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民意に汚染された街1

推理系に感化された勢いで執筆したところ、短編でも長編でもない長さの作品になりました。

 アーロンは選挙管理委員会の一員として、とある街に来た。


 実はこの街の市民、国内でも珍しく、全有権者が満場一致でニコラス議員に投票をしているのだ。それも近年連続してだ。


 なんでも、ニコラスへの支持率は高く、市民達は口を開けば議員を褒め称えるらしい。投票と共に行われた出口調査では賛美の声しか集まらなかったそうな。

 しかし最近、政府中央ではこの現状について疑問視する声も出始めている。


 主たる原因は意見の矛盾だ。

 不思議なことに、街を出た者は議員の悪評をこぞって唱えるらしい。知見を深めた故の意見なのか定かではないが、現状街の内と外での評価に大きな矛盾が生じている。


 また、そもそも満場一致での投票結果は珍しい。大抵一票は反対か無効票などが混じるものだ。


 これらの状況を踏まえると、投票結果はあまりに不自然な印象を与えるため、選挙結果の不正疑惑が浮上。中央から選挙管理委員会であるアーロンが秘密裏に招集された。


 アーロンへの今回の依頼は、ニコラス議員の選挙結果不正疑惑の調査だ。一任されたアーロンは、直ぐ例の街に出発した。


◇◇◇


「おい、アーロン。ここが例の街か? 着いたみたいだが、やけに気味の悪い街だな」


 アーロンの横で、同行しているデューイが呟いた。デューイは軍所属で、今回は補佐兼護衛としてアーロンの付添人を担っている。少し短絡的な性格だ。アーロンが思慮深く温厚な性格の為、今回は正反対の2人での任務となる。ただ、普段から付き合いのある2人であるため、バディーとして適任との人選だ。



「地図ではここが例の街だ、デューイ。確かに思っていたイメージとは違うね」


 アーロンが地図を確認しつつ、首を捻った。


 例の街に到着はしたらしい。

 ただ、2人が目にした街は、事前資料として与えられていたイメージとはかけ離れていた。


 一言で述べるならば、「活気が無い」だろう。


 事前資料には、周囲を山と海に囲まれたこの街について、「ニコラス議員のおかげで市場は発展し、港の改革や軍備での安全強化を行ったため、活気ある街へと進化。人々は心身ともに豊かな生活を送っている」とある。


 しかし、2人が目にしたものはまさに正反対と言える環境だった。

 市場は発展どころか、何軒か店が存在するだけでギリギリを維持しているように見える。港は確かに最近建設されたであろう施設が立ち並び、整備された痕跡はあるが船が行き来している様子はあまり見受けられない。さらに、軍備での安全強化に至っては、山にそれらしい施設が見えるだけであった。


 事前資料が参考にならないと、一目で分かる有様だったのだ。


 山と海に囲まれた街故に、街全体が閉鎖的である。良い意味では街で生活が完結できるが、悪い意味では人や情報が流動しない。中央でさえもこの街の情報が入りづらい状況だったのだろう。

 その為、限られた情報で組み立てられている事前資料と、実際とで齟齬が生まれてしまったのかもしれない。


 自分達の持つ資料が役に立たないと知ったアーロンは、大規模な調査を行う前に自ら情報収集をする作戦に切り替えた。


 まずは街の住民から、現状の街や生活について聞き込みを行う。

 ただの旅人を装い、何気ない会話から街の様子を伺ってみる。何人か声をかけると、この街の実状が段々と見えてきた。


 アーロン達が最も興味を持ったのは、人々の様子だ。街自体に活気はないのだが、人々はとても楽しそうで希望に満ち溢れていた。会話も明るく、充実していることがよく分かる。

 

 ただ、アーロン達にはこれが、「気味の悪い活気」に受け取れた。


 何故なら、全身痩せこけたり、疲労が漂うような人物でも、目はギラギラと光り希望に満ちた目をしていたからだ。

 そして、面白いことに皆口を揃えてニコラスの偉業を褒め、「ニコラス様のおかげで暮らしが保障されている」などと言う。


 こぞってニコラス議員に投票する傾向から、現状の街に満足している者が多いのは知っていたが、これほどまでかとアーロンは感心した。きっとニコラスが街の希望として市民に活力を与えているのだろう。市民の外見と発言のギャップに驚きつつも、街におけるニコラスの存在大きさを知ることとなった。


