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家憑き妖精

 「(ぬし)さま。今宵も一緒に寝ても宜しいですか? あっ! 断られても無理矢理寝ますけどね」


 「……えぇ、良いですよ。断る道理なんて在りませんから……さぁ、いらっしゃいな」


 「えへへ~! ありがとうございます。んぁ~っ! やっぱり主さまのお身体は温かいなぁ」


 「本当、フィーノは何時まで経っても甘えん坊さんなんですから……ふふふっ」


 ふたりで寝るには十分な大きさのベッドが部屋の中央に置かれて居る。ふたりはベッドに横たわると互いに見つめ合う。


 フィーノが《主さま》と呼ぶ黒髪の女性に寄り添うようにして更に女性へと身を寄せた。


 「むぅわっふぅ~」


 「ちょっと……フィーノ……ダメよ」


 少し艶っぽく黒髪の女性は声をあげた。


 フィーノのはたわわに実った(・・・)女性の胸部に顔を埋め、左右にと顔を動かす。


 一〇歳程の児童と変わらぬ体躯のフィーノ。そんな幾ら小さい頭部と言えど、いとも容易く豊満な胸の中へと彼女の頭部は、みるみる埋もれて行く――。


 「あんっ……ちょっと……言う事を――」


 「むふふっ! だぁって、昼間の寂しかった時間を今、取り返したかったんですからねっ!」


 「寂しい……? あんっ!? ちょっとくすぐったい……からやめ……」


 フィーノのが動く度にくすぐったそうな叫びをあげる女性。徐々に顔が赤らんでくる。照れ、恥ずかしさ、それと少しばかりのえもいわれぬ感覚(・・)


 言葉と共に漏れる、艶やかな吐息――。


 部屋の橙色(オレンジ)の照明に照らされより一層、女性の顔が温かみを帯びて見えてくる。


 「何時からフィーノは……あんっ……こんなにも悪い()になって仕舞ったのですか……あふっ!」


 「アタシは悪い娘じゃ在りませんよ! 主さまがイケナイんですよ! こんなにも美しいサラサラの長い黒髪に小さく薄い綺麗な唇。誘惑するような優しく穏やかに垂れた(まなこ)。どんな高級な生地よりもスベスベで居て吸い付くような肌……そして爆乳。そんな魅惑溢れる主さまがイケナイんですっ!」


 「――――フィーノ……」


 女性はポツリと呟くとギュッとフィーノを抱き締めた。


 「アステラさま――」


 フィーノは同じように名前を呟いた。


 「久しぶりに名前で呼んでくれたわね。嬉しいわよ……フィーノ」


 「アステラさま……アタシ……幸せです」


 少し目を潤わせアステラの顔を見つめるフィーノ。容姿だけで無く、仕草までもが正に幼子の様であった。


 「私も幸せですよ。フィーノ……貴女と出会えて、こんなにも荒廃して仕舞ったこの世界で誰よりも貴女を愛しています。私の愛しいフィーノ……」


 「アステラさまぁ……」


 互いに見つめ合うもそれ以上は言葉は交わさず、それはまるで互いの目を通して会話をしている様であった。


 ■■■


 「あらあら……フィーノったら寝て仕舞いましたか。何時も家事をしてくれてありがとう。私の側に居てくれてありがとう……フィーノ。私の大切なフィーノ」


 フィーノの小さな頭を頻りに撫でるアステラ。両目を(とろ)けさせながらも撫でる手は止まらない。


 「家憑き妖精(キキーモラ)……貴女に出会えなければ私はあの時(・・・)、全ては終わって仕舞って居たかもしれませんね。本当にありがとう愛しいフィーノ」


 「……んっ。アステラ……さまぁ――」


 寝言で彼女の名を呟くフィーノ。その表情(カオ)は幸せそうな寝顔であった。


 「ふふっ……フィーノ、貴女は今、どんな夢を見て居るのでしょうか? 私もそろそろ――」


 そう言うとアステラは、静かに目を閉じた。


 彼女が目を閉じると同時に部屋の照明がゆっくりと力を失うが如く、明かりが徐々に弱くなる。


 暫くして部屋は暗闇に覆われ、静寂が訪れる。


 窓の外から何者(・・)かが徘徊する、不規則な足音だけが静寂に紛れて木霊する。

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