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民意に汚染された街 4 完結

「結論から申し上げましょう。貴方は、街全体の"民意を汚染"していますね? 正確には、大規模に市民を"洗脳"していると、申し上げればいいかもしれません」


 ニコラスは驚いた様子でアーロンを見た。

「貴方の言うことがサッパリ分かりません……」


「そうですか。この先ほどお見せしたαと呼ばれる物質。実は幻覚作用があるんです。ある実験では洗脳にも成功したとか。これが街のありとあらゆる水に溶けているのが現状です。……この物質は自然生成されるものでは無いため、何者かによって意図的に街の水に混入されたというのが、有力な説だと私は考えています」

「……」


「では、誰が何のために、そしてどのように混入したのでしょうか。これを、僕たちは"貴方"が"票稼ぎ"のために"とある方法"でやったのではないかと推測しています」

「わ、私だと言いたいのですか? 安直な考えも甚だしい。な、何を証拠にそんなことを」


 心持ちだが、ニコラスの話し方に変化が現れた。少し動揺をしたニコラスを、アーロンは見逃すはずがない。

 アーロンの推理がここで確信へと変わる。


「では、順を追って説明しましょうか。貴方は様々な商売に手を出されていて、財産がある上に、地学にお詳しいようですね。あの街は海と山に挟まれた地形上、特殊な環境です。あのような地形の場合、海から流れ込む潤った空気が背後の高い山々を越える前に、その水分を殆ど落としていくため、おのずと山の手前の地域は雨が降りやすくなるんです。今回のあの街も同様のことが考えられます。即ち雨がよく降る街なんです」


「雨と街に何の関係があるのですか?」


「関係、大ありです。……ふふっ……貴方は無知を装うのがお得意のようですね。クラウドシーイングという言葉に心当たりはありませんか? 人口的に雨を降らせる方法です。湿った空気に雨の素を与えるだけで、雲ができ、雨を降らせることが出来るんです」


「私が雨を降らせているとでも言いたいのですか? 馬鹿馬鹿しい」

「そうですね。雨を降らせるどころか、もっと壮大なことをされているので、こんな説明馬鹿らしくなってきますよね。そう……奇遇にも、飛行機での偵察の後雨がよく降っていたという情報を得ました。貴方は空の偵察と称して、上空にαを散布させたのではないでしょうか?」

「なっ……!? 」


「雨の種として、αを使用すれば、街の広範囲にαを混入した雨を降らせることが可能です。雨水はやがて川や井戸に。水以外にも、人々がその雨水を吸った作物を口にする機会も増え、無自覚の内に体内に摂取させることが出来るでしょう。しかも、雨の多い地域なので人口降雨を疑われもしない。おまけに、山が雨雲の拡大を防いでくれるんですから、影響は街だけで済みます」

「……」

「海上にある浄水施設。あれはαを分解して、海洋に流す役目を担っているのではないでしょうか? 街の外にαの存在を知られないように、証拠隠滅に施設を作ったのですね。海洋汚染の原因は、工事排水や生活水ではなくαということなのです。環境汚染にかこつけておけば、疑いようがないですからね」

「……」

「空の偵察に関しても、偵察ではなくαの散布をしていただけでしょう。確かに監視の役目もありますが、多くが雨の前に飛行していたのであれば、αの説は十分説明ができるでしょう」


 急に口数が減ったニコラス。口籠もりながらも一応反論はしてきた。


「……し、しかしだ。君の言っていることは全て仮説でしかない。証拠がないじゃないか」


「と、おっしゃると思いまして、こちらで証拠を集めておきました。デューイ、こちらに」


 アーロンは再びデューイに荷物を持って来させた。


「これは国からの極秘任務として、調査にご協力いただきました、貴方の周囲の人間からの調書と証拠品です」


 そう言うと、アーロンは机の上にデューイから受け取った資料や証拠品を並べていった。


「まずこちらは、偵察機からの証拠です。パイロットから回収したα現物と、機体に付着していたα。参考にαが付着していて且つ品番が記載されている部品もお預かりしてきました。何人かのパイロットに、αの散布を強要されたとの証言も取っています。弱みを握って実行犯にさせるとは、貴方あくどいことをしていますね」


「そ、それは……」


「さらに、こちらは浄水施設の物です。こちらも職員の証言と、秘匿されている情報。α分解装置の写真と、付着していたα含め複数の物質です。それと……」


 アーロンが目配せすると、待っていたかのようにデューイの合図で数人が入室してきた。


「か、彼らは?」

「あの街の市民です。実はですね、今回は実験に参加した方々にも来ていただきました」

「実験だと?」

「はい。αの影響実験です。αを体から完全に抜くため、しばらく街以外の水や食べ物で生活していただきました」

「……!?」


「そしてなんと、驚きの結果を得たのです。皆さん、頭の中にもやがかかった状態だったが、最近はスッキリしたと言い。ほぼ100パーセントの確率で、ニコラスさんの悪評を言い始めたのです」


 アーロンが嬉しそうに伝えると、市民達は同意するように頷き、洗脳の存在を認めた。


「さて。……と言う訳で、洗脳で票を稼いでいた事実が発覚してしまいました。証拠は揃いましたが、まだシラを切る余裕はお持ちですか?」

「……」


 アーロンがニコラスに迫ると、饒舌だったニコラスは何も話さなくなった。


「貴方は議員の地位を得るため、有り余る資産を使い、あの街を利用することにしたのですね。はなからαを使用する前提で、条件の整ったあの街に目をつけたのでしょう」


 沈黙するニコラス。何かを必死に考えているようだ。アーロンはデューイに、控えていた警官達を部屋に入れるよう指示する。

 警官達は入室すると、ニコラスを警戒するように取り囲んだ。


 警官達に気付いたニコラスは驚いて周囲を見渡し、アーロンに問うた。


「……これは、私に否定する余地は与えられていない、ということでしょうか?」

「否定するもなにも、事実に変わりないでしょう? それに今、必死に逃亡策を考えておられたようですし」

「……ははは。そうですかそうですか。貴方がそこまで周到だとは」

「はい。これが仕事ですから」


 アーロンが微笑むと、ニコラスは大きくため息をついた。


「…………負けました。ここまで全て暴かれるとは思っていませんでしたがね」

「ニコラスさん、罪を認めるんですね」

「……はい。いやはや、やはり貴方にはかなわないですな。アーロン殿、貴方に目をつけられた時点で、警戒をするべきでした」

「そもそもこんな罪を犯さないでいただきたかったですね。平和な街を脅かした罪は、非常に重いです。さて、自白もいただいただきところで……これから貴方を警官に引き渡します」


 アーロンが合図すると、デューイや警官がニコラスを拘束。ニコラスは少し悔しそうな顔をするも、諦めもあるのか素直に従った。


 連行されるニコラス。最後、部屋を出る間際に、アーロンにこう声をかけた。


「そういえば、噂によると中央では複数の役職を掛け持ちしている、特殊情報課の頭の切れる人間がいるそうですな。もしや、その人は選挙管理委員会に紛れ込んでいたりしませんか?」


「さて、私には分かりませんね」

 アーロンは、そう言うとにっこりとほほ笑んだ。

ありがとうございました!


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