になってます(汗)。 今のところ僕には「さっぱりだが、」ニンファにもわかるらしい。 のような感じに、何か言葉が…
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