 さらに、並行して街の現状についても情報を得た。

 どうやらアーロン達の予想以上に街が閉鎖的なようだ。

 基本的に街を出る際には許可が必要な上に、山側の門を通る必要があるため街を出る者はほとんどいない。なんせその山も2・3000メートル級の山脈が広がるため、中々挑戦をしようとは思わないだろう。


 今回、アーロン達は国からの派遣の為、珍しく海から訪問をした。しかしその海も大洋に面しているため、時化で危険を伴う恐れがある。港の整備も遅れており、船の往来が困難な様子もある。

 このように、閉鎖的な環境へと繋がる要因が、いくらでも見つかったのだ。


 そして、街自体には現状二つの改善された課題があるとも分かった。


 一つ目は、閉鎖的な環境であるが故の、治安の維持だ。有事の際に別の街に助けを求めても、地形の関係から救助は難しいだろう。その為、街は自らの安全は自らで守ることを強いられるのだ。現在、ニコラス指示の下、軍備として山上にある基地から不定期に偵察機で上空から街を監視しているらしい。


 二つ目は、環境汚染だ。過去に汚染された生活水が海水に流れ出し、漁業に影響があったとの話。このため、こちらもニコラスの指示の元、浄化施設が港に設置された。初めに見た港の風景はこの浄化施設のものだったらしい。

 資料とかけ離れた現実に訪れた直後は驚いたが、これでもニコラスのおかげで改善された方だったようだ。


「へー、あのオッサン、この街でいろいろ新しいことやってたんだな」

 デューイが呟くと、アーロンが調査結果を見ながら頷いた。

「そうだね、この街の環境を的確に把握した上で、対策を講じている。素晴らしい功績だ」

「なるほどなー。自分達を理解してくれる上に、対策もしてくれる。だから市民の中で、ニコラス議員の株が爆上がりしてるってわけだな」

「これなら、本当に投票で満場一致で信任を得るのも、可能性としてはあり得るね。あとは、票の記録を確認するくらいかな。今回の任務は早く終わりそうだ」

「もう決着がつきそうなのか?あーあ、くそつまんねぇ仕事だぜ」

 デューイは気乗りしないらしく、大きく伸びをした。戦闘職種のデューイには少しつまらなかったらしい。


「平和で良いじゃないか。……でもデューイ。つまらないと言いながらも、君は楽しそうだけどね。いい加減横で食べるのを止めてくれないか?」

「おう?」

 デューイの手には街で購入したであろう果物が、沢山収められていた。

「先程から咀嚼音が聞こえるのだけれど。真面目な話なのだから、こんな時くらい食べるのは控えてくれないか」

「だって、せっかく珍しい街に来ているんだ。ついでに食うくらい良いじゃないか。任務は遂行してるし、大目に見てくれよ」

 アーロンの注意を全く聞く様子もないデューイ。アーロンは上手く言い返すとこができず、大きくため息をついた。


◇◇◇◇◇◇


 街での聞き取り調査が終わり、アーロン達は街の選挙管理課を訪れた。

 実際の選挙記録を確認する為だ。


 職員に国からの隠密調査の旨を伝えると、職員は協力を渋りはじめた。事前告知の無い急な訪問に加え、職員もニコラス議員の熱烈な支持者らしく、議員の不正疑惑を伝えたアーロン達に良い感情を抱かなかったらしい。しかし、こちらも任務遂行には正確な調査結果が必要だ。アーロン達としては、事前に告知し証拠隠滅をされる恐れがあるため、突然おしかけざるを得ない。


 どう説得しようか悩んでいた矢先、デューイが口を開いた。

「いくら素晴らしい功績を残されたニコラス様とはいえ、中央に潔白を証明するには材料が必要です。皆で正当さを証明しましょう」


 その手があったかとアーロンは思った。やや議員寄りの発言ではあるが、この発言が職員を納得へ導いたらしい。無事調査に協力してくれることとなった。

